ずっと好きって言いたかった

Nobuyuki

湊の抑えつけていた思い

(好きだよ)

(付き合って)

(彼氏のことなんて忘れてよ)

湊は、ずっと好きって言いたかった…



小林 湊(21歳)は、イケメンで頭も良く、女子にモテる。

今までクラスの人気者の地位を確固たるものにしてきた。

だが、実は腹黒で、本性を隠して生きている。

唯一、自然体でいられるのが中学の同級生のえりだった。


湊がずっと片思いをしていたえりには、彼氏(名・パブロ)がいた。

えりは6年間付き合っていたパブロと、訳あって別れなければいけなくなった。

パブロは日本から、遠く離れた別の地へ行って、もう、戻って来ることはない。

それから1年。

えりは、未だパブロの事が忘れられずにいる。


湊は、そんなえりを、無理やりでも自分のものにしたかった。

それと相反して、傷つけないように好きという気持ちを押し殺した方がいいという、自分もいた。

でも、この状態をいつまでも続けていくには、そろそろ限界だった。

(もう、いっそのこと、全部グチャグチャにしたい…)

でも、それが出来無いのが、湊だった。



涼しさを感じるようになった10 月。

えりは大学からの帰りだった。

「はぁ、会いたい…なぁ…」

えりは、下を向いて呟いた。

「誰に?」

後ろから声がした。

びっくりして振り向くと、湊がいた。

「湊?何で…」

「何でって…、偶然だけど?他に何があるの…?」

湊は笑って、えりの横に並んで、歩きだした。

2人は大学が違うので、今はなかなか会うことがなかった。


「久しぶりだね。孝司から、湊は元気だって聞いてたけど」

「俺も春乃から聞いてたよ」


孝司はえりの弟、春乃は湊の妹で、ともに、9歳年が離れている。

孝司と春乃は、幼馴染なので、よくお互いの家に行き来していた。


「…ちょっと落ち込んでたから…。湊に会えて良かったよ…」

「だろ。俺は、えりのピンチに駆けつけるから」

「駆けつけてないじゃん。偶然なんでしょ?」

えりは笑う。

「全くの偶然なんだけど、なんか必然なんだよな…」

「似合わないね」

「バーカ。普通に感謝しろ」

「うーん」

「バーカ」

湊の言葉にえりは笑ってしまった。


「もう…、パブロ帰って来ないのは解るんだけど。たまに…。パブロを思い出して…。こう…、悶々と…」


「えりは…いいね」

「何が?」

「純粋で…」

「湊には無いもんね、そういうの」

「あるわっ」

「そうなの?」

えりは、くすくす笑う。


「湊は、今、彼女は?」

湊は、今まで彼女が何人も出来ては別れていた。

「いないよ」

「そっか」

「えりにとってのパブロ君みたいな人、そうそういないね」

「…いてもね。一緒にいられないなら、意味ないね」

「…そうだね」

「救いようないね」

「だね」

2人は笑った。


2人の別れ道に着いた。

「じゃ、またね」

「…家まで送っていく」

湊はえりの家の方にスタスタ歩いて言った。「ありがとう…」

「…」


「きっと、またすごい好きな人できるよ…」

湊はえりの少し前を歩きながら言った。

「まだ、考えられない」

「1年経ってそれ、やばいから」

「だね。今、自分でもゾッとしたわ」

「…ホントにね」

「…湊は、モテるから、彼女、すぐできるね」

「顔がいいからね」

「アハハッ。腹黒うまく隠してるしね」

「そう」

「いつかそれも含めて湊の事好きになってくれる彼女が出きるといいな」

「そんな絵空事、信じてない」

「そうなの?」

「誰も信じてないから」

「怖いわ」

「怖いでしょ」

「…普通に優しいけどね」

「嘘つけっ」

「特に春乃ちゃんに」

「アレは特別…」

湊はやっと笑った。


「もし、えりにどうしても好きな人出来なかったら、俺が相手見つけてあげる」

「どうだろうね…」

「…」


湊の顔が暗かった。

「…どうかした…?」

「好きな人に好きじゃないって思われてる…」

「そっか…」

「どこかで…、えりに好きな人なんてできなきゃいいって思ってる…」

「さすが腹黒…」

「真っ黒だよ。漆黒…」

「アハハッ」

「…それでも、友達でいてくれる?」

「うん。そこまで、黒くないし、漆黒だとしてもいいよ」

「……」

まだ、湊の表情が暗い事に気がついた。

「…他にも何かあった?」

「ない」

「そっか…。今度ゆっくり話そ?」

「うん。じゃ」

湊は笑ってバイバイと手を振った。


「ねぇ」

「何?」

「いつあいてる?」

えりは心配になって聞いた。

「別に大丈夫だよ」

「好きな人とうまくいくといいね」

「バーカ」

「何で?」

「バカすぎて笑える」

「性格悪っ」

湊は、笑った。


(えりが好きだ…。って言ったら楽になるのかな…)






※この話は『彼は魔法使いで意地悪で好きな人』のパラレルワールドです。

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