炎の大魔導師 VS 黒いペンギン -8-
「ギョエエエエエエエエエエエエエ……!」
そのとき、おそろしくも気味の悪い鳴き声が、頭上から轟きました。
「今の声は――」
突如、目の前に一筋の風の刀。
「お、おばはん! 危ないペン!」
トビーがわたしの前に立ちふさがり、プニプニの脂肪を挺して、ソニックブームから守ろうとしてくれたようですが、
「ブリザガード」
心配には及びません。中間選考にすら残ることはかないませんでしたが、これでも純然たる賢いヒロイン枠のわたしです。これくらいの急襲に応戦できないはずがありません。
「ミ、ミリア…おばはん――」
「問題ありません。その脂肪が詰まったプニプニを木っ端みじんにさせるわけにはいきません。トビー、あなたは下がっていなさい。魔力を失くしたただの脂肪の塊が前に出てはいけません」
トビー。身を挺して、わたしを助けようとしてくれたことは感謝します。しかしながら、その行為は許すまじことです。
万が一、トビーを犠牲にして、わたしが助かったところで、本当にわたしが喜ぶと思ったのですか。
だとしたら、おまえは途方もない大馬鹿者です。
「お、おばは……ん」
「おばはんではなく、ミリアお姉さんです」
どうしたのでしょう。さきほどからトビーは愕然とした目をこちらに向けています。防御魔法が間に合わなくて、切り傷でも負ったのでしょうか。いや、しかし、まさか、大魔導師であるわたしの魔法に限って、そんなミスは。
「そ、そんなことよりも、おばは……。痔、だった、ペンね? それならそうと、もっと早くに言ってくれていたら……硬いとこに座る前にクッションを用意したり、なんなら最悪おれの……しぼ……。いやいや、それだけは……イワトビーの
「? さきほどから何を言っているのですか? ジとは、何のことですか?」
「ブリザエース、ペン」
「ブリザエース?」
「あんな状況下においてまで、ブリザエースのことが気がかりペンね。さっき、おばはんが言ったペンよ。さすが年には抗えないペンね」
「……」
「おばはん、まずはおしりの症状を冷静に判断することが大事だペン。肛門にいぼ状の膨らみや腫れがあるなら、内痔核で痛みは感じないはずだペン。肛門の皮膚が切れたり裂けたりしていたら、排便時に痛みがある切れ痔だペン。血がついたりもするかもしれないペン。最悪、おしりに膿みのトンネルができて化膿を繰り返すとこまでいったら、膿が原因で発熱することもあるペン。そうなったらブリザエースじゃもう手遅れペンよ。専門医による治療が必要だペン。恥ずかしがってる場合じゃないペンよ。痔には素早く的確な初手がいかに重要か――」
静かになりましたね。これこそが世界平和です。その気になれば、攻撃魔法を言葉に発せずとも、クソな脂肪を氷漬けにするくらい朝飯前です。
「……あのさ、そんなことよりも、もっとこう、次の攻撃に備えたりしないの? ねえ、こちとら、がんばってギョエエエエって言ってんだからさ……」
ふたたび頭上からせつなげな声が届きましたが、もはやそんなことは気にも留まりません。
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