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 俺が任務を引き受けたことをさも当然のことのようにその絶世の美しい笑顔を微動だにさせることなく、東雲は左手首に巻かれたナノマシンデバイスを操作する。その直後、俺と真理愛、そしてサンドウィッチとドリンクを持ってテーブルへ戻ってきた千葉のデバイスが一斉に受信音を発した。

「今送信したのは週末のイベントに招かれている出演者と客人のリストだ。瑛麻さん本人と田原市議の関係者についてはリストの上部に、今回の事件に関わりがなさそうな人間についてはリストの下部に並べ替えをしているから監視の参考にしてほしい。勿論、下位リストの中にストーカーがいる可能性は排除できないが……だからこの並び順は参考程度に考えてもらえるといいかもね」

「これ以外にも当日の一般客はいるんですよね?」

 ホロ画面を表示させたまま真理愛は自前の消毒液で手を清潔にし、千葉から受け取ったサンドウィッチに手をつける。サンドウィッチはいつも通りトマト抜きになっているものだった。

「そうだね。このリストはあくまでも現状招待が確定している人間のリストというだけで、招かれざる客が一般客に紛れて入場する可能性もある」

 真理愛の問いに頷きながら答える東雲。その真向かいの椅子を引きながら千葉が首を傾げて東雲を見る。

「祥ちゃんなんで俺にもリスト送ってきたん? 今回の任務無理かもやのに」

「先程千葉くん自身が『客側としてなら行けるかも』と言ったところだろう。一般客に動員数制限はあるが、会場周辺に並んでいる女の子に着いていくなりして潜入するスキルを君は持っている。むしろ得意分野じゃないか」

「『絶大な信頼を寄せていただいているようで嬉しいですよ』」

 同じ発言をした千葉に対して真理愛は口元を隠して「ふふふ」と笑った。悪い男の顔でニヤリと笑いながら千葉は電子タバコの使用済みカートリッジを灰皿の中へ投げ入れ、新しいものを取り付けた。何のとは言わないが治安が悪い。

 デバイスから投影されている招待客リストには名前、登録上の年齢、性別、顔写真、そして田原瑛麻と田原市議との関係性が記載されていた。出演者として招かれている歌手・ダンサー・トラックメイカーなどの田原瑛麻の仕事関係者と思われる名前には何人か見たことのあるアーティストも紛れている。招待客の中には件のNPO関係者や大学時代の友人が連なる中、興味を惹かれる箇所があった。

「田原市議だけじゃなくて他の議員も親族が招待されているパターンが多いんだな、このリスト……クラブイベントなんかそんなにお上品なものじゃないだろう」

「まあね。だが、チャリティーイベントだから君が思っているほど下品なものではないよ。ただしイベントの性質上、現役の議員がイベントを直接支援するという動きはあまり見られないが、移民支援関係の人間が多数参加するため、息子や娘に顔を出させようとする議員も多いらしい。で、気づいているかもしれないがその中には瑛麻さんが交際中の男性も含まれている」

「議員二世同士でお付き合いがあるってか」

「まだふたりとも議員じゃないよ。この男性だね」

 東雲はリストの一部を拡大すると三人のホロ画面に共有する。清水大雅(しみず・たいが)という名前と共に黒髪短髪のいかにも好青年といった風貌の男の写真が表示されていた。親父の地盤を継いで地方政治頑張ります、と言い出してもおかしくない。 夜のクラブが似合わない、あまりにも陽の光の下が似合う見た目の男だ。千葉も俺もこの男がクラブ遊びをするような人間には見えず、思わず視線を見合わせる。

「瑛麻ちゃん、男の趣味変わったんかあ……」

「田原瑛麻に遊ばれているだけじゃないのか」

 俺たちの反応を見た東雲は苦笑を漏らしながら首を振る。

「気持ちはわかるけど、人は見かけによらないよ……交際歴は四ヶ月ほどになると聞いている。清水大雅さんは清水市議を父に持つ。田原市議とは同じ派閥らしく市議同士も懇意にされているそうだ。当人同士も交際関係は良好らしい。今回のストーカー捜査の件についても『彼には知らせてもいいか』と聞かれるくらいだったよ――危機管理の観点からお断りしたけどね」

「よほど信頼しているんだな、その男のこと」

 写真の中の快活そうな男を見ていると、田原瑛麻の気持ちはなんとなくだがわかるような気はした。

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