炎の大魔導師と氷の大魔導師は大図書館を目指す -11-

 フレデリック君を置いて逃げるわけにはいかない。


 こうなったらやむなし。


 奥の手を使うしかありません。


 手提げ鞄からベルを取り出すと、左右に振った。


 リンリン。リーンリン。


 ベル音がこだまする中。


 わたしたちの目の前に、いかにも強そうな筋肉モリモリの男が出現した。


「なんだあ? どうして俺はこんなところに? ダンジョンからはもう出たはずなんだが」


 呼び出された男は、きょろきょろと辺りを見回している。


「突然のお呼び出し、申し訳ありません。わたしたちはただいま上級魔物に襲われ、死にそうです。礼はします。どうか助けてください」


「はあ? 助ける? あ、あいつぁ、モルダリンマンじゃあねえか。あんたら、ずいぶん厄介なやつに出くわしたんだな。いいぜ、助けてやるよ。そのかわり、たんまり金はもらうからな」


「はい。よろしくお願いします」


「どういうこと? あのおじさんは、どこから現れたの?」


 フレドリック君は目をまん丸にしていますが、驚くのも無理はありません。


 あのおじさんは、このダンジョンを探索しているときにすれ違った冒険者の方。


 とりわけガタイのいい、物理攻撃力のありそうな数名の方に、こっそり呼び鈴召喚のシールを背中に貼り付けておいたのです。


 このベルを鳴らせば、シールを張り付けた物を、目の前に呼び出せる、という魔道です。剥がされたら無効ですが。


 追いついてきたモルダリンマンは、見事おじさんの拳一発でノックダウン。


 魔防が特化している魔物は、物理防御力は低いと相場は決まっていますからね。


「おい、こんなにもらっていいのか?」


「当然です。命を助けていただいたのですから、お受け取りください。帰り道はまた歩いて戻らなければいけないので、申し訳ないのですが」


「いいってことよ、気にするな! ゴールドモンスターには出会えなかったからな! ありがとよ、魔道使いさん!」


 おじさんはうれしそうに礼を言うと、足取り軽く、ダンジョンの上階に向かって走って行った。


「さあ、もう死ぬ心配はなくなりました。わたしたちも早くダンジョンを出ましょう。走るのは無理でも、歩くことはできますか」


「うん。ありがとう、ミリアおばさん……。でも今見てたんだけど、もしかして、おじさんにお金あげたせいで、お財布空っぽになってなかった?」


「そうですね」


「えー! これからの旅どうするの!? ハクハク大図書館に行くんじゃないの!? 大丈夫なの!?」


「おばさんじゃなくて、お姉さんです。訂正してください」


「今はそんなこと、どうでもいいよ!」

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