10.ヨシムラさんは少し変人?

☆ユリside


「なーんて、うっそー♪ 冗談だよ、冗談♪」


 ユリの今の状況。

 どうなっているのかというと、死んでもらう発言の後、片手で首を掴まれ、そのまま軽く壁にめり込まされていた。

 あまりにも素早い動きだった。

 というか、あんなにフレンドリーだったはずなのに、切り替えが早すぎだろう。


 今は手が離され、そのまま床に倒れている。


「ちょっと! な、なにやってるんですか!?」


 コスモがユリの体を支えに来る。


「え? なにって、急に帰るって言うものだから寂しくなっちゃってね♪ でも冗談だから許して♪ でも、このまま帰っちゃうんだったら、冗談じゃなくて本気になっちゃうかも!?」

「なんですかそれ……あなた、一体何者なんですか!?」

「私? 私はヨシムラ! 地球育ちの地球人だ! なんてね、えへっ♪」

「えっ? 人間じゃないんですか? と、とにかく、ヨシムラさん? 悪いですけど、あんなことするなら本当に帰らせてください」

「それはいけないね~」


 ヨシムラと名乗る人物は、刀を取り出した。


「このまま帰るなら、これで斬るだけだから♪ 死にそうになっても安心して! 回復アイテムは沢山あるからねん♪」


 ヨシムラは、少し狂っているのかもしれない。

 ユリはドン引きした。


 そして、コスモはユリから離れ、ヨシムラの視線の先に立つと、魔剣を抜いた。


「スキル【剣聖】……確かにかなり強いスキルだけど、本来ならば誰かの引き立て役にでもなってそうなスキルだね、面白い!」

「私のスキルがバレた!? どうして!? 鑑定系のスキル……?」

「違う違う、眼を改造してるんだよ♪」

「眼を改造……」


 コスモもドン引きしているようだ。

 どのように改造しているかは分からないが、失明が怖くはなかったのだろうか?


 そもそも、改造で相手のスキルを読み取れるようになるものなのだろうか?


「さくっと行くよ~」


 ヨシムラが物凄い速度で、コスモに襲い掛かる。

 これもアクセサリーとやらの効果なのだろうか?


「おお! やるねぇ!」


 コスモがそれを魔剣で受け止めると、ヨシムラは嬉しそうな声を上げた。


「君ももっと本気を出しなよ! さぁ!」

「本当は、できる限り人間相手に攻撃はしたくないけど……仕方がない」


 次の瞬間から、コスモとヨシムラの剣同士が、何度も何度もぶつかる。

 地上に限らず、壁を蹴り、空中でも、何度も何度もぶつかる。

 金属がぶつかる音は聴こえるが、目で追うことは不可能であった。


「動きが、見えない……」


 何て次元の高い戦いだろうか。

 こんな動きが目で追えない程の戦闘を見たことがない。

 ユリは闘技場で、冒険者同士の試合を見に行ったことが何度かあるのだが、それの比ではなかった。


 そして……。


「いったああああああああああああああああああああいん♪」


 ヨシムラの叫びが響き渡る。

 決着がついたようだ。

 ヨシムラは床に軽くめり込んでいた。

 コスモの一撃を、空中から叩き込まれたのだろう。


「勝負あったね」


 コスモがヨシムラを見おろし、言い放った。


「うぅ、ひっどおおおおおおおおおおおおおおおおおおおいん♪」


 参ったの意だろうか?

 ヨシムラは起き上がろうとはせず、その場で叫んでいるだけであった。



☆コスモside


「いや、ヒドイって言われましても……私もできればこういうことしたくなかったですよ」


 本音である。

 そもそも向こうが斬りかかってこなければ、コスモだってこんなことしようとは思わなかった。


「だって、帰ってほしくなかったんだもん……」

「やり方ってものがあると思います」

「まぁ、そこは反省するよ♪ いたたた」


 ヨシムラが腰を抑えながら立ち上がった。


「これはしばらく腰痛かもねぇ~♪」


 「いやぁ、参った参った!」とでも言いたげな表情で笑うヨシムラ。

 コスモは実際にこういう性格だからまだしも、コスモが仮に頭に血が上りやすい性格であったならば、殺されていてもおかしくはなかった。

 それなのに、どうしてここまでヘラヘラしていられるのだろうか?

 少々不気味である。


「ま、それはともかく、どうだい? お茶でもしてかないかい?」

「え?」


 切り替えが早い。

 怪しすぎる。

 だが、これで断ったら、また面倒になる可能性もある。


「いいですけど、変なもの入れないでくださいね?」

「い、い、い、い、いい、いいいいいいいいい!? 入れないよぉ! そんなもの!! ちょっと失礼なんじゃないの!?」


 ヨシムラが発現した次の瞬間、ユリがヨシムラの元へ近付く。


「コスモさんは優しいから強く言えないと思いますけど、疑うのは当然だと思いますよ? 私だって、さっき攻撃されましたし、コスモさんにも襲い掛かってたし、正直怪しすぎます!」

「おお! 言うねぇ! ……う~む、確かに君達の言うことも一理あるかもしれない!」


 ヨシムラはうんうんと頷くと、軽く頭を下げた。

 そして、指をパッチンと鳴らすと、床からテーブルと椅子が出現した。

 どういう仕組みなのだろうか?


「ささっ! 座って♪ 今色々と準備するからね♪」

「あ、私手伝います」

「おお! ありがとうねん♪」


 コスモは1人椅子に座って待つ。


「お待たせ♪ こちらがクッキーと紅茶です♪」

「おお! 美味しそうです!」


 非常に美味しそうだ。

 いただきますの合図で皆がクッキーを食べ、紅茶を飲む。

 ユリが見張っていたので、毒は入れられていないはずだ。

 実際に体に異常はなく、美味しかった。


「さて、じゃあまず改めて自己紹介しようか?」

「そうですね」


 ユリは名前だけ名乗った。

 コスモはスキルもバレているので、正直に【剣聖】とも名乗る。


「コスモちゃんのは本当に強いスキルだ。羨ましいね♪ ってあれれ? ユリちゃんはスキルがないんだね」

「あ、はい……。実は教会にも行って、それでないと言われて実家を追い出されて……」

「それは珍しい♪ かわいそうに……辛かったね♪」

「いえ、辛くはありません!」

「ほう、それはなぜかな?」

「私を認めてくれた人がいますから!」


 ユリはコスモを見る。


「へぇ、そうかそうか! いやぁ、いいねいいね! ……コスモちゃん?」


 ヨシムラはコスモにウインクをする。


「スキルを持たないから役立たずとか言って、捨てちゃ駄目だよ?」

「そんなことしませんよ!」

「それなら良かった。そんなことしたら多分、死ぬか死ぬより辛い目に合うからね?」

「いやいや、だからそんなことしませんし!」

「はっはっは♪ 冗談だよ♪ さて、それじゃあ私の自己紹介をしようか。私の名前は、ヨシムラ。地球育ちの地球人」


 地球人……戦闘の時も言っていたが。


「人間ではないんですか?」

「人間だよん♪ ただし、ここから100万光年離れた地球って所からやって来た人間だよ。君達にとっては、そう、宇宙人だね」

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