ダメかもしれないけど、俺はしたい

湊とえりが会う時は、湊の家に行って、その後、えりの家まで送って行くパターンが多い。

今日も、同じだが、えりは湊の前で泣いたのが恥ずかしいし、湊も泣かせてしまった事に罪悪感を感じていた。

ちょっと気まずい雰囲気で、二人は歩いていた。

えりの元彼のパブロなら、ここでふざけた事を言ってごまかそうとするだろうけど、湊は違った。

無言で、1人考えてから、発言するタイプだった。

えりも、それを分かってるから、無言でいた。


「なんか喋ってよ」

湊はえりの顔は見ずに言った。

「え?」

「気まずい」

「あれ?」

「何?」

「こういう時、あんまり喋ってほしくないタイプかと思って、黙ってた…」

「…ま、そうだけど」

「…そうだよね…」

「俺もえりとだけの顔があるみたい」

「腹黒だけじゃなくて?」

湊はジロっと睨んだ。

「腹黒だけじゃなくて」

「そっか…。どういう顔…?」

「…。えりとは、明るく?ほがらかに?いたいなーみたいな…顔」

「…」

「なんだよ…、だまんなよ」

「結局、どうすれば…」

「俺に気を使わないで、いつも通りにいてほしいってこと」

「それで、湊は私に気を使う事にならないの?」

「ならないの。別に、好きな人が喋ってる事、邪魔に感じないんじゃない?知らんけど」

「しらんけど?」

「知らんよ。本気の彼女いなかったんだから」

「そっか」

「そっかじゃねーよ」

「怖い」

えりは、笑った。


えりは手を繋いでた方の腕に体を寄せた。

湊は不意打ちでキスをした。

「ちょっと!」

「…誰もいないじゃん」

湊はまっすぐ前を見て言った。

「…」

えりはムッとした。

湊はチラッとえりを見て、笑った。

えりも、不覚にも笑ってしまった。


「じゃ、ありがとう」

「うん」

いつもの"またね"がなかった。

少し間があいたあと、

「今度さ、えりの家族に挨拶したい」

「え?」

「博之さん、いつか、帰ってくる?」

博之はえりの8歳上の兄だ。

今はアメリカで、働いている。

「え…」

「いや?」

「正直…不安…」

「…えりの家族、パブロ君大好きだからね」「…うん」

「ま、ダメかもしれないけど、俺はしたいから」

「…せっかく付き合えたのに、反対されたらやだ」

「…かわいいね」

湊がびっくりしたような顔で言うから、えりはイラッとした。

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