ふたりの大魔導師はペットのために最善をつくす -2-

「ミリア! ミリア! 起きて! トビーが!」

 

 叫ぶ子供の声がします。しかし、もう少しだけ、眠らせてください。あと、もう少しだけ……。


「グッ…ガガガガガガ! グゴア! フガガガガガガ!」


「ああっ! うるさい! うるさいよ! ここは工事現場かよっ! いったいどうしたら、あんな細い体からこんな地響きのようなイビキがかけるんだよ!」


「こんな女、ほっといて俺たちだけでもう行こうペン」


「そういうわけにはいかないよ。これでも一応、女の子なんだから、ミリアは」


「いまどき、そういうのは逆差別っていうぺんよ。置き去りにされるのに、男も女もないペン。おばはんなら、一人で山を降りられるペンよ。大丈夫ペン」


「え? 逆差別? そうなの? ぼく、もう、価値観古いのかな」


 一人と一羽が御託を並べています。


 おかげで、すっかり目が覚めてしまいました。


「問題の論点がずれています。男女関係なく、仲間を置き去りにしてはいけません」


「あ、やっと起きた。だってミリアおばさん、ぜんぜん起きないじゃん」


「ぜんぜん起きないペン」


「再度、問題の論点がずれています。ーー……トビー? あなた、起きて……?」


 目の前で、吹雪に吹かれた脂肪の塊が、怒りながらピョンピョン飛んでいます。


 ピョンピョン飛んで……。元気そうじゃないですか。


「ミリアおばさんこそ、反応がずれてるよ」


「おばはん、ボケてるペンよ」


 お、おお。脂肪が、脂肪が、話しています。うぅ。


「ミリア! 泣かないで! 泣いたらーー」


 パリン。


 涙が眼鏡に張り付いた瞬間、眼鏡のガラスが割れ落ちました。


 どうやら、涙のわずかなぬくもりが刺激となり、寒さで硬度が増していたガラスを割ってしまったようです。


 ところでわたしの視力は、十センチ先も判然としないド近眼。


 この瞬間より、詰みました。

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