18.SRランク冒険者、全員集合
「で、なんであんたたちもいるのよ?」
クロスとアオリは、王宮へとやって来た。
集合場所の部屋で待っていろと、国王の部下に言われたので、部屋へと向かうと、見知った顔があった。
「我達も、呼ばれているからな」
椅子に座り、本を読んでいるこの白銀のロングヘアの人物は、「シロッコ」と言う名だ。
SRランク冒険者の内の1人であり、自身で小説も書いている程だ。
基本的に静かな人物なのだが……。
「あれれー? なんか凄いメンツだね! これでSRランク冒険者全員揃っちゃった系!?」
いつも元気で明るい性格は、その髪色にも表れている。
クッキーをボリボリと食べている、テンションの高い赤髪ショートヘアのこの人物は、名を「ミアカ」と言う。
ミアカも、SRランク冒険者である。
(何々!? 何が起こるの!?)
クロスは思わず、身構えた。
SRランク冒険者全員が集められるなんて、ただ事ではないハズだ。
「ミアカちゃん、また食べてるけど、よく太らないね☆」
「うん! 私太らない体質だからね! ふぅ、食べたらなんだか眠く……」
アオリが言った後、ミアカは自身の体質を自慢し、秒で眠りについた。
「相変わらずマイペースね……」
緊張感の無さに、クロスは軽く呆れた。
「本当にミアカちゃんはよく“食べる”し、よく“寝る”し、よく……」
アオリは言おうと思ったことを、最後まで言えなかった。
「がはっ!」
「美しくない……」
理由はそう、シロッコが右手でアオリの首を掴み、体ごと壁にめり込ませてしまったからだ。
先程まで座って本を読んでいたというのに、物凄いスピードである。
「ちょっと! 何してるの!?」
クロスは思わず、シロッコに叫んだ。
一体、シロッコは、なぜアオリに対して怒ったのだろうか?
「我は下品なのが嫌いでね」
「下品……?」
「そうだ。こいつが下品なことを口走りそうになっていたようだったからな。事前に止めてやったまでだ」
シロッコは美しい物が大好きだ。
反対に下品な存在は嫌っている。
だが、一体先程の発言のどこが下品な発言に繋がりそうだったのだろうか?
(意味不明だわ)
クロスは頭を悩ませた。
結局、なぜ怒ったのかは、本人にしか分からない。
小説を書いているということもあり、想像力が豊かであろうシロッコは、おそらく何かを勝手に想像してしまったのだろう。
「まぁ、いい。今度から気を付けるんだな」
そう言うと、シロッコはアオリを手放す。
アオリがそのまま、床へと倒れる。
「だ、大丈夫!?」
クロスは慌ててアオリの元へと駆け寄る。
「だ、大丈夫……! あは☆」
強がってはいるが、首を押さえ、ゲホゲホとせき込んでいる。
「あんまり、気にするんじゃないわよ?」
「う、うん」
クロスはアオリと小声で話している。
「ちなみに、さっきなんて言おうとしたの?」
「えっ? よく“食べる”し、よく“寝る”し、よく“笑う”って言おうと……」
「全然下品じゃないわね? 笑うのはいいことじゃない!」
だが、反論したら何をされるか分からないので、2人共、椅子に座って大人しくすることにした。
「SRランク冒険者の皆様、時間です。王の
「今我は本を読んでいるのだが……貴様はそんなことも分からないのか?」
国王の部下が呼びに来たので、クロスとアオリは立ち上がる。
そして、ミアカを起こす。
そんな中、シロッコだけは読書を中断され、機嫌が悪そうであった。
「5分待て」
国王の部下は体をビクッとさせる。
「はい。5分待ちます」
「それでいい」
結局、クロス達も5分待つことになった。
「遅かったではないか」
5分後、部下はSRランク冒険者を連れ、王の間へと向かった。
そこには金髪で上品な国王がいた。
若い頃は美人だったというのも納得の上品さだ。
「申し訳ございません……。では、私はこれで」
極秘の話なのだろうか?
部下はどこかへと去っていった。
「う~ん、このスコーンはやっぱり最高だね! むむっ! 王様がこっちを見てる!? だーめ!! 国王様にも、あげません!!」
国王の前でスコーンを食べる、ミアカ。
床にボロボロとスコーンの食べカスが落ちる。
「……フッ! ハッハハハハハハ!! アーッハッハッハ!!」
相変わらず本を読んでいて、王様の方を向こうとしない、シロッコ。
先程まで静かだったのだが、笑えるシーンを読んだのだろうか?
口を大きく開け、大爆笑している。
(本当、高そうなものが沢山ある部屋ね! どうにかしてこっそり持ち帰りたいわ!)
そんな中、クロスは1人企んでいた。
思わず、天井を見ながら、ニヤニヤしてしまう。
売ったお金で、どんな剣を買おうか?
「国王様、お呼びいただき、ありがとうございます! なぜ呼ばれたのか、心当たりはありませんが、私達、お役に立ちます!」
アオリは真剣な眼差しで、国王に片膝をつき、かしずく。
「うむ! 他の者も……まぁ、せめて耳だけでも傾けてくれ。お主達を呼んだ理由を簡単に言うぞ? ……【剣聖】コスモをここへと連れて来てくれ」
(コスモを!?)
クロスは体に力が入る。
(コスモ……殺す!!)
あの時の屈辱を思い出してしまう。
「なんでも、【剣聖】を獲得しただけではなく、更にはクロス殿を倒したというではないか。今まで無名だというのに、あり得んことだよ」
(ぐぬぬ……!)
国王も知っていたようだ。
おまけにこの評価、最悪だ。
「コスモを殺せということですか?」
クロスは国王に言った。
「殺す!? とんでもない! 魔王を倒すのに協力して貰うに決まっているだろう!」
「そ、そんな!?」
「それに、君がコスモ殿を殺せると?」
「こ、殺せます! というか、殺します!」
「……駄目だ。コスモ殿は必要な存在だ。魔王を倒す為。そして、何より私にとっても……大切な……」
国王は最後まで言わなかった。
何だろうか?
実はコスモが自分の子供だとでも言うのだろうか?
いや、おそらく違うだろう。
だったらもっと早くコスモを探していたハズだ、それに、隠す意味が不明だ。
「とにかく、頼んだぞ? そして、このことは他言無用でお願いする」
「他の冒険者達には、協力はあおげないってことですね?」
「うむ。極秘で行っていく必要がある。後、なるべく早めにお願いする! 是非、皆で協力して、一刻も早くコスモ殿を連れて来てくれ!」
大きな声で、国王はSRランク冒険者の皆に命じた。
「ん?……今、我に命令したな? これでスキルが発動可能になった……この意味が分かるな?」
シロッコは本を閉じ、ニヤリとした。
(そういえば、こいつのスキルは……!)
クロスはゴクリと唾を飲み込んだ。
シロッコのスキルは、命令して来た相手を命令して操れるというものだ。
国王もそれを知っているのか、顔をしかめ、黙る。
「ふざけるな! 皆で協力しろだと? よくもまぁ、偉そうにそんなことが言えるな! 何様のつもりだ!! どうせ、そのコスモとか言うのも、貴様のコマの1つに過ぎないのだろう? 今の我々のようにな!!」
シロッコは、ぶちギレた。
ただ王様としてお願いしているだけだろうに……。
(そういえば、シロッコはスキル以前に、他人から命令されるのが、大嫌いな性格だったわね……)
だが、これは国王に向っての口の効き方ではない。
国の最終兵器でもある、SRランク冒険者でなければ、速攻牢獄行きだろう。
「だが、個人的には、コスモとやらには興味がある。脳筋とはいえ、ここにいるクロスを負かしたのだったら、そこそこ楽しめそうだ」
そう言うと、一足早く、シロッコは王宮を出た。
「確かに! 楽しそう! よーし!」
ミアカは、スコーンを全て口に入れて飲み込む。
「私もやっちゃうよー! コスモちゃんとは、友達にもなりたいしね! 王様、任せてね!」
ミアカは国王に敬礼をすると、外に飛び出していった。
「では、私も行ってきます」
「ちょっと待ちなさい」
クロスも出て行こうとしたら、王様に呼び止められた。
(何? 一刻も早く、コスモを殺したいのに!)
結局、宝も盗めなかった。
となれば、さっさとお金を稼ぎにギルドへ行くしかない。
「これを持って行きなさい!」
「重!?」
大きな縦長の岩であった。
「こ、これは何ですか?」
「うむ! 時が来ると封印が解け、持ち主に最も合った武器が中から出て来ると言われているものじゃ!」
「そ、そうですか」
時っていつだろうか?
そんなことを考えながら、岩をヒモで背中に巻き付ける。
良いトレーニングにはなりそうだ。
(悪いわね、アオリ。私はコスモを殺さなくちゃならないの! だから、一旦お別れよ!)
そう言うと、クロスは外へと走った。
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