ふたりの大魔導師はペットのために最善をつくす -1-
ヒョウザリン地方の入り口までは馬車を乗り継ぎ、ここからは年中豪雪が吹き荒れる山道を歩いて進みます。
あっという間に、メガネに吹雪が張り付いて、前が見えません。寒いのは言うまでもなく、すでに手指がかじかんでいます。
それでも、前に進むしかありません。トビーのために。
「ミリアおばさんにはこたえる寒さだよね。ぼくは若いから、これくらいへっちゃらだけど」
「ぼくは、お肉がついていてフクフクだから、へっちゃらですか。いいですね」
「! なんてこというの! 子供に対して失礼でしょ! 育ち盛りって言って! それに、おばさんが痩せすぎなだけだもん。ぼくは標準体型だよ、標準!」
その前に、フレデリック君は、わたしと変わらない大人ではなかったですか。今となっては、大人だったころの姿を思い出すほうが困難かもしれませんが。
「なに、じーっと見てるの」
「気にしないでください」
メガネを拭いてみても、またすぐ雪で視界が遮られます。
トビーはさきほどから、台車の中でおだやかな様子で眠っています。
やはり、極寒の生まれ故郷にやってきて、少しは気分が良化しているのかもしれません。
「ミリアが、プチウォームなんてかけたから、トビー、調子悪くなっちゃったんじゃないの」
フレデリック君は、あらぬ方向を見ながら、唇をとんがらせています。
「そんなはずはありません。トビーには直接作用しないように施しました」
「自分の魔法、過信してるんじゃないの」
「いいえ。魔法の内側に手を入れて、念のため温度を確認しています。内側に温度変化はありませんでした」
「……そう」
まだ何か言いたそうですが、フレデリック君はそのまま口を閉ざしてしまいました。
「暗くなってきました。今夜はここにベストウォームのバリアを張って休みましょう。明日はさらに歩かなければいけません。今日の疲れは、今日のうちにとってください」
「ベストウォームの中は、トビーにとっては暑すぎるよ。ぼく、トビーと一緒にバリアの外で寝る」
フレデリック君は目を吊り上げながらも、寒さで震えています。さきほどの軽口は、強がりでしかなかったのでしょう。
「いくら氷の魔導師とはいえ、人族がこの極寒の中で眠るのは、破滅的行為です。それを理解しての宣言でしょうか」
「……うるさいな」
完全に背を向けられてしまいました。大人として、子供に対処する難しさを痛感させられます。
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