炎の大魔導師 VS 氷の大魔導師 -6-

 いったん、落ち着きましょう。


「ぼく、クッキー食べますか」


 甘いものはたいてい机の引き出しにたくさん入っていますから、そこから数枚取ってきて渡してやりました。


「わーい! クッキー食べたい! ありがとう、おばさん!」


「……いいのです。たくさん食べてください」


 フレデリック君はシャクシャクと小気味いい音を立てながら、一瞬でクッキーを平らげたうえ、もっとよこせと、粉のついた掌を差し出してきました。


 最悪の場合、クッキーが底をついてしまうのは問題ないのですが、おばさん、と呼ばれるのには慣れません。


「あなた、お名前は」


「名前は、えーとね、フレデリックって言います!」


 自分が誰かは、認識しているみたいですね。


 よく見れば、皆無だった薄茶色のまつ毛も復活していて、子供らしい青色の大きな目はサファイアのようで、かわいく見えないこともないです。


「フレデリック君は何歳ですか」


 うーん、と顎に指を添えて、


「五歳!」


 と、どうやら五歳らしいフレデリック君は答えました。


「わたしのことは知っていますか」


「知らない」


 五歳のフレデリック君は、わたしのことを知らないようです。


「フレデリック君、あなたはわたしに魔法勝負を挑んできたんですよ」


「えー!? ぼくが!? そんなことあるわけないよ! だってぼく、魔法なんて扱ったことないもん!」


「試しに、モアブリザードって唱えてもらえませんか」


「うん、わかった。試しにいってみるね。モアブリザード!」


 フレデリック君は困ったような顔をしながらも、わたしの肩口を指さしながら詠唱したので、髪の先がつららのように凍ってしまいました。


「フレデリック君。魔法は人に向かって唱えたらいけません」


「わー! ぼく、魔法が使える! わーい! やったー!」


 フレデリック君は興奮して歓喜の声を上げながら、注意した矢先だというのに、


「モアブリザード! モアブリザード!」


 氷魔法を連発しました。

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