炎の大魔導師 VS 氷の大魔導師 -7-

「モアファイアー、モアファイアー」


 放たれた氷魔法に衝突させるように、炎魔法を放ってやると、二つの魔法は互いに霧散し消滅した。


「だから駄目だと言ったでしょう。魔法は危険なものです。気をつけてください」


 怒ったつもりが、フレデリック君の目はキラキラしていた。


「おばさん、すごいや! かっこいいね!」


 どうやら、小さい男の子のロマンを刺激してしまったようです。


「お父さんとお母さんのことは覚えていますか」


「ううん。わからない」


「わからないということは、覚えてないということですか」


「うーん。そうなのかな。覚えてないというか、ぼく、自分の名前以外、全然わかんないんだ」


 自分の名前以外はわからない……。


 これは、最大のピンチなのではありませんか。わたしとて、突然現れ、魔道の勝負を挑んできたこの男が何者なのか、知らないのです。


 わかっているのは、わたしが彼を、子供の姿に変えてしまったということだけ。


「おばさん、どうしたの? 大丈夫? 困っているみたいだけど、なにかぼくにできることある?」


「いいえ、大丈夫です。フレドリック君、あなたはもともと大人だったのです。わたしのせいで、子供の頃に戻ってしまったようです。責任は取ります。必ず、フレドリック君を元の姿に戻します」


 古代の大魔道師ピルピルのレシピのおかげで、魔力は取り戻せたようですが、さらに事態は厄介な方向にいってしまいました。魔力の素は、レシピ通りに完成したはずなのですが、実はレシピ本の一部が黒く汚れていて、読みづらい箇所があったのです。


「そうなの? よくわかんないけど、よろしく、おばさん!」


「おばさんではなく、ミリア姉さんです。今後はそう呼んでください」


「え? おばさんじゃなくて、お姉さんなの? サバ、読もうとしてるの?」


 少しでも、かわいいかもしれないと思ったわたしが愚かでした。


 こいつは、わたしを変人呼ばわりした、自称氷の大魔導師フレドリック野郎です。


 一刻も早く元に戻して、追い出さなければいけません。


「明日、わたしと一緒にハクハク大図書館に向かいましょう。草原を越えた先にある町になりますので、少々遠いですが、そこに行けば、フレドリック君を元に戻せるレシピが見つかるでしょう」


「うん、わかった! おばさん!」


「……言い間違えは正してください。ミリア姉さんです」 

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