湊 デートがしたい (後編)

2人は脱いでた服を着て、出かける準備をしていた。

「ずっと行きたかったスイーツの店あるんだけど」

「ふーん」

「…もう機嫌直してよ…」

「何人と付き合ったの?」

「え?どうだったかな…」

「ちゃんと答えて」

「…9人…」

「多っ」

(元カノの話なんてするんじゃなかった…)

「本気の恋愛じゃ、ないよ」

「…ふーん」

「…やめてよ…」

湊は、がっくり肩を落とす。

えりは湊があまりにも、落ち込んでるから

ぐっと我慢した。


「じゃ、お店いく」

「行こう行こう」

湊はえりを急かすように言った。

えりは、それにもムカついたが、出かける準備をした。


2人で、店に向かった。

湊は手を繋ぎたかったが、そんな雰囲気ではなかった。

「何のお店?」

「チーズケーキ。好き?」

「好き」

「良かった。じゃ行こ」

試しに手を出してみた。

えりは、思ったよりすんなり繋いでくれて、湊はほっとした。


「…この辺のはずなんだけど…」

湊は携帯でマップを見ながら、キョロキョロした。

「湊、方向音痴?」

「うん、実は…。困った…」


「あっ…」

「ん?あった?」

「いや…。…こっちかも…」

湊は反対方向に歩こうとした。


「湊?」

かわいい女の人が声をかけて来た。

湊はバツが悪そうに、振り返った。

「あぁ。土屋さん。久しぶり…」


「あ、彼女と一緒か…。ごめん、話しかけて…」

「いや…」

「…あれ?谷川さんじゃない…?同じ中学の…」

「え?…。あぁ、土屋さんって、あの。土屋アンナちゃん。湊と、付き合ってた…」

「アハハッ。そう。土屋です」

アンナは、湊とえりが手を繋いでるのを見て、何かに気がついた顔をした。

アンナは湊を見て、湊もアンナを見た。

「谷川さんか…」

湊は少し頷いた。

えりは、なんだかよく分からなかった。


「私の事、覚えててくれて嬉しい」

アンナがえりに言った。

「美男美女カップルで有名だったから…」

「アハハ。そうなの?」

「うん」

湊は気まずそうにしている。

アンナは気さくに話す。

「谷川さんたちの方が美男美女カップルじゃん」

「アハハ。美女はいないよ」

えりは、笑うと、アンナは湊に目配せをした。

湊はほんの少し頷いた。

えりは、さっきから何かと思った。

「谷川さん、すごいキレイなったよ」

「ええ?!どこが…」

「…気づいてないんだ」

湊を見て言った。

「…うん」


「谷川さん、昔から、可愛かったもんね」

「え?どこが…?」 

「アハハッ。可愛いね」

アンナは笑った。

えりは、よく分からず黙った。

「あ、ごめん。変な風に聞こえたかな?私、谷川さんの、顔が好きで…。だから覚えてたんだけど…」

「?」

アンナは、また湊を見た。

「あー、ホント。何かうまく、言えないなぁ…。とにかく、キレイってこと」

「?…ありがとう…」

アンナが、えりと湊を見て満足そうに微笑んだ。

「デートの邪魔してごめんね。じゃね」

「あっ!」

湊はアンナを呼び止めた。

「何?」

「あの、この辺でチーズケーキ美味しい店知らない…?」

「あぁ、あそこ?」

アンナは指を指した。

「あぁ!あれだ!ありがとう」


「フフッ」

アンナは笑った。

湊は気まずい顔をしてる。

「お幸せに。じゃね」

そう言ってアンナは、去って行った。


「一番会いたくないやつに会った…」

湊はポツリと言った。

えりには、聞こえてないと思って言ったが、えりは聞こえていた。

湊とアンナでアイコンタクトで話してた事がすごい気になった。


「良かった、この店だ。行こ」

「うん…」

湊はえりの元気がなくなってる事に気がついたが、下手に言い訳するのも嫌だから、気付かないふりをした。


「おおっ。美味い」

「うん、美味しいね」

ケーキを食べて少しテンションが上がったように見えて、湊は少しホッとした。

「ねぇ」

「ん?」

「なんか…」

「何?」

「2人だけの、世界だった…」

「俺たち?」

「湊とアンナちゃん」

「え?」

「2人でアイコンタクトしてたから…」

「あ、あぁ。あの人、察しがすごいから…」

「ふーん」

家では、元カノの話でえりの機嫌を損ねて、今は、リアル元カノが登場して、さらにえりの機嫌を損ねてしまった。

「私には、全くわからないようなこと、2人でわかりあってた…」

「いや、何か昔のクセで…。ごめん…」

「…」

「ごめん…」

「もう食べ終わったし帰ろ…」

「…うん…」

2人は立ち上がった。


店を出てからも、雰囲気は悪かった。

(最悪だよ…)

湊は、珍しく焦っていた。

「今日は、もう帰りたい…」

えりは、静かに怒っているようだった。

「…まだ一緒にいよ」

「…」

「えり…」

「今日は送っでくれなくていいよ。ここから家近いし。じゃぁね」

えりは、背中を向けて歩き出した。


「えり…」

湊は、後ろからえりを抱きしめた。

「やだ。やめて」

「やだ」

「やめて」

「だめ…」

こんな子供みたいな湊は初めてだった。

「せっかく…」

「え?」

「せっかく付き合えるようになったのに。こんなことで離れていかないでよ…」

「…離してよ」

「やだ」

「湊。別れたいなんて思ってないし…」

「少しでも、気持ち離れるの嫌だ」

「自分でまいたタネでしょ…」

「ごめんって…」

湊はえりから離れたが、逃げられないように手を繋いだ。


「俺が…、土屋と別れたとき、言われたの…」

湊が話だした。

「何を?」

「好きな子いるでしょ?って」

「…」

「それ、えりのことなんだけど。俺、絶対にバレない自信あったのに、見透かされて。それで別れて…」

「うん…」

「さっき、目配せをしたのは。好きな子って…。えりだったんだねってこと…」

「…」

「それだけ…」

「それだけって、そんな昔の事。それに、今付き合ってたとしても、その時好きだったのが、私ってどうしてわかったんだろ…」

「そだね…」

「鋭いとこ湊と似てるかも…」

「うん…。すごいよね…。だから、嫌なんだよ…」

「…見透かされる?」

「うん…。頼むから…。別れたいとか思わないでよ?」

「うん…」

「ほんと?」

「うん…」

「絶対だよ」

「アハハッ」

「何?」

湊は不満気だった。

「こんな子供みたいな湊初めてみた」

「…ムカつく」

「ん?」

「いや。ごめんなさい」


「さっき食べたチーズケーキね。美味しいって言ったけど、ホントは味分からなかった。モヤモヤしすぎて…」

「…大丈夫。俺、たぶん作れる」

「すご…」

「だから、食べに来て」

「うん…」

「絶対ね」

「アハハ。子供みたい」

「笑うな」

拗ねた湊もまた新鮮で嬉しかった。 


「もう、当分デートなしでいいや…。疲れた」

「うん…」

「食べて、しよ」

「欲まみれだね…」

「いいじゃん」

2人は、周りに人がいないのを確認してキスをした。

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