えりの家族に挨拶〜孝司の反応 

「あの、これ。つまらないものですが…」

湊は、えりと付き合ってる事を報告するために、谷川家にやってきた。

博之と和美と孝司がリビングに座っている。


「わざわざありがとう」

博之は丁寧に受け取る。

「こちらこそ、アメリカから来ていただいてすいません」

「あ、ソレだけの用事で日本に帰って来たわけじゃないから大丈夫〜」

博之は相変わらず、軽い。


「改めて、えりとお付き合いさせてもらってます」

湊は頭を下げた。

「皆さん…色々思うことはあると思いますが…」

「何?」

「パブロ君の事が主に…」

パブロは、えりが長年付き合ってた元彼だ。

「あぁ…。ごめんね。気を使わせちゃって」

博之が、代表で話す。

「あの、まだ付き合って間もないんですけど、大事にします」

博之と和美は目が潤んだ。


「パブロの話で、申し訳ないんだけど…」「はい」

「知ってると思うけど、1年前にパブロと別れなきゃいけなくなって」

「はい」

「俺等、えりが、ずっと心配で」

「はい」

「良かった…」

涙もろい博之は、下を向いて顔を見せないように泣いた。

博之が泣いてるので、和美が後を引き継いだ。

「ごめんね。うち、親がいないから。お兄ちゃんが、父親がわりみたいなもんで…」

「そうですよね…」

「ありがとう、湊くん」

「…いえ。俺は何も…」

えりもホっとした表情になった。


このやり取りの横で、複雑な顔をした孝司がいた。

「孝司」

湊が声をかけた。

「…何?」

「どう思う?」

「何が?」

「俺のこと」

「別に」

「そっか」

孝司の顔が何か言いたげだったので、黙って待っていた。

「…わざわざさ、こんな風に言いに来なくていいじゃん。これから付き合うのに、家族味方につけとこうって魂胆なんでしょ」

「…」

「湊君が、パブロ兄ちゃんみたいになれるわけ無いじゃん」

「そっか」

湊の冷静な回答に、孝司はさらにイライラした。

「えりが…、もっとちゃんとしてたら…。試験前にパブロ兄ちゃんの邪魔になるようなことしなければ…」

「孝司!」

博之は怖い顔で孝司を見た。

孝司は睨み返した。

「えりのせいだ…」

「孝司…。もう、やめなさい」

博之は本当に怒った時の声で言った。

博之の声にひるみながら、

「別にえりが誰と付き合おうと、俺には、関係ない」

孝司は自分の部屋に入ってしまった。


「湊君。ごめんね。えりも、ごめん」

博之が、謝った。

「あ、大丈夫です」

博之がえりにも謝った事が、不自然に感じていたが、黙った。


「やっぱり、パブロ君が居なくなったの、引きずってるんだろうね…」

和美が言った。

「えりの相手が俺なのも」

「随分悲観的だなぁ」

「あんまり性格良く無いんで…」

「ね」

えりが、同意したので、湊はえりを睨んだ。

「アハハッ」

博之は笑った。


「妹が、孝司と仲良くて。だから、孝司とは昔から付き合いはあったんですけど。ちょっとね、からかい過ぎたかな…」

「そうなの?」

博之は、湊とは初めて会ったので、これが本当なのか、謙遜なのか、わからなかった。

「これから付き合うのに、家族味方につけとこうって魂胆ってのはホントだし…」

「でも、湊君、礼儀正しいし、優しいよね」

「そう見せるの得意なんで…」

「アハハ。俺達が早く安心するように、早めに挨拶しに来てくれたんでしょ?」

「ま、…はい」

「ありがとう」

「…いえ」

「それに、えりのこと、気長にちゃんと待ってくれて」

「…ちゃんとでは…」

「湊!」

えりの、焦った声に、和美は勘づき、博之は

「え?」キョトンとしていた。

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