炎の大魔導師 VS  黒いペンギン -2-

 あの建築物にしか見えない黒い三角が、身体の一端だというのであれば、ブラックペギーは超巨大生物ということになります。


「驚くのも無理はないじゃん。でも、近くで見たらもっと驚くじゃん」


「コブは、最初からあったわけではないということですが、くわしく教えてもらえますか。敵の情報は多く知っていたほうが、戦闘を有利に運べます」


 イワトビーたちはしばらく、困ったように顔を見合わせていましたが、やがて意を決したように、イワトビーAが口を開きました。


「実は、ブラックペギーは、もとは我々より若干身体の大きい、ただのブラックペンギンだったんじゃん」


 ヒョウザリン山は、野山を駆けめぐる動物や、人族が暮らす村や街とは一線を画す、一年中豪雪と氷山に閉ざされたイワトビーたちの暮らす山。


 他の生物が足を踏み入れることは、ほとんどない。


 まれにあるとしたら、イワトビーの持つティア鉱石を狙ったハンターが、ときたま狩に現れるくらいで、大抵はあまりの寒さからすぐに退散する。


ところがあるとき。ヒョウザリン山に、ブラックペンギンの子供が迷い込んだ。


 いつ、どこからやってきたのか、だれも知らない。


 父も、母もいないようで、ブラックペンギンはたった一羽だった。


 イワトビーたちは皆、不安に思った。


 どのようにして迷い込んだのか、まったく説明ができなかったからだ。

 

 イワトビーの長老は、苦渋の決断で、この黒いペンギンを抹殺してしまおうと宣言した。


 きっと、このヒョウザリン山に災いをもたらすと。


 あまりにも不吉な存在だと。

 

 なんの根拠もないのに。


 だが、イワトビーの若い衆たちは、それに反対した。


 こんな、かわいいペンギンを、殺せるわけがないと。


 不吉なんかじゃない。知らない場所に突然降り立って、怖くて怖くて仕方なくて震えている、ただの黒いペンギンの子供だと訴えた。


 長老は大勢の若い衆から、残忍だ、悪魔だ、などと罵られ、どうしようもなくなり、渋々、ブラックペンギンがヒョウザリン山に滞在することを許可した。

 

 ブラックペンギンも、最初は慣れない環境に怯えていたけど、徐々に心を開いていき、いつからか、イワトビーたちと共に、笑って暮らせるようになっていった。


「い、いいお話です。受け入れを願い出たイワトビーたちに、敬意の念すら感じます」


「ミリアおばは…泣いて……?」


 予想外の反応に驚いたのか、トビーがギョッとした目でこちらを見上げています。


「鬼畜道おばさんは、もっと鬼畜道を大事にしないといけないじゃん。そんなかんたんに道を外れてはいけないじゃん」


 ……この者たちは、なにか大きな勘違いをしています。いったいわたしのことを、どう捉えているのでしょう。


 対異種や、立場の違う者同士が心通じ合い、触れ合う瞬間。


 無情な世の中と、ただそこにある愛。


 感動で、涙が止まりません。

 



 

 

 


 

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