第5話 泡沫フクロウカフェの再建案

店の経営を健全化する妙案は無いものか。そんな思考で半日ほどが経った頃、思い出したように彼女に報告をした。それは報告の体をした相談であったようにも思う。そして口にこそ出さなかったものの、文房具屋転身への不安感はなかなかの強度で共有できているらしかった。それだけでも幾分か救われた気持ちになったのだから自分が思っていたよりもずっと危機感は大きなものだったらしい。

 「という事だから、何か良い案が有れいただきたい」

「そうですね、私はあまりこの手の取り組みは得意では無いかもしれません」

「そうか、無理を言って申し訳ない」

「とんでも無いです。それに次山さんに思い付かないものが、素人の私に思いつくとも思いませんし」

「ん?それはどういう」

「記憶違いだったらごめんなさい。次山さんは経営学を専攻されていませんでしたか?」

「!?」

そうだたった。俺は大学生で大学では経営学部に所属していたんだった。特に目的もなく学部を選んだ上に、最低数の単位しか見ていなかったため気が付かなかった。そうか、そうだった。もちろん経営学専攻だからと言って経営の専門家という訳ではない。まして意識の低いただの学部生である。素人に毛が生えた、あるいは素人そのものでしか無い。まして講義の内容など学期末のテストをピークにその他の期間はほとんど記憶にない。しかしそれでも幾許かの知識を持ち合わせているに違いはないのだ。

「なるほど、確かにそうだった。しかしだからと言って経営のことがなんでも分かるというわけでは無い。むしろほとんど分からないと言っていい」

「それでも私よりは経営に近いところにいることは違いありません。何より私は次山さんの資質的な部分もとても優秀な人だと思っているんです」

「煽てたって何も出ませんよ。でもまあ、ありがとうございます。少し頑張ってみます」

「はい。一緒に頑張りましょう」


さて、意気込んでみたはいいものの、それで経営センスが覚醒するということはない。まして一大学生にできる施策などかなり限定的であることに違いはない。出来ること、出来ないこと、すべきこと、すべきでないこと、やりたいこと、やりたくないこと。書き出してみよう。まずは脳みその中身を全部ぶち撒けて、そこから組み立てることにしよう。

もっと楽なアイデアは既存のビジネスモデルを真似することだ。既に流行っている、あるいは確立されたもの真似する、TTP(徹底的にパクる)と呼ばれる手法である。これは十分な専門性を持たない我々にとってはその指針となるという意味でも有用ではあろう。しかしそれではおそらく達成できない要件がいくつかある。多くのフクロウカフェは都市部などの人口密集地に位置している。当然その集客力や顧客単価も異なる。そこで同じようなメニューを導入したところで同じだけの効果は間違いなく得られない。そもそもこの商店街自体が集客力に劣るコミュニティであることを忘れるべきではないはずだ。何より持続性がない。断続的に商店街の外からも集客できる何か技必要不可欠である。すると一定の話題性というのも必要なのかもしれない。話題性と実現可能性。答えは思った以上にシンプルで済みそうだ。

足し算なら俺でもできる。

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