第6話 嘘つきの告白
「好きだ」
唐突に放たれた言葉に、僕は自分の耳を疑った。
「お前のことが好きだ」
僕に向かってそんなことを言ったのは男で、僕も男だ。
配信開始されたばかりの映画を、朝早くから一緒に見ていた時だった。どちらも一糸纏わぬ姿のまま、男二人が寝るには少し狭い、僕のセミダブルのベッドの上で。
中学、高校と六年間、僕たちは一緒に過ごした。大学は別々だったけど、成人式で再会し、連絡先を交換した。その日から僕たちは週に一度のペースで会い、飲みに行くようになった。
大学を卒業して社会人になっても、その関係は途切れることなく続いた。仕事が忙しくなっても週末には必ず会い、時々どちらかの家に泊まることもあった。。
ある日、いつものように飲みに行ったあと、僕たちはホテルに入って体を繋いだ。
なんでそんなことになったのか、細かなことは覚えていない。飲んでいる時に意地の張り合いのような状態になり、そのままの勢いでホテルに向かったのは覚えている。
あれから五年、僕たちの爛れた関係は今でも続いている。
僕は、この男のことが好きだった。
抱かれたい、抱いてほしいと思っていた。だから後悔はしていない。でもコイツは……。
自分を後ろ抱きにしている大きな手に、自分の手を重ねてそっと撫でさすると、男の指が僕の指を絡め取った。指と指の間をくすぐられ、それだけのことなのに下腹部のあたりが疼き始め、なんとも言えない気持ちになった。
男が僕の名前を耳元で囁き、僕の顎に指が掛かかった。男の顔がゆっくりと近づいてくる。形のいい唇があと少しで触れる距離になった時、僕はあることに気づいてしまった。
手のひらで男の唇を押し返し、僕は体を起こして男に向き直った。
「エイプリルフールだからって、僕は騙されないからな」
そういうと、
「お前知らねえの?」
と、男はわざとらしくキョトンとした顔をして言った。
「……なにをだよ」
なんとなく馬鹿にされたような気がして、ムカついたのを隠さずに答えると、枕元の時計を指さしながら男が言った。
「エイプリルフールで嘘ついていいのは午前中だけだって」
それくらい知っている、と言いながら時計を見ると、昼の十二時を十分以上過ぎていた。
「あ……」
「んじゃ、もう一回言っとくわ」
男がモゾモゾと動いて僕を組み敷くと、真剣な顔をして言った。
「俺は、お前のことが好きだ」
「……信用できない。お前は昔からすぐ嘘をつく、嘘つきだから」
この男は、女の子になんか興味ないとか言うくせに、カノジョが途切れたことはなかった。
この男に呼ばれて家に行き、鍵は開けてあるから入ってこいと言われて部屋のドアを開けると、いたしている最中だったことが何度もある。呼ばれるたびに今度もそうだろうと思ったし、行くのをやめようと思ったこともある。
それでも僕は、会いに行くのをやめなかった。
なぜなら、僕はこの男に会いたかったからだ。顔が見られればそれでいいと思ってた。
「お前の言うことなんか信じない」
「じゃあ、信じさせてやるよ、俺がどれだけお前のことを思ってるか」
低い声で唸るように男は言うと、僕の両脚を抱え上げ、熱く逞しいものを僕の後ろに突き立てた。
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