第13話 ともだちになってください!
翌朝。
私は自分の目を疑っていた。どうして下級寮まで猫のミャアちゃんが足を運んでいるのだろうか。そうだ、昨日の一連の出来事は夢だったんだ。
まさか、私の一番の友達だったミャアちゃんがアシュレイ殿下だったなんて……そうミャアちゃんを抱き上げると、ミャアちゃんは突然光り出してしまう。そして次の瞬間目の前に現れるのは、やっぱり美麗の王太子アシュレイ殿下だった。
「いやあ、まだ正式な婚約者が決まってないのに呪いを解くわけがないよね? これから妃教育がんばってね?」
ちなみに殿下の猫化の呪いは殿下のおっしゃる通り、まだ解呪されていないらしい。現に今も私が駄々を捏ねたから、猫の姿で隣を歩いてくれている。いや、そこまでして私と登校したいですか……?
さらにものすごい余談だが、猫ならどんな猫にだって変化できるというのだ。試しにカサンドラさんのシャランちゃんみたいなモフモフを頼んでみたら……予想以上のモフモフさんになってくれた。歓喜する私に「俺のこと好きになった?」と聞かれて、思わず『デイバッハ』モードが発動しそうになったのは秘密である。
そんな自由すぎるアシュレイ殿下に私はぶーたれながら尋ねる。
「そもそも何しに来たんですか。あなたが余計な行動をするたびに護衛の人たちの仕事が増えているんですよ?」
「つれないなぁ。筆頭婚約者候補と少しでも一緒に居たいという俺の淡い気持ちがわからない?」
「わかりません。私は猫と女の子にしか興味ありませんので」
そしてもうひとつ、おかしな光景を目にすることになる。
私の教室の前で高貴な令嬢が頭を下げているのだ。
特に自分から声をかけるわけでもない。ただ誰かに声をかけてもらえるように、ずっと。
そんな光景を前に、いつのまにか人型に戻った殿下が私の頭に無駄に唇を落とす。……うん、これは猫に舐められたようなものだ。気にしたら負けである。
しかもあろうことか、殿下は耳打ちするわけでもなく堂々聞いてきた。
「それにしても、昨日はどうしてテラスなんて人の多いところで断罪したの? デイバッハ家を敵に回したら怖いってことを見せしめるため?」
「そんなわけないじゃないですか。殿下に邪魔されたけど、私はあの後でさらに交換条件を出す予定だったんですよ」
「おや、意外と計算高いね?」
そんな軽口を話しているのに、彼女・セレニカ=フォン=コンスタンチェさんは一向に頭をあげる気配がない。
「お願いがあります」
「なんなりと」
「本当に詫びるつもりがあるなら、謝罪をいただけますか――ごめんね、と」
そう、私が真剣に告げると。
セレニカさんが一瞬、驚いたように顔をあげる。私と目が合うやいなや、すぐに頭を下げてしまうけれど。
「その節は、大変申し訳ございませんでした」
「いーいーよ!」
「え?」
再び、セレニカさんが顔をあげる。後ろの殿下は笑いを堪えている様子だ。こう見られているとすごく恥ずかしいけれど……今言えないと、きっと永遠に言えないだろう。狙った獲物を逃したならば、父様に怒られること請け合いである。
だから、私は勇気を出して告げる。
「『ごめんね』って言われて、『いいよ』て返したら、それで喧嘩はおしまい……ですよね? ……ともだちなら」
セレニカさんの心拍数、眼球運動から読み取れる感情は単純だった。
『信じられない』その感情を隠すことなく、彼女は疑問を返してくる。
「あなた……思いのほかひどい女ね」
「ごめんなさいっ!」
そんなに手汗がひどかったかと、私は慌てて服で拭くも。
セレニカさんは「違うわよ」と嘆息する。
「勝てる見込みのない恋敵と友達になれとか……拷問に近いじゃない」
「なんでですか、私はただセレニカさんといつかパジャマパーティーができたらなって」
「それで二人の惚気話を一晩中聞けっていうの? 精神的苦痛も甚だしいわ」
「ちがうっ、本当にそういうつもりじゃ――」
私は持ちうる限りの少ない語彙で説得しようとするも、背後から殿下が言葉のナイフを刺してくる。
「それは正直、俺も思った。いやぁ、さすがデイバッハ家だなって」
「えぇ~~⁉」
誰も逆さづりで一晩過ごせとか、爪を剥ぐとか言ってないのに⁉
私が非難の声をあげると、セレニカさんがクスクスと笑い始める。
その目端にはうっすら涙が滲んでいた。
だけど、彼女の顔がどこかスッキリしている。いたずらな顔がとても愛らしい。
ひとめでわかった。この人は今、初めて私を受け入れてくれたんだと。
だから、私は改めて用意していたお菓子を差し出す。
「これからどうぞよろしくお願いします!」
すると、セレニカさんは悪い顔で笑う。
「――この、悪魔令嬢め」
【悪魔令嬢はともだちがほしい!! ~友達はいないけど猫ならいる。だから殿下の溺愛はいりません~ 完】
以下、あとがき。
最後までお読みいただきありがとうございました!
女友達がほしい物騒かわいい令嬢のお話、いかがでしたでしょうか?
少しでも「面白い!」と有意義に思っていただけましたなら、下記の☆をぽちぽち押していただけたら嬉しいです。MAX三回です!!!
さて、本作は「賢いヒロイン中編コンテスト」用の中編となります。
本コンテストは「長編化を見越した」コンテストのため、あえて続きが気になるような終わり方とさせていただきました。「壮大な物語のプロローグだ!」てやつですね。
そのための「婚約者候補の四人」でございます。
これからミーリャが嫌々ながら妃教育に巻き込まれていき、他の候補の三人(本文中の明記は避けましたが、そのうち一人は男の子がいいかなと思っています。婚姻は男女じゃなくてもいい世界観)と揉め事しつつも仲良くなりながら、御国の陰謀とかを解決しつつ、だんだんとアシュレイ殿下と仲を深めていくお話ですね。そんな妃争奪戦に、令嬢ヂカラが全然足りないミーリャをセレニカがサポートしていく形でしょうか。
あと、長編化するなら掘り下げたいのがデイバッハ家のメンツでしょうか!
ぜったい、ミーリャ溺愛ファミリーです。
熊も「女の子は熊が好きなんでしょ?」「ミーリャの好きな色は赤だよね?」という善意の狩りたて熊の水遊び事件です。物騒だけど家族愛に満ちたファミリーです。妄想が捗りますね!(私だけかもしれない)
という、審査員の方に「長編化の構想あるよ」アピールをしつつ(笑)ひとまず締めさせていただこうと思います。これは落ちても長編として書きたいな。ひとネタとして気に入った作品となりました。
それでは、本作が読者の方によって有意義な暇つぶしになれたことを願って。
ゆいレギナ
悪魔令嬢はともだちがほしい!!~友達はいないけど猫ならいる。だから殿下の溺愛はいりません~ ゆいレギナ @regina
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます