イワトビーの長老 -1-
「ブリザガード」
上空からふたたび、風の刃が飛んできましたが、何度同じ攻撃をされたところで問題ありません。
氷の防御魔法の前では、ソニックブームなどかんたんに跳ね返して見せます。
「ところで眼鏡のフレームだけかけた変態チックのお姉さん。お姉さんは炎の大魔導師ではなかったのですかじゃん? どうしてさっきから、氷魔法を使ってるのですかじゃん?」
ソニックブームを跳ね返し続ける光景を横目に、イワトビーBが首をかしげています。
「それは」
「それは?」
そういえばというように、イワトビーA、Bとも、不思議そうにわたしを見つめています。
「そこのところ、気になりますか」
「おおいにじゃん」
イワトビーBは、さも胡散臭そうに、今度は大きく首を縦に振りました。
「まさか、ブリザエースのくだりがやりたかったから、何の背景もなしにブリザガードを唱えたわけじゃないですじゃんね。そもそも、炎の大魔導師に氷魔法は唱えられませんじゃん」
どうして、このイワトビーB。見て見ぬ振りをするというか、処世術を学んでいないというか、空気を読まないというか。
「そんなしかめっ面をしたところで、この場は切り抜けられませんじゃん。正直に白状しなさいじゃん。ド近眼のくせに裸眼で目も見えている、氷魔法を扱うあなたはいったい何者ですかじゃん!?」
「……フフフフフフッ。バレてはしょうがあるまい。わたしは、いや、わしは! このヒョウザリン山にいにしえの頃から住まう魔物、イワトビーたちを束ねる長老だ!」
「ちょ、長老!?」
「長老だって!?」
「そんな、まさか」
思いがけない事態に立ちすくむイワトビーたち。
炎の大魔導師ミリアだと思われた姿は、シークレットブーツや魔道ローブを脱ぎ捨て、フレームだけの眼鏡を外し、逆に長い付け髭を蓄えたら、イワトビーの長老へと姿を変えたのだった。
「ちょ、長老。女装癖にまで口出ししませんが、早くその、肩までボブカットのカツラまでちゃんと全部脱いでくださいじゃん。気持ち悪くて、目を合わせられませんじゃん」
「む、それはすまんかった」
カツラを脱ぎ捨てた今、イワトビーたちの目の前にいるのは、確かにイワトビーの長老だった。
「ま、まあ、長老なら相応の氷魔法を扱えるのには、納得がいきますじゃん。ですが、本当にお体は大丈夫なのですかじゃん。まだブリザエースが必要な状態では――」
「そうですじゃん。二十四時間トイレに籠っておいでになるとばかり――」
そのとき、辺りは静まり返った。
イワトビーA、Bとも、長老によって氷漬けにされていた。
「ヒッ」
そしてイワトビーCだけが、長老と向き合う形となった。
「あの、それで、俺様はもうギョエエエエエとか言わなくていいの? お呼びでない?」
いまだ姿のはっきりしない、霧雪に隠れる巨大な黒い三角のせつなげな声だけが、上空からこだましている。
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