薬草風呂
下男下女は入ってきた
さらに玄関前の大広間に、二人の男性が出てきた。
一人は体格が良い中年。
顔つきは厳ついが、目元に見える光は穏やかさがある。優しそうな印象だった。
しかしその立ち振る舞いには、濃厚な「武」の匂いがある。
もう一人は、長身の若い美男子。
鼻筋が通った端正な容貌は、鋭さ七割柔らかさ三割といった感じを覚える。
一瞬女に見間違えそうになるが、太めな首周りで、男であるとかろうじて分かる。……そして、目元がどことなく
中年の方はきょとんとした顔で、美青年の方はやや警戒の混じった表情。……二人の視線はいずれも
「紹介するわね。——このごつい感じの男は、私の夫の
「……母上、「男の子」というのはおやめください。俺はもう二十ですよ」
美青年——
(ま、あたしは微塵も興味が湧かねーけどな。それよりも……)
(なんか……この一筋縄じゃいかなそうな女の旦那には見えねーよな。普通のおっさんみてーだ)
そんな、やや無礼かもしれない思考を巡らせていた
「
こそこそ話をする二人へ詰め寄るような雰囲気を発し、
「『
「それ」呼ばわりか——
「この子は
「
先ほどよりも強い
——なんだ。
「
「な…………母上と、伯仲ですって!?」
なんだか少し勝った気分になり、
それに対し、
「おい
「はぁ? 「何か」って、あたしが何したってんだよ? 言ってみろよ坊ちゃん」
「そ、それは……分からんが、母上がお前などに遅れを取るわけがない!」
「あたしにイカサマだなんだと突っかかってきた野郎どもと同じようなこと言ってんじゃねーっての。なんならいっぺん試して——ひゃわぁっ!?」
ふと、
見ると、
膨らみのほとんど無い胸に、ぺったりと触れていた。
「な、ななななななにすんだよ、このすけべ!?」
「きーく。穏便に、ね?」
自分の過激な行動の出端を折ってくれたのだと確信し、
「うちの子がごめんなさいね」
それから
「——
「はい。申し訳ありませんでした」
「良い子」
それから再び
「さて、それではこれからお風呂でもどうかしら? 『唐氏』の薬草風呂はいいわよ。旅の疲れが面白いくらい取れるわ」
「あのちっさい体からあんなたくさん産まれるとか……人体の神秘だよなぁ」
あの後、さらに
『唐氏』は基本的に女ばかり産まれる一族であるそうで、
だがそれよりも、
みんな母親似で眉目秀麗であったこともそうだが、その数に。
産みすぎだろ、と
そんな『唐氏』の子沢山ぶりに圧倒されてから、浴場に案内された。
一糸まとわぬ姿になってそこへ入った二人は、湯気にこもった
湯に浸かると、その香りはさらに強まった。
気持ちだけではない。自覚無く体に蓄積させていた重みのような疲労感が、背中から剥がれていくような感じがする。
「それにしても……まじで気持ちいいわぁ。体が湯に溶けちまいそう……」
「そうねぇー…………」
隣の
緑がかった透明の湯に浸った
「——お気に召したかしら?」
夢見心地な二人に、不意に浴場の入口の方から声が投じられた。
二人も武人である。いきなり聞こえた声にはすかさず反応して瞬時に夢見心地から脱したが、声の主が
「でっっっっっっっ」
風呂桶へ歩み寄ってくる
特に、その豊満な釣鐘型の乳房。
幼さの残る可憐な顔立ちとは不釣り合いなその凶暴な肢体が、背徳感のようなものを感じさせ、
「私もさっきの立ち合いで一汗かいたから、流したいと思ってね」
言ってから、体を流し、風呂桶に浸かった。
「ふぅっ……やっぱり我が一族の薬草風呂は何度入っても飽きないわねぇ……」
甘露な声色でなんとも年寄り臭い物言いをする
……その豊満で形の良い乳房が湯に浮かんでいるのを、
それから、自分の胸に触れてみる。
ぺたん。
父の胸板みたいな感触だった。
(……発育悪いのを気にしたことねーのに…………なんだ、この妙な敗北感)
「大丈夫よ。世の中は広いわ。貴女のような平たい胸の女性を好む男性もいるわ」
その励ましに同調するように、隣の
「そうね。
「な……何言ってんだよ」
「あ。もしかして照れてる?」
「湯気のせいだろっ」
言って、
「大切なのは、見た目だけではないわ。
ぼごっ!!
「と、とこ、床上手、って……!」
「ふふ……この胸ね、前はもう少し小さかったの。あの人が夜、何回も何回も揉んだり顔埋めたりするものだから、こんなに大きくなってしまったのかもしれないわね。子供もたくさんできちゃったし」
(——え。あ、なんだ……頭がぼうっとしてきた…………)
湯の熱と羞恥の熱によって、
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