イワトビーの長老 -2-
「まさか、長老だったとは……。いったい、いつから入れ替わっておいでで?」
これまでほとんど会話はイワトビーA、Bに任せきりだったC。
しかしどうやら、普通に口が利けるようだ。
「うむ、少し前にな」
長老は落ち着いた様子で長いあごひげを撫でている、付け髭の。
「お、おしりの調子はいかがですか」
「見ての通りだ」
「……よかったですね、もうトイレから出られるんですね」
「しばらく籠っておったが、腰を浮かして歩けるようになるまでは回復した。まだ、多少、日常生活に支障はあるがな」
「そうでしたか。でも、そこまで回復されたのですね。わたくしども皆、長老のことを心配しておりました。無事、自由になられて、本当によかったです」
「イワオ」
「はい、なんでしょうか、長老」
イワトビーCの名は、イワオというらしい。
「痔というのはだな、絶えずずっと痛いというわけではなく、波があってな。こう、スッと楽なときもあるのだ」
「へえ、そうなんですね」
イワオは長老が何を言わんとしているのかわからないので、惚けた顔をして、聞いている。
「その痛みがやわらいでいるときに、様々な思案を巡らせたり、または指示書を書いて、トイレのドア下の隙間から、付きの者に差し渡すことも可能なのだ」
指示書はトイレットペーパーにでも書くのだろうか、バッチいな、と思ったが、イワオはあえてそこには触れないでおくことにした。
「波がおだやかなときは、案外色々なことができるものなのですね」
「そうだ。それこそ時間は膨大にあるからな……。それでわしは、もとはただの黒いペンギンであったはずのブラックペギーが、なぜあのような暴虐非道な行いをするようになったのか、じっくりと考えてみたのだが」
「なぜって、子供の頃にいじめにあったせいで、性格がひん曲がってしまって、だれかれ構わず復讐しようとしているからでしょう。あんな奴、三角コブばかり膨れた、泳ぎもできない最低で最悪な輩です。子供だったあいつが、ヒョウザリン山に初めて姿を現したときに、長老の指示通り山から追い出していれば、今頃こんなことにはならなかったのです。それを馬鹿な大人たちが、かわいそうだなんだって、あいつを山に置いておくことにしたから、今、このザマですよ」
イワオは心底腹立たしそうに、雪地にペッと唾を吐き飛ばした。
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