湊の限界 誰もいない部屋で
ピコーン
湊のラインの着信音がした。
[今日うち来ない?孝司、修学旅行だし、誰もいないから、ゆっくり話せるよ]
(オイオイ…。こいつには危機感が無いのか…)
[うん、じゃ、後で行く]
[じゃ、待ってるね]
(待ってんじゃねーよ。犯すぞ…)
ピンポーン
えりの家のチャイムがなった。
「お邪魔します…」
「家に来るの、いつ以来?」
「パブロ君がいた時だから、1年以上は前」
「そっか…」
「こんなんで、暗くなんじゃねーよ」
「なってないなってない」
「なってんだよ」
「冷たい」
「前からです」
湊は、家に軽く誘ってくるえりにムカついていたし、それに乗っかってる自分にもイラついていた。
「今日は、湊の話を聞こうと思ってたんだけど」
「別にもういいよ」
(今日の湊、すごいイライラしてる…)
「スキな子の事は?」
「もう、いい」
「…そっか」
「ね、ご飯食べて行ってよ」
えりは話を変えた。
「孝司いないと、1人で食べる事になるから…」
「ん…」
「俺作る…」
「うそ。嬉しい!」
「俺のほうが料理うまいから…」
「何でわかるの?」
「春乃が、お兄ちゃんの料理が一番美味しいって」
「シスコン」
「…」
「?」
「俺は、春乃に好きな人いても平気だから」
「…孝司…?」
「知ってたの?」
「うん」
「孝司だけ気づいてないのか…。にぶいやつだな」
「ね。すいませんね」
(えりの弟だし、しょうがないか…)
湊は谷川家の冷蔵庫を覗いた。
「ご飯一緒に食べようって言う割には、材料少ないな…」
「すいませんね」
「…カレーでいいか。誰作っても同じ味になるけど…」
「そうかなぁ。自分の家族以外の人が作ったカレーって美味しいよ」
「そうなの?」
「うん」
えりは、湊が料理するところを横で見ていた。
「あっちでダラダラしてていいよ」
湊は、言った。
「うん。人が作ってるの珍しいから、見たい」
(近いから、あっちいっててほしい…)
「切るの上手だね」
「えりよりは…」
「だから、何でわかるの?」
「アハハッ」
湊がやっと笑ってくれたので、えりはホッとした。
「うちは、水にバンバン材料いれちゃって、火つけるだけ」
「そうなんだ」
「…手抜きしてるわけじゃねーぞ。あっさりが好きなの」
「そうなんだ」
「…腹立つなぁ。えりは炒めて作るの?」「そう。で、いつもビーフカレー」
「言えよ…。鳥使っちゃったじゃん…」
「鳥も好きだからいいの」
えりは、具材が煮えるのを見てた。
「昔ね、パブロと、カレー一緒に作って…」
「ふーん…」
「美味しかったなぁ」
「…じゃぁ、人のカレー食べたら美味いっていうのパブロ君のカレーのこと?」
「うん」
「…」
「パブロもね野菜切るのすごくうまくて…」「…」
「あ、一緒に買い物行って、高い牛肉買ってくれて…」
「…」
「湊?」
「俺がカレー作ってんの見て、パブロ君の事ばかり考えてたの?」
「…いや…」
「俺が…!」
湊は、料理をする手を止めた。
「湊、ごめん…。そんなに怒るとは…」
湊は拳をグッと握った。
えりをすごい目で睨んだ。
「俺が誰もいない家にいることなんとも思わないの…?」
「え、」
湊はえりの腕を掴んで、えりの部屋に引っ張って行った。
「ふざけんな」
湊はえりの両腕を掴んだ。
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