イワトビーの長老 -3-
「いや、まちがっていたのはわしのほうだったのだ。ペンギン種が違うとはいえ、あの子はまだ子供だった。いや、たとえ子供でなかったとしても、ひとりきりの何の後ろ盾もない者に、辛く当たっていいはずなどなかったのだ。今は、後悔しておる。わしはあのとき、イワトビーの平和な暮らしを、このヒョウザリン山を守ることしか頭になかったのだ。黒いただのペンギンかもしれないが、得体の知れない存在が怖かったのだ」
時折、眼前の巨大な黒いコブを見上げながら、 長老の表情は暗く沈んでいた。
「違う、長老はまちがってなんかいません! 不安の種となるべき存在は、危険因子に育つ前に、追い出すべきなんです! そんなこともわからない奴らが愚かなんです! やさしさなんか、持つから!」
イワオは湧き上がる苛立たしさから、思わず唇……いや嘴の端を噛んだ。
「イワオ……」
まるで憎悪の塊を吐き出すかのように話すイワオに、長老は名を呼ぶ以外、かけてやる言葉が見つからなかった。
「教えてください。長老はどうして、忌み嫌っていたはずのブラックペンギンについて、お考えを改めるまでに至ったのですか。何かきっかけがーー」
興奮した心を落ち着けようとするかのように、一度ふうと息を吐いてから、イワオは長老に尋ねた。
「痔になったからだ」
「え! それとこれと、いったい何の因果が!?」
長老は頬をギュッとゆがませていた。その顔は、微笑んでいるようにも、泣いているようにも見えた。
「何、たいした話じゃない。痔とはな、悪化を辿ってしまうと、息をするのもつらいのだ。排便をするときなどは、地獄の苦しみだ。耐えがたきを耐えながら、便座に座り続けなければならん。わしは実に無力だった。だがな、そんなわしを、イワトビーたちは、トイレのドア越しからそっと支え、励まし続けてくれたのだ。イワトビーたちに見捨てられていたら、わしはいずれ便座に座る体力もなくし、やがて息絶えていただろう」
「そ、それで?」
「それだけだ」
イワオには、長老が何を言いたいのか、まったくわからなかった。
別に聞きたくもない汚い話を、我慢してずっと聞かされている。
……イライラする。
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