ケンカ(前編)

湊、えり 25歳


とある日。

湊は会社の昼休みに、外にランチに出かけた。

そこで、えりが男の人と二人で歩いているのを見た。

すごく仲良さそうに。

一番嫌だったのは、えりが男にボディタッチをしたことだ。

何かのツッコミのようではあったが、湊は頭が、カーッとなった。

えりと湊は目があったが、湊がえりを睨んで、無言でどっかに行ってしまった。

えりは、追いかけてはこなかった。


(なんだよ!普通追いかけてくんだろ…。せめて声かけろよ!)

湊は、大股でズンズン歩く。


えりは、気持ちがモヤモヤしながら、仕事をして、仕事が終わり、湊に電話をしたが、出なかった。

一応ラインもしたが、きっと返事はないだろうと思った。


えりは湊の家に行った。

合鍵を使って入ったが、湊は留守だった。

ギリギリまで、部屋で待っていたが、湊は帰ってこなかった。


そんな感じが一週間続いた。

元気が無いえりを見て、孝司がどうしたのか聞いた。

えりは事情を話した。

「へぇ…。湊君て、そんなにヤキモチ焼くんだね。意外」

「うん…」

「でもさ、ちょっと男の人と仲良く歩いてたくらいでそんなんなるの、繊細すぎでしょ」

「意外とね…」

「俺なんて、春乃と元カレのキスシーン見ちゃったんだから」

「え?!」

「あれ、湊君、喋ってなかったんだ」

「湊…、孝司と春乃ちゃんのことは、ベラベラ話さないよ」

「たまにいいヤツなんだよな。で、俺キスしてんの見たけど、変わらなかったから。ちゃんと好きなら、そんなんで別れたりなんてしないよ」

「うん…」

「…ちゃんと好きならね…」

孝司の一言に、えりの上がった気持ちは、また下がった。


「…ただいま」

湊は、誰もいない部屋に帰って来た。

一週間弱、出張で家を空けていて、やっと夜中に帰宅できた。

えりから、電話もラインも来てたけど、無視し続けた。

こんな子供ぽいのはどうかと思うが、イライラしたまま、一緒には居たくなかった。

部屋に、えりからの書き置きが置いてあった。

「…連絡下さい…か…」

メモをじっと見つめた。


翌日。

えりは、仕事帰りにまた、湊の家に行こうとした。

湊の家の近くで、幼なじみの圭太にあった。

「おぉ。えり、久しぶり〜」

「久しぶり、元気だった?」

「うん。えりも?」

「うん…」

「何?どうかしたの?」

「うん…、ちょっとね」

「小林のこと?」

「そうだね。ケンカしてて…」

「そっか。元気だせよ、きっと大丈夫だよ」

圭太は、えりの肩を何度か叩いた。


ちょうど、その時、湊が来た。

湊は、えりの肩を叩く圭太を見た。

湊は、えりと圭太に近づいた。

2人の間にグッと入って圭太を睨む。

「お前…、誰のもんに、気軽に触ってんだよ…」

ドスの効いた声で言う。

「あー、俺。広瀬だよ?」

「分かってるよ…バカじゃねーんだから…。どっかいけよ」

「…湊」

えりが声をかけると、湊は、少しずつ離れ、走りだした。

「湊!」

えりも走って追いかけたが、湊は足が早いので、全然追いつけない。

「待って!…キャッ!」

えりは、躓いて転んでしまった。

もう、湊の姿は見えなかった。

「痛い…。あぁあ…」

えりは近くのベンチに座って、靴を脱いでみた。


「…ごめん」

そういいながら、湊は息を切らして、えりの前にサッとしゃがみこんだ。

「湊…」

えりは、湊がまた走って戻って来てくれたんだとわかった。

「足、見せて…」

湊はえりの足を観察する。

「血…、出ちゃったね」

「うん…」

「ごめん…。こんな、怪我させちゃって…」

「ううん…。私も…、軽率な行動取って、湊に嫌な思いさせて、ごめん…」

「うん…。…家まで送って行く」

「湊の家、行きたい…」

「もう、遅いから…」

「また、いなくなるじゃん…」

「…明日は家にいるから…。来て…」

「うん…」

「何か作って待ってる…」

「うん…」

「立てる?」

湊が、えりの手をとる。

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