第25話 ショタコンとアーマードオーク
「王様が探している子供は、史上最悪の悪魔の子なんだって。」
リーゼロッテさんからの突拍子もない発言に一瞬俺もフレーメン反応起こした猫みたいになりそうになったが、なんとか意識を持ち直す。
史上最悪の悪魔……?ルイレン様の父親は国王っていうことはお母さんが?
「……どういうことですか?」
「どういうって、私は聞いたとおりに話してるだけだよ。」
「そうでしたか……。それにしても史上最悪の悪魔って一体どんな悪魔なんですかね。」
「お兄さん!僕知ってますよ!!」
ニアがガタン、と音をさせて椅子から飛び降り、俺の服にしがみつく。と、同時に、グイグイと引っ張り、リーゼロッテさんから俺を離そうとしているようだ。
「ニアは物知りだね。」
「いえ、そんなことは。ただ、例の本に書いてあったんですよ、その……通り名みたいなやつが。」
「ソニアさんの本に?」
「はい。『史上最悪の悪魔』は先代の魔王のことです。産まれた時から時期魔王とされていた彼女は、人間を憎むように恨むようにと育てられました。最終的には彼女の指示で人類種は元々の人口の3割まで減ってしまったんだそうです。」
「そうだったんだ……。なんだか悲しいね。」
「でも本の中では、勇者ショウタロウが黒幕を見破り打ち倒しました。そして戦いの中で殆ど力を失い、人間程度の力を残すのみとなった魔王ラプラスと結ばれた……で、物語が完結しています。」
……やっぱり、ルイレン様のお母さんは魔王ラプラスかな……。あれ?でも待って。ベアトリシアさんは確か、ルイレン様を『天界に属する者』って言っていなかったっけ?つまり、ルイレン様のお父さんは王様じゃない……?
考えごとをしていると意識が目や耳にいかなくていけないな。ふと視線に意識を戻すと、またニアがリーゼロッテさんを睨みつけていた。
「こら、ニア。リーゼロッテさんを睨みつけたらダメだよ?」
「この人に近づけると、お兄さんに悪い影響がありそうで……。ええ、つまり、なんか嫌です。」
「なんかって何……?ニア、いい子だからリーゼロッテさんと仲良くしてよ……。」
「嫌です!例えお兄さんの頼みでもそれは聞けません。……それに、この人ってあの城の人なんでしょう?……ぼくの街を襲った。」
ニアの表情が少し暗くなる。全て元の状態に戻ったとはいえ、あの出来事はニアの中で多少なりともトラウマを残したのかもしれない。そう考えるとニアが嫌がっているのを強制するのは良くない気がしてきた。
「……もしかして、ニアちゃんってアルシーナの子だったりする?」
「……そうですよ。」
「謝って済むことではないって分かっているけど、本当にごめんなさい。言い逃れがしたい訳ではないけれど、私は反対したのよ。やりすぎだって。」
「口ではなんとでも言えますから。」
「たった1人の子供の為に、王様は……ディルサニア帝国を滅ぼしてもいい……と。明らかにおかしいのに、私には何も話してくれないの。」
あのクソ親父は、自分の権力や土地、そして国までも投げ打ってルイレン様を探し出すつもりらしい。リーゼロッテさんは心苦しそうにボソボソと話してくれた。
「……そうか。リーゼロッテ、お前は王のやり方に反対なのだな。」
「ルイレンくん……そうね、大反対だわ。私には弟がいるもの、もし弟がこんなふうに狙われたりしたら……私には耐えられないもの。」
「貴様の弟の話はしていない。今はその『子供』とやらの話をしている。兎にも角にも、探す気は無いのか?」
「……キミっ……いや、そうね。その子が何をしたっていうのよ。王家に背を向けることになっても、私は匿ってしまうかもしれないわね……。でも、危険な存在であるという可能性も捨てきれた訳じゃないでしょう。だから……私は……。」
リーゼロッテさんは悲しそうな顔をした。恐らく、その子供と自分の弟を重ねてしまったのだろう。産まれたことは罪か?生きているだけで追われるべきなのだろうか、と。誰かにとってその子供は、自分にとっての弟のような存在かもしれないのだ。
「大変だ!街の外にモンスターが!!」
急に響いたその声は、宿屋の外から聞こえてきた。元々依頼を受けていたというリーゼロッテさんは、いち早く気づきドアへと向かうが、ドアノブに手をかけたところで静止した。
「……私、頑張るわ。」
「でも、リーゼロッテさん……手が震えて……。」
「ねぇ、カツキ君。この任務失敗したら、皆の誤解は解けるかな……?」
リーゼロッテさんはドアを勢いよく開け放つと、そのまま走っていってしまった。
俺はどうするべきだろうか。彼女は城の人間だ。例えルイレン様を狙っていないのだとしても加勢するのは……。
悩んでいると、ルイレン様が俺の背を叩いた。
「ショタコン、何をしている。」
「……ルイレン様……。」
「リーゼロッテを放ってはおけないだろう。さっさと足を動かせ。」
「ぼ、ぼくもお供します!えっと、絶対にお兄さんのお役に立ちます!」
「なんじゃ?行くのか。まぁ、あやつには借りがあるからのう、儂も着いていくとするかの。」
俺を置いて、3人がドアをくぐり抜ける。ニアとベアトリシアさんが走り出し、ルイレン様は俺に少しだけ視線を向けてから走って行った。そうだ、何も考える必要はない。友人が危ない、それだけで動くには充分じゃないか。
「皆速いよ……!」
3人の姿がギリギリ視認できる所まで遠くなってから、俺も後を追い始めた。小さい3人にはすぐに追いつくことができ、途中でベアトリシアさんは別行動をする、といい離れていった。俺とニアとルイレン様はリーゼロッテさんを見つけようと街の外へと出た。広い原っぱが広がっている。
「ショタコン、こっちだ。」
「分かった!」
「はぁ……ま、待ってくださいよ〜……。」
「ニア、おいで。」
ニアを背に乗せ、ルイレン様と走り出す。そう、ニアくらいの子供だったらこれが普通だ。俺と同じ速度で長い距離走れている方がおかしいんだ。でも、もし魔王の息子だとしたら説明はつくのではないだろうか。きっと、人間の常識は通用しないのだから。
「……っ、いた!!」
モンスターと戦っているリーゼロッテさんを見つける。あれは……なんて言うモンスターだろうか。
【アーマードオーク】
オークの中でも硬い外皮を持った種類。知能は低く、攻撃的な性格をしている。強さはBランク強程度だが、1匹を倒すと、その匂いに釣られて周囲のオークがやって来るため凄くめんどくさい。
分かった、ありがとう画面さん!
「ルイレン様、どうする?」
「リーゼロッテが今戦っているアーマードオークの血の匂いで、段々集まってきているな……。」
「集まらないように出来ないかな、ルイレン様。」
「それは無理だ。匂いは遮断できない。……だが、数は多いが何とかなるだろう?さぁ、頑張ってこいよ、お兄ちゃん♥」
「………っ!!!」
なるほど!俺が全部倒したらいいんだね!!待ってて、お兄ちゃんが全部倒してくるからね!!
ニアを背から下ろし、剣を抜いて走り出す。視界には大剣を振るうリーゼロッテさんが映る。騎士団長の肩書きは飾りではないようで、巨体のアーマードオーク相手にかなり善戦している。
「……でも!」
リーゼロッテさんは視野が狭いな。リーゼロッテさんの横から迫ってきている新たなアーマードオークに剣で一撃を食らわせる。流石ベアトリシアさんとルイレン様が創り出した剣なだけあって、アーマードオークの硬い外皮もスパスパッと切れてしまう。
「キミ……!危ないから離れていて!!」
「あはは、それは聞けませんね。俺、お兄ちゃんなので!!」
「えぇ……?」
「リーゼロッテさんこそ、危ないですよ!」
リーゼロッテさんの戦っていたアーマードオークの首を跳ね、次に来るアーマードオークに備えた。リーゼロッテさんはキョトン顔で俺の顔をまじまじと見てくる。
「なんて強さ……キミ、一体……?」
「リーゼロッテさん、お話をしている場合じゃないですよ。次が来ています。」
「ひっ……、本当だ……どうして……。」
「血の匂いに釣られたんだと思います。かなり集まってきているみたいですので、覚悟を決めてくださいね。」
リーゼロッテさんは少しだけ怯えた表情を見せたが、すぐに歯を食いしばって大剣を握り直した。それでこそ騎士団長だ。すぐにアーマードオークがやって来て、俺たちに襲いかかる。
状態異常がショタコンで良かった。そのお陰で身体能力が上がっているし動体視力も良いみたいで、大雑把な攻撃は見切りやすい。
「……っ、はぁ、リーゼロッテさん、大丈夫ですか!?」
「ぐっ……、だい、大丈夫よ!これくらい!!私、頑張ってみせるから!!はぁぁぁあああ!!」
リーゼロッテさんの渾身の一撃がアーマードオークの首を捉える。リーゼロッテさんの倍はあろうかという巨体がバタバタと倒れていった。
大剣もカッコイイな。遠心力も合わせて舞うように戦っている感じがして。泥臭いながらも魅せる戦い方な気がする。
『ショタコン、リーゼロッテを連れて街の門まで戻れ。準備が整った。』
『えっ?……うん、分かった。でも何するの?まさかジャバウォッキ=ジャバウォッカの時のやつ、またやるつもり?ダメだよ、また倒れられたら悲しいし……。』
『違う、僕は何もしない。リーゼロッテの前で目立つ魔法を使う訳にはいかないからな。』
『……そう?ならいいけど。』
あの時の自分の無力さは痛いほど覚えているからな。ルイレン様だけに戦わせて、俺は動けないから守ってもらって、しかもルイレン様はその後倒れてしまって……。もうあんな不甲斐ない思いはしたくない。
「リーゼロッテさん、撤収です!」
「えっ!?でも、まだこっちに向かってきてるアーマードオークがいっぱいいるのに……!」
「大丈夫です、後は任せましょう!」
「ど、どういうこと!?あっ、ちょっと!!」
困惑するリーゼロッテさんの手を引いて門の中へと戻る。ルイレン様が言うんだ、きっと大丈夫だろう。
自分がやる訳じゃないって言ってたってことは自己犠牲的ななにかでは無いだろうし。流石のルイレン様もニアやベアトリシアさんに自己犠牲を強いたりはし無いだろうし。
「ちょっと、カツキ君!!私にはまだやることがあるのよ、邪魔しないで!」
「大丈夫ですって。俺たちがやるべきことはもう完遂しましたから。あとはここで見てましょう。」
「だから、それはどういう……。」
困惑したままリーゼロッテさんが門の外へ視線を向けたその瞬間、街の時計台の上から光線が放たれ、アーマードオークを貫いた……というか木っ端微塵にした。リーゼロッテさんがポカンと口を開けて固まっている……そして俺も同じように。
時計台を見るとそこには、立ったまま……あれは対物……ライフル……?を構えるベアトリシアさんがいた。
えぇ……、あんまり詳しくないんだけど、それ、立ったまま打つものじゃなくない……?魔力を撃ち出す銃だと違うのか……?
『フフン、カナよ、儂の素晴らしい狙撃技術をとくと見よ!!』
『あれ?ベアトリシアさんって念話使えるの?』
『一時的にぼくが繋いでいるだけです。お兄さん、ぼくの見せ場も見ていてくださいねっ!』
『えっ?』
頼む、張り切らないでくれ。ニアが張り切って思い切り魔法を使うと街にまで甚大な被害が出そうなうえに多分リーゼロッテさんがショックで気絶する!!
そんなことを考えている間にも、集まってきたアーマードオークは次々とベアトリシアさんの狙撃によって木っ端微塵にされていく。しかし、数が多すぎて間に合っていない、というのが実際のところ印象強かった。
「……カツキ君、やっぱり戻った方がいいよ!数が多すぎる!!」
「ダメです。」
「いや、だからなんで……。」
またしてもリーゼロッテさんが視線を門の外へ向けた瞬間、ニアの魔法が炸裂する。なんて名前の魔法かは全く分からないけど、大量のアーマードオークが風により上へ上へと宙を舞っていることだけは確かだ。ある程度の高さまで飛んでいくと、いくつもの光るゴムバンドみたいな物で一纏めにされていく。あ、この魔法は知っている、
「なぁ……っ!?」
リーゼロッテさんがそれ以上は開かないだろうなってくらい全力で目を見開き口をポカンと開けている。俺は日頃の奇行含め色々と慣れてきたのでそこまででもない。やっぱりニアって凄いな、と思った程度だ。
全てのアーマードオークが一纏めになった瞬間、時計台の方からさっきの対物ライフルの時とは比べ物にならないくらい太く短い光線……ミサイル?が発射され、全てのアーマードオークを消し炭にしてしまった。
その後アーマードオークの姿は街の外に確認出来なかったため、これで任務完了だろう。
「リーゼロッテさん、これで任務完了ですね。」
「……カツキ君。」
「どうしました?」
「私……分かったわ。とんでもない魔力量に豪快な戦闘スタイル……。」
リーゼロッテさんの真っ直ぐな視線が刺さる。その瞳は全てを察し、理解した色をしていた。
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