第26話 ショタコンと盗人退治の作戦会議
「私……分かったわ。とんでもない魔力量に豪快な戦闘スタイル……。」
リーゼロッテさんの真っ直ぐな瞳に、俺は少し期待をしていた。もしかしたらルイレン様が追われている子供だって気づいて、助けてくれる立場になってくれるのではないか、と。
「あの、ニアっていう子が例の子供ってことね。」
「……?」
「えっ、あ、違うの!?」
……まぁ、無理もないか。ニアだって化け物級の強さだし、半分魔王って言っても遜色ないほどだろう。でも違う。
俺があまりに微妙な表情をするからか、リーゼロッテさんは顔を赤くして誤魔化し始めた。
「そのっ、違くてね、えっと……そんな感じだなーって!みたいだな〜って!!思っただけなの!本気じゃないから!!」
「…あぁ……はい……。」
「えっとね、カツキ君!だからあのね、決して間違えたとか決めつけたとかではないのっ!」
大人の他人に興味を持ったことはあんまりないけど、この人、面白いと思う。酒だけ入れないで頂ければ。何となくだけどブラコン寄りのショタコンっぽいし、いいお友達になれる気がする。
「……お兄さん……。」
「あ、ニアおかえり。大活躍だったね、ちゃんと見てたよ。」
「ありがとうございます。……で、何でリーゼロッテさんは顔が赤いんです?お兄さんは渡しませんよ?」
「冗談は程々にね、ニア。例の子供について話してただけだよ。」
「……そうですか。」
赤面を落ち着けたリーゼロッテさんは、真面目な顔になってニアに頭を下げた。なんというか、頭を下げているはずなのに凄くかっこよく感じる。騎士っぽいというか、誇りがある感じというか……。
「ご助力、感謝致します。」
「……リーゼロッテさんって思ったより強くないんですね。ぼく、戦ったら勝てる気がします。」
「ちょっと、ニア……!」
それは言い過ぎだ。たとえ事実だったとしても面と向かって言うことでは無い。
自分が思ったことをそのまま言ってしまうのは、なんというか、ルイレン様に似てきたというか……うーん……。
「いいのよ、カツキ君。この子が言ってることは正しいから。私がもっと強かったら、過大評価をされても問題は無かったでしょうし。」
「なので、リーゼロッテさん。まずはその重たすぎて自分が振り回されている大剣を何とかしたらどうでしょうか。」
「えっ、これ?……実は騎士団で支給された物なんだけど、私はこれ以上の質の物は扱ったことが無いの。その、お金が足りなくて……。」
お恥ずかしい限り、と言ったように笑うリーゼロッテさんを見て、ニアが口角を上げた。
……営業スマイルだ。普段ならこんな人あたりの良さそうな笑い方はしない。もっとヤバい表情のニアしか見たことがない。
「そこで、です!リーゼロッテさん、ぼくたちの仲間になってくれる気はありませんか?」
「ど、どういうこと?」
ニアの突然の笑顔と提案に、リーゼロッテさんは先程までの真面目な顔が崩れ、疑問符を頭の上に大量に浮かばせて首を傾げた。
「こんな団長が率いる騎士団に攻め入られて街を壊されたのかと思うと、なんか凄く腹が立つんです。せめて少しは強くあってくださいよ。」
「それと仲間になるのとどういう関係があるの?」
ニアは笑顔やムッとした表情などを巧みに使い分け、リーゼロッテさんへ交渉を持ちかける。道具屋の息子、というアドバンテージはこういった所で役に立つのか。
「さっきの戦いぶりを見ている限り、重くて切れ味の悪いその大剣がリーゼロッテさんの技術の足を引っ張っているのは素人目で見ても簡単に分かりました。」
「うっ……。確かに私が扱うには若干重たいけど、それは私が鍛錬不足なだけだから……。」
「質の高い武器で戦えば更なる技術の向上が狙えますよ。それに、武器が軽くなれば機動力もぐんと上がります。」
恐らく俺の剣と同様に、リーゼロッテさんの武器も作るつもりなのだろう。確かに俺の剣も切れ味が鋭くなり、凄く軽くもなった。完全に個人の意見で発言すれば、騎士団長様には是非オススメしたいところではある。
「でも、そこでネックになってくるのは料金でしょう?先程聞きましたから。」
「あはは……そうなんだよね。私の家、結構貧乏でさ……。だからお金は払えないんだ、ごめんね。」
「お金は結構です。ぼくたちは別にお金に困っては無いですし、欲しい素材とかもありません。なので、どうでしょう。ぼくたちの仲間になって、必要な時に騎士団長さんに頼らせてくれませんか。」
「えっ、そんなことでいいの?でも困っている時はお互い様だから、大剣と交換じゃなくても頼ってくれていいんだよ?」
「いえいえ、気持ちは形にしてこそ、ですから。」
ニアが飛び切りの営業スマイルを輝かせる。あぁ、リーゼロッテさんのこの顔は多分効いている顔だな。その場で暫く百面相をして、最後に目を閉じて腕を組み、上を向いて考え込んだあと、先程のキリッとした真面目な表情になった。
「分かったわ。大剣、お願いしてもいいかしら。私やっぱり、皆を守れるくらいに強くなりたいの。」
「はい!それでは至高の逸品を用意しますので、しばしお待ちを!!」
ニアがパタパタと走り去っていく。その姿を見送ってからそこまで時間が経たない間に、ニアが蒼く美しい刃をもった大剣を担いで戻ってきた。後ろからはルイレン様とベアトリシアさんも着いてきている。向こうの方で剣を作ったのかな。アーマードオークが出たお陰で人が少なくなっていて良かった。
「これをどうぞ、リーゼロッテさん!」
「……軽い……!」
「この大剣は、リーゼロッテさんの魔力に反応して切れ味が良くなります。ですので、魔力を込めない限りは普段持っていても危なくないですよ。」
「凄い……!!これ、本当に貰っちゃっていいの?」
「はい、友好の証ですよ。」
こうして大剣を受け取ったリーゼロッテさんは、隅から隅まで大剣を観察して、目を輝かせていた。心なしかルイレン様が疲れているように見えるのは、きっとまた魔法陣の発動や魔力の調整を頑張ってくれたからだろう。
「何から何まで、本当にありがとう!じゃあ、私はローラン様に報告に行かないといけないから、またね!」
大剣を背に担いだリーゼロッテさんが手を大きく振りながら、上機嫌で走り去っていく。残された俺たちは、これからのことを話していた。
「ルイレン様、さっきの大剣にも俺の剣と同じ紋章が入ってるの?」
「いや、少し違う紋章が入っていた。一体なんの紋章なのか、検討もつかないな。」
「ベアトリシアさんにも分からない?」
「うーん……どこかで見たような気もするが……思い出せんのう……。」
そういったやり取りをしている間に、にわかに人々が戻り始めていた。このままここにいれば、そのうち人混みで身動きが取れなくなることは間違いないだろう。とりあえずソニアさんの宿屋へ戻ろうかな。考えたことは皆同じだったようで、俺たちは誰が言い出すわけでもなく、ソニアさんの宿屋へと向かい始めた。
「さて、ミーティングでも始めようか。」
「そうだな。依頼の話をしなければ。」
「ん〜…………、あぁ!そうじゃったのう。忘れとった!」
「忘れないでくださいよ、ベアトリシアさん。」
実は俺も忘れそうになっていたけど、ローラン様から依頼を受けているんだった。盗人退治の手がかりを集めたり、作戦を立てたりしないといけないから、話し合いは必須だ。
「例の盗人は、ローラン様の大切なものを盗んだって聞きましたし、許せませんね!」
「そうだね。絶対に捕まえよう!」
「ふむ……しかし何も手がかりがないが、どのように探し当てる?」
「とりあえず、1人でも顔が割れればそこから魔法で探せるよね。どうやってその1人を見つけ出すかが問題だけど。」
俺の無い頭で色々と考えてみるが、何も出てこない。ニアも同様の状態らしいが、ルイレン様はまだ考えている。ベアトリシアさんは……あんまり興味が無いのだろう、戻ってくる人間たちを窓から眺めていた。
「……ローラン様が盗まれたって言ってたの、何なんだろうね。」
「凄ーく高い何か、とかでしょうか?」
「ありそうだね。でも昨日通してもらった部屋、高価なものいっぱいあったけど、全部貰い物って言ってたし、あんまり興味無さそうだったよね。」
「そうなんですよね……。盗まれたら嫌なものじゃなくて、盗まれたら困るものだったりして。必需品……とか。」
「おい、貴様ら。まともに考えろ。……ローランに協力を仰ぐことになるが、ひとつ思いついた。」
「流石ルイレン様!」
ルイレン様が今の時間の間に考えついた作戦は以下の通りだ。
まず、身長的に気がついて貰いやすい俺がローラン様のように軽く着飾り、盗みやすそうな物をひとつ身につける。これで囮の完成だ。
そして、ひとりで人混みを歩き、盗人が来るのを待つ。ここで、もし出来そうなら路地裏まで誘い出す。
顔が割れれば万々歳。物はそのまま盗んでもらう。
「ここで肝心なのは、盗ませる物には僕の魔力を仕込んでおくことだ。」
「どうして?遠隔で爆発させるの?」
「違う。僕の魔力反応さえあれば、自分で追うことが出来るからだ。これでおおよその場所は分かるだろう。」
なるほどね。ルイレン様の探知魔法かな。あれ、自分の反応も分かるんだ……。俺の場合は画面さんのマップがあるからそれを意識してしまうけど、ルイレン様の感覚ではどんな感じに探知されているんだろうな……。
「うん、いいと思う。とりあえずやってみよう!」
「ルイレンくんの案、いいね!ぼく、お兄さんが着飾った姿が見てみたいです!」
「あっ、え?そこなの?」
「ベアトリシアさんはどう思いますか?」
ベアトリシアさんは窓の外を見たまま、興味無さそうに「いいんじゃないかの?」とだけ口にして、それ以上は何も話さなかった。恐らく肯定の意だと判断し、早速ローラン様のお屋敷に向かうことにした。
「大分人が戻ってきたね。」
「こんなに沢山の人々、どこにいたんでしょうか。」
「不思議だねぇ。」
そんな他愛もない話をしていると、俺たちの前方がざわつき始めた。人混みをギュウギュウと押すようにして、無理やり道が開かれる。
「……ローラン様……。」
「……ローラン様だぞ……。」
「……やはりお美しい……。」
にわかにそんな声が聞こえていたが、コツ、コツ、という音が響き始めると辺りは静まり返ってしまった。その靴音の主はすぐに現れた。
あれ、ローラン様……では、ない……?ローラン様、ちょっと老けた?
頭の上にクエスチョンマークを浮かべている間に、その「ローラン様」は通り過ぎてしまった。元通りの賑やかな通りに戻っていく。
「……ローラン、様……なの?あの人。」
「ぼくたちの知ってるローラン様じゃなかったですね。同名の別人でしょうか。」
「それにしては顔が似すぎているような……。」
今そんなことを気にしたところで仕方がない。全部俺たちの知っているローラン様に聞くとして、今はこの人混みを進もう。ルイレン様とベアトリシアさんがいることを確認し、再度足を踏み出した。
混雑した人混みを抜け、落ち着いた道に入る。昨日もこの道を通ってローラン様のお屋敷に行ったな。覚えてる、覚えてる。
「ごめんくださーい!」
やっと辿り着いたローラン様のお屋敷の門の前で叫ぶ。入り方の所作みたいなものは生憎持ち合わせていないので、このやり方で許して欲しい。
しばらく経つと、トコトコと走ってメイドさんが来てくれた。凄いな、こんなに広いお屋敷なのに気がついて飛んできてくれるとは。
「お待たせ致しました。ローラン様から事情は伺っております。恐らく本日いらしたのは依頼の件でしょう。ご足労お掛け致しました、どうぞ。」
メイドさん先導のもと、昨日ぶりの長い道のりを歩く。今日はジョンさんはいないんだな。あの尻尾を振ってそうな笑顔が少し見たかった気がしなくもない。というか、小さい頃のジョンさんが見たい。写真とか無いのかな……。
「申し訳ございませんが、仕事がありますので私はここで。ローラン様は屋敷に入って右側の廊下を真っ直ぐ、突き当たりのお部屋にいらっしゃいます。」
「ありがとうございます、メイドさん。」
「案内ご苦労じゃったな。」
メイドさんと別れた後、言われた通りにお屋敷の中を進む。外の庭も広かったけど、お屋敷の中も凄く広い。これは仕事が大変になるわけだ。
件の部屋に着いたが、ドアが少し開いている。俺はつい、興味本位でというか、何も考えずに覗いてしまった。
「……!」
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