君が来た
スマホが奏でる煩わしいアラーム音で目が覚めた。
窓から日の光が淡く部屋に侵入してきている。
上半身をひねってアラームを消した。
(まだ時間はあるな、あと5分だけ…)
バンッ!!
再び眠りに入ろうとした時、誰かが僕の部屋の扉を勢いよく開けた。
スタタッと部屋の中を小走りして僕が寝てるベッドまで向かって来ている。
間違いないこれは…妹だ!!
感覚で分かる。
「お兄ちゃん!! 朝だよー起きろー!! 」
妹はモモンガの如く腕を大きく広げ、バッタも見紛うほど飛び跳ねた。
そして流星のように僕が寝ているベッドに降ってこようとしている。
「ここ家だぞ! 」
「え!? お兄ちゃん起きてたのー!? 」
妹は飛び跳ねながらアタフタとし始めた。
我が妹ながら運動神経はとてつもなく良い。
そんなことよりも…
早く身を避けなければ、妹のダイビング・ボディープレスをモロに受けることになる。
以前も同じ技を同じようにされたときは記憶が多少吹っ飛び、学校までの行き方を忘れた。
おかげで、妹と仲良く手を繋いで学校に行くことになった。
その日から「シスコン」と呼ばれることになった。
(あ、やばい)
余計なことを考えていたら、妹がもう至近距離まで落下してきている!!
こうなったら、もう使うしかない。
本当は使いたくないが、非常事態だからな。
僕は寝起き特有の声を上げて、叫んだ。
「ザ・ワーL …グワはっ!! 」
2手遅かった。
発動する前に妹のダイビング・ボディープレスが直撃した。
(あ、やばい呼吸ができない。意識も薄れてきた…最後に一つだけ。
「もっとお淑やかにな…ガクッ…」
「お兄ちゃーん!! そんな、どうして? 」
美麗は兄の身体を左右に激しく揺さぶるが、兄の瞼は閉じたままだった。
目を閉じた兄に跨り馬乗りになった、上半身を兄の方に倒し顔を覗き込んだ。
美麗は自分の唇を兄の唇に徐々に近づけた。
「こんなことなら、お兄ちゃんと…」
僕は近づいてくる妹の顔をガシッと鷲掴みにした。
「それはダメだろ」
「わわっ! お兄ちゃん、生きてたんだ」
「お兄ちゃんはあんなことで死なない」
鷲掴んでいた手を離した。
美麗の頬がほんのりと赤くなっている。
強く掴みすぎてしまったようだ。
いくらダイビング・ボディープレスを受けたと言え、妹にも痛い思いをさせてしまった僕は兄失格だ。
「ごめん。美麗」
「ん? そんなことよりも朝ごはん出来てるよ。お母さんが呼んでた」
「分かった。着替えたら行くから、下で待ってて」
成汰は言葉と裏腹に掛け布団をもう一度頭からかけ直した。
布団の上には美麗が乗っかっていたので、美麗ごと布団をかけた。
「なんでもう一回寝ようとしてるの! ほら起きて!」
掛け布団は美麗に没収されてしまった。
素直に起きるしかないか。
美麗はベッドの上から滑るようにして降り、僕の動きを牽制しながら扉の方まで行った。
開きっぱなしの扉の取手を掴み、閉めながら部屋を出た。
部屋を出る際も僕から視線を外すことはなかった。
「さてと、着替えるか」
自分の着ていたパジャマを脱いで、学校の制服へと着替えた。
着替え終えたら階段を降り、洗面台に行き、うがいをして顔を洗う。
朝っぱらからプロレスチックに起こされたので脳は既に覚醒状態を迎えている。
あくびをこぼしながらリビングへと向かう。
リビングには朝食が用意されていた。
今日の朝食はフレンチトーストとみそ汁だ。
良いね、朝食にフレンチトーストが出ると気分が良くなる。
交差点を通るときに丁度信号が青に変わって一歩たりとも止まることなく進めた時くらいテンションが上がる。
「あら、おはよう。早く朝ごはん食べちゃいなさい」
「おはよう」
いつものように素っ気ない会話を母さんとする。
毎日同じ時間に同じようなことをしてるから話すことなんて特になくなってくる。
朝食の置かれている席に座った。
テーブルの向かいでは美麗が朝食を頬張っていた。
小さなお口に食べ物を沢山詰め込んでリスのようになっている。
「
「食べるか、喋るか、どっちかにしなさい」
成汰も一口また一口と朝食を食べ進めた。
今日のフレンチトーストは外はカリカリで中はフワッと口の中でとろけていく、理想を我が物にしたような味わいだ。
「成汰、早く食べちゃいなさい。人を待たせるのは良くないわよ」
「そうだよお兄ちゃん! あのメスどこで拾ってきたの!? 」
メス? なんの話をしているんだ?
猫のことか? 確かに幼い頃に迷い猫を拾ってきたことはあるが、あの猫はもう飼い主の元だ。
今さらこの家に戻って来る訳もない。
それに僕のことを待ってくれるような人なんていない。
ましてや女性となれば、それこそ天地がひっくり返ってもあり得ない。
僕は朝食をいつもより早く食べ終えた。
床に置いていた学校のリュックを背負い、玄関まで向かった。
美麗は先に朝食を食べ終えている。
今はソファで横になりながらニュースを見ていた。
「いってきます」
「いってらっしゃい。あ、成汰悪いんだけど帰りに牛乳買ってきて」
「お兄ちゃん、いってらー」
帰りに牛乳、帰りに牛乳、帰りに牛乳……よし! 覚えた。
玄関の前で軽く伸びをしてから扉を開けた。
扉の前に神がいるのかと錯覚してしまうほど、外は明るかった。
「んにゃあ~ふふ、君はカワイイでちゅね」
なんということでしょう、東雲先輩が僕の家の前で野良猫と戯れているではありませんか。
しゃがみながら猫じゃらしを猫の前でフリフリと振っている。
猫は猫じゃらしを追って、ワセワセと身体を元気良く動かしている。
「え!? なんで!? 」
「あ、ようやく出てきた。女の子を待たせちゃダメだぞ! それじゃ学校、行きましょう」
東雲先輩に家の場所教えてないんだけど、どうして?
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