学園祭(2)  花火  微妙な亀裂

研究室のカフェは、最後まで大繁盛で、湊とえりは結局最後までやるハメになった。

「お疲れ様〜。湊〜、ありがとう〜」

健が、もうクタクタな状態で言った。

「えりちゃんもありがとう」

(…えりちゃん…?)

湊はピクッとした。

「ううん。お役に立てたか…」

「何いってんの?めちゃくちゃ手際良かったよ。すごい助かった」

「良かった」


「湊も、あんなに料理上手なんて知らなかった」

湊と一緒に料理を作っていたマコが言った。

「うん、えりに作ってたらうまくなった」

ホントは、帰りの遅い両親に代わって、9歳下の妹・春乃の世話をしていたので、昔から料理はできるが、そのことはえり以外には知られたくなかった。

「ラブラブだね」

「ね〜」


「はぁ、おばけ屋敷行けなかった…」

「湊、おばけ屋敷行く予定だったの?」

「そう。あと、たこ焼きと…」

「ごめんごめん!」

健は申し訳無さそうに謝った。

「花火は見れるよ。皆で、行こうよ」

マコが言った。

「俺、えりと2人でみるわ」

「えー!じゃ、打ち上げ!しよ!彼女さんも一緒に」

「え、うん…」

「あー、俺らパスできない?」

「ここまで、来たら最後まで付き合ってよ」

湊は、えりをチラッと見た。

「わかったよ…。でも、えりにお酒飲ませないでね」

「酒癖でも、悪いの?」

「ちょっと」

えりは健に、つっこんだ。

湊は、いつの間にか、えりと健の距離が近くなってて、イラッとした。

「私、お酒飲めなくて…」

「了解!じゃ、花火終わったら、いつもの居酒屋でね」

「わかった。じゃ、とりあえずバイバイ」

湊はえりの手を引っ張って行く。


「えり、ありがと」

花火を見るには少し遠いが、2人はグラウンドの端の木のベンチに座った。

「うん。お皿洗ってるだけだったけど、以外と楽しかったよ」

「そ」

「ん?」

「俺は疲れたぁ。精神的にも…」

「そうなの?」

「今日、OFFのつもりでいたから…」

「あははっ。でも、よそ行きの湊ってこんな感じなんだね」

「中学の時も、見てたじゃん」

「それにもっと拍車かかってるかも」

「…やっぱり?」

「疲れる?」

「うん」

湊は、えりの肩に寄りかかった。

「えり…」

「ん?」

「……。なんでもない。…頭撫でて…」

「子供か」

えりは笑いながら、頭を撫でる。

「えり、ごめんね。一緒に学園祭、回れなくて」

「全然」

「……」

「ん?」

「あぁ…。結局、花火しか見れなかった…」

「たこ焼きが食べたかった…」

「じゃあさ、今度、神社のお祭りとか行こう?花火大会とか」

「え!花火大会行きたい!!」

「行った事ない?」

「うん」

「よっしゃ」

「…またパブロに勝ったって…?」

「よく分かるね」

湊はニヤッとした。

「もう、いい加減…」

「ヤキモチやめろって?」

「湊のこと、1番好きなのに…」

「……」

「もう、黙るな」

「…えり。居酒屋平気?」

「…別に行きたいわけではないけど、湊の立場もあるだろうから。湊のためなら行くよ」

「そういう、誰かの犠牲に、なるとか嫌なんだよな…」

「…くるなってこと?」

「えり、健に…」

「ん?」

「いや、やっぱり来てくれる?」

「?うん」

「ありがとう」

「キレイだね。花火」

湊はえりと、繋いでた手に力を入れた。

「キレイだ…」

湊はえりにキスをした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る