炎の大魔導師はそれを揉みたい -3-

 鳩尾を殴りつけ、三体のイワトビーは無事蘇生しました。


 そのうちの一体は、イワトビーらしいイカつい眉を尖らしながら、こんなことを言うのです。


「あいつなら、もう連れていかちまったよペン。手遅れだペン」


「なんのことか分かりませんが、すみません。話を進める前に、あなたたち、語尾に "ペン" つけるのをやめてください。トビーなのか、その他なのかわからずに、読者が混乱します」


「読者? それこそ、なんのことペン?」

 

 読者とは、この世にいるかもしれないし、やはりまったくいないかもしれない存在ですが、くわしく説明できるような世界線の事情ではありません。


「とにかく、あなたたちは "ペン" 以外の語尾を採用してください。あなたたちは敗者です。拒否する権限はありません」


「え? えー……? じゃあ……」


 先程の衝撃で負った傷が痛むのか、イワトビーたちはノロノロと立ち上がると、肩を組んでヒソヒソ話を開始しました。


「ペン以外つったって、こちとら他に思いつかねえペンよ。生まれたときからペンなんだからペンよ」


「どうしようペン……でも正直、そこまでこだわりもないペン」


「ですペンね。この際、あこがれの語尾に変えるのも、ありかもしれませんペンね」


  遅い。これくらいのことを、パパっと決められないとは。

 

 かれこれ1分も待っています。


「生まれたときからの口癖を、すぐに変えられるほうが不思議だペン。おばはん、イライラが顔に出てるぺんよ。もう少し、おおらかな気持ちを持ったほうがいいペンよ。カルシウムが足りてないんじゃないかペン?」


「ーートビー、あなた、どうしてほかの者たちには寛容なのに、わたしにだけそうも辛辣なのですか?」


 怒りを通り越した先にあるのは、大いなる疑問です。


「決まったジャン。これでいくジャン。文句はないジャンね?」


「ジャンな」


「ジャンジャン!」


 イワトビーたちは組んだ肩をほどき、顔を上げると、唐突に、にわか東の国(都会)弁を使い始めました。


「本当に、それでいいのですか? 」

 

 しっくりきているようには思えません。


「おまえが変えろっていったんジャン。文句あんのかジャン?」

 

 文句あんのかジャン。文句はありませんが、違和感はあります。


 まあ、本人たちがいいのなら、問題ありません。


「いえ、対処いただければそれで構いません。話を戻しますが、あいつフレデリック君が連れていかれたというのは、いったい誰に、どこへ連れていかれたというのですか」


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