第7話 顔がいいのが羨ましい。
そしてランチタイムまでの時間。
私はずっとドキドキしっぱなしだった。セレニカさんとランチ。昨晩のディナーの時は特級寮だったからほとんど人はいなかったけれど、お昼は全生徒が使う食堂で食べるのだろう。
もちろん、食堂の中でも必然と貴族階級による区画というのができているらしいが……昨日よりまわりの目があるのは必然。
ちなみに、らしいというのは私が今までずっとぼっち飯で、人気のない場所でお菓子の形が崩れたものなどを食べていたからに過ぎない。
しか~し、それも昨日までのこと!
ちゃんと友達になれたら、実家にも連れて行きたいな。
今まで『おまえに友達なんて』と散々馬鹿にしてくれた父様や兄弟に自慢してやるのだ。それがあんな綺麗で優しいセレニカさんだと知ったら、みんな仰天するにちがいない。
そんな楽しい妄想を繰り広げている時だった。お昼を告げる鐘が鳴る。
さぁ、いざ決戦だ! セレニカさんを待たせたらいけないと、すぐさま食堂に移動しようとした時だった。
「やあ、ミーリャ嬢」
「でででで、ででんか」
なぜ鐘と共に登場するんだアシュレイ殿下⁉
しかも思いっきり名指しされ、クラスメイトらも「なぜ殿下が?」「悪魔宰相の差し金」「やっぱり呪いにかけられているんじゃ」なんてコソコソしている。
私があたふたしている間にも、殿下はその長い脚であっという間に私の元へ。
そして「食堂行くんでしょ? 一緒に行こうよ?」なんて宣う。
「どど、どうしてですか?」
「だって同じ場所に行くんだから、連れがいたほうが楽しいじゃない?」
「で、殿下にはご学友もいらっしゃるでしょう⁉」
「でも、ミーリャ嬢はひとりでしょ?」
うぐっ……。笑顔で急所を突かれてしまった。それは絶命だ。精神の絶命だ。
なので、腰に手を回され誘導されるがまま、私はヨレヨレと歩き出すしかない。
廃人状態になった私に、殿下は引き続き笑顔を絶やさない。
「しかしきみのクラスの子たち、面白いこと話すよね?」
「なにがですか……」
「呪い、とかさ。噂の力も侮れないなぁと思って」
ふーん。そっか、殿下も『悪魔令嬢』の呪いを本気にしているタイプだったか。私はむくれながら殿下の手を振り払う。
「それではもう私に構われるのをお止めになっては? 余命が100日になってもいいので?」
「あ~、そっちのこと? 本当にそんな呪いがあったら、それこそデイバッハ卿が嬉々としそうだよね」
――じゃあ、呪いって何の……?
だけど殿下は、やっぱり自分のペースで話を進めてしまうのだ。
「そういやミーリャ嬢、俺と話すときは緊張しないの?」
「そりゃしてますよ。だって王太子殿下ですよ?」
「でもセレニカ相手のほうがそれらしいというか……」
「だって殿下、男の人じゃないですか」
私の言葉に、殿下がきょとんと青い目を丸くする。
それにちょっと可愛いなと思ってしまったのは、殿下の美形パワーのせいだろう。私もこんな三白眼してなければ、もっと友達も作りやすかったんだろうな。
「どうせプライベートでは『ちょっと暇だから熊を狩ってきた』とかいって『腹が減ったな』といきなり掻っ捌くんでしょ? わざと血を撒き散らして私にかけるために」
「その水遊び感覚は絶対にデイバッハ家だけだと思うけど、まぁ男兄弟で慣れているってことね」
そんなくだらないことを話している間に、食堂に着く。
やれやれ、これでようやく殿下のお守りが終わったと思いきや、アシュレイ殿下が仰々しく手を振り始める。
「おーい、セレニカ。連れてきてあげたよ!」
「あら、アシュレイ殿下」
セレニカさんはもう食堂に着いていたようで、奥のテラス席でお友達らしき人たちと一緒に談笑していたようだ。その中にはミャアちゃんを蹴ろうとしたカサンドラさんもいる。ミャアちゃんの一件も、二人の友情にひびを入れるものではなかったらしい。
友達の罪も認めて、そのままの関係でいてくれるって……すごくいいな。私もなんかの手違いで刺客相手にやりすぎてしまったとしても、セレニカさんは受け入れてくれるだろうか。
そんな慈悲深いセレニカさんがこちらへ歩いてくる。だけどセレニカさんは少し不思議そうな顔をしていた。
「お二人は……とても仲良しなのですね?」
「お昼のお誘いは俺も聞いていたからさ。普段食堂を利用していない子が、いきなり奥の貴賓席まで行くのが足が重くなるだろうと思って」
「ふふっ、殿下のエスコート羨ましいですわ」
ちちちち、違うよ⁉
エスコートなんてそんな大それたものじゃないですよ⁉
思わぬ展開に私はただただ首を横に振り続けることしかできない。もうこのまま首がどこかに飛んで行ってもいい。セレニカさんに要らぬ誤解と心配を与えたくないもの!
「それじゃあミーリャさん。みなさんがお待ちですわ」
だけどセレニカさんはおだやかな笑顔で私の腕を優しく引っ張ってくれる。
あぁ、これぞ女の子。まわりがキラキラして見える。
「俺もここで食べているから。何かあったら声かけて」
なんか殿下が言っている気がするけど、私の耳には届かない。
このままキラキラふわふわなまま、私はセレニカさんに連れられて奥のテラス席に通される。
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