第19話 ショタコンと新たな街
ベアトリシアさんを仲間に加えて、俺たちは次の街を目指していた。ロザニアは小さい街である為に物資の補給があまり出来なかったので、次に向かう街は少し大きめの街だ。マップによるとユシオというらしい。
「お兄さーん……まだ着かないんですか?」
「あとちょっと距離があるかな。」
「ぼく、ちょっと疲れちゃって……。」
「そっか、じゃあ休憩しようか。ごめんね、気づかなくて。よく頑張ったね、ニア。」
頑張ったニアの頭を優しく撫でる。
うん、俺の掌で掴めそうな大きさ……。
転生してから身長が伸びて身体が大きくなったから、ルイレン様やニアみたいな子どものことを、より小さい子どもとして認識するようになってしまった。
ついつい甘やかしてしまうから、早く成長して欲しい……とも少し思う。
「ルイレン様は疲れてない?」
「僕は大丈夫だ。」
「ベアトリシアさんは?」
「儂が老いぼれだからといって、人間の体力と比べられては困るのう。」
どうやら人間では無いらしいルイレン様と、ダークエルフであるベアトリシアさんは平気なようだ。恐らく俺は、ショタコンの状態異常のお陰で全体的にステータスが上がっているから平気なのだと思われる。考えてみると、魔力量が凄いからと言ってもニアはまだ子どもなのだから、歩き過ぎて疲れてしまっても仕方がないだろう。
「はぁ〜……。ちょっと休んだらまた歩けますから。ちょっと、ちょっとだけですからね……。」
「ニア、無理しないでね。」
「お兄さんは優しいですね。お嫁に……。」
「行かないけど。」
「ですよねー……。」
それにしても、俺はニアやベアトリシアさんのことをショタとは認めていないのだが、仲間欄に2人の名前がある。多分、この2人分もステータスは上がっているんだろう。個人的には納得いかない。ショタ判定が雑だ。
「ねぇ、ニアって何歳なの?」
「ぼくですか?10歳です。」
「そうなんだ。ベアトリシアさんは確か3568歳……だっけ?」
「3682歳じゃ。フフン、若く見られて困るのう。」
「そっか。」
四桁の数字になってしまうともう覚えられない。というか覚えていられない。あと、覚える必要もない。もう一緒だろう、どっちでも。あと、これは持論だが、実際の見た目がショタでも女装してるってだけで、もうそれはショタとは別の生き物だ。
「ルイレン様は?」
「知らん。覚えていない。」
ルイレン様は腕を組みながらクールに答える。確かにルイレン様は母親のことを覚えていないと言っていたし、王様のことは父親とも思っていないと聞いた。となると、他に聞けそうな相手は……。
「正太郎に聞いてない?」
「……じいや……に、聞いた気もするが……うむ……、忘れてしまったな。」
「何それ、気になる……。」
「じいやは無事だろうか。恐らくあの街を抜け出して、何とか逃げ延びているだろうが……。」
「なんじゃなんじゃ?何の話じゃ??」
そういえば言っていなかったと、ベアトリシアさんに色々と事情を説明する。ルイレン様との出会い、ニアとの出会いも。これからのことも考えて、先に話しておいた方が良いだろう。
「なるほど……その、なんじゃったっけ、じいや?が今どこにいるか知りたいんじゃな?」
「えっ、それが分かる魔法とかあるんですか!?」
「あるにはあるが、儂は使えんぞ。ルイレン、もし使いたいなら教えてやるが、使ってみるか?」
「……そこまで凄く気になっている訳では無いが、その魔法には興味がある。ベアトリシア、その魔法を教えてくれ。」
何故だか、ルイレン様は俺と違って正太郎の安否をあまり気にしていないようだ。勇者だった正太郎のことを知ればそれも普通かもしれないが、俺にとっての正太郎は前世の記憶のアイツだからか、常人離れした強さの正太郎なんて想像がつかない。
「よし!魔法陣を描くから起動してくれ。それだけじゃ!」
ドヤ顔で両手を腰に当て、胸を張りながら彼はそう言った。ベアトリシアさん自体そもそも魔法が苦手なので、感覚とかそういったものは教えることが出来ないんだろう。代わりに知識を、とかそういう感じだ。
「というかルイレンや。お主、結界魔法や転移門を使っていたじゃろ。あれは誰かに教わったのか?」
「さぁ、どうだったか……。じいやに聞いたか、もしくは本で読んだか……だな。」
「あれらは人間には扱えない代物じゃ。何者なんじゃお主は。」
「知らん。」
ルイレン様は屈んで、ベアトリシアさんが描く魔法陣を眺めている。人間じゃないだろう、と暗に言われているにも関わらず、真剣に。恐らくルイレン様は自分には興味が無いんだろう。
「よし!出来たぞい!」
「魔法陣、起動。」
魔法陣の完成から間髪入れずに、ルイレン様がそれを起動する。眺める時間はもう要らないのかな?ベアトリシアさんも少し「えっ?」みたいな顔をして、魔法陣とルイレン様を交互に見ている。
「成功か?」
魔法陣が光りだして、やがて湖面のようになった。そこには、あの時一瞬だけ見たじいやさんの顔が映っている。とりあえず無事だと思われる。
それにしても……いや、これが正太郎かぁ……。
俺とお揃いの銀髪……ではなく白髪。顔には深くシワが刻み込まれ、イケおじ感のある髭を蓄えている。
「だれ……じゃない、正太郎か……無事みたいだね、良かった……。」
「おい、ベアトリシア、これはどこだ……?」
「フフン、とりあえず当人の様子が分かるだけの代物じゃ。これがどこかは頑張って探すんじゃな。」
「……何度も使うとか、僕は出来ないからな?」
ルイレン様の口ぶりから察するに、この魔法は魔力消費が大きいらしい。
ニアなら何度でも出来るだろうけど、上手くいくかどうか……。いや、ここは魔力制御の練習も兼ねてやってもらおうかな。
「ニア、これ出来る?」
「で、出来ますっ!任せてください、お兄さんの期待を裏切るぼくではありません!!」
目を爛々と輝かせて魔法陣をミスのないように、自分の魔導書に書き写していく。ニアが魔法を使うには、魔法陣が必ずどこかに必要となるらしい。それにしても、ベアトリシアさんがガトリングガンぶっぱなす時の魔法石は一体どこにあるのだろうか。
「よぉ〜し!魔法陣、起動っ!!」
「……あっ。」
魔法陣に手を伸ばしたニアに対してルイレン様がなにか言おうとした瞬間、魔法陣からとんでもない光が柱のように飛び出した。ベアトリシアさんは腕を組んだまま微動だにしない。
「魔力を込めすぎだ。落ち着きのない奴だな。」
「フフン、ニアは若いんじゃし、これから覚えていけばいいじゃろ。」
一方のニアは、自分で発動させて自分で驚いてしりもちをついている。ビックリした顔のまま硬直して、放心しているようだ。
「はわ……。」
「ニア、大丈夫?」
「お、お兄さん、そ、その……ごめんなさい、失敗しちゃって……。」
「……いや、失敗ではないのかも。」
ニアの手から離れて地面に落ちた魔導書の上に、正太郎が映っている画面のようなものが浮き出ている。どうやら、ルイレン様が発動させた時より広範囲で見えるらしく、建物の造形や人間などかなり分かりやすくなっている。
「あ、この銅像……。」
正太郎が映っている背景に、かなり目立つ銅像が建っていた。
これから位置検索……とかってできるかな、画面さん。
【平和の像】
ディルサニア帝国、ユシオの街にある銅像。中央の広場の隅に建てられており、あの忠犬の像みたいに待ち合わせ場所として広く知られている。
「ここ、ユシオなんだ。もしかしたら後で会えるかもしれないよ、ルイレン様。」
「そうか。」
「ルイレンくん、さっきから反応薄いけど、じいやさんのことあんまり好きじゃないの?」
「いや、そういうことでは無い。……とは思……あぁ、いや……うむ……自分でもよく分からんな、なんとも言えん。」
ルイレン様は言葉を濁してそっぽを向いた。ニアは立ち上がり、服についた土を払って魔導書を拾って俺の手を取った。
「お兄さん、お待たせしました。ぼく、もう大丈夫ですから、歩けますよ!」
元気いっぱい、といった素振りを見せたニアに微笑みかけ、ルイレン様とベアトリシアさんの方に視線を送る。
「そろそろ行こうか。」
「まだ行かんなら儂がニアをおぶってやろうかと思っとったわい。ほれ、ルイレンも行くぞ。」
「あ、あぁ……。」
ルイレン様の肩に腕を回し、半ば強引に進み始めたベアトリシアさんに続いて、俺とニアも歩き始める。
ルイレン様がああいう強引なのを嫌がらないって珍しいな……。後で雨でも降るかもしれない。
暫くニアと談笑しながら歩いていくと、建物の群れが見えてきた。
「あっ、お兄さん、あそこ!!街じゃないですか?あ〜、やっと着きましたね〜!」
「そうだね、あれがユシオかな。ルイレン様、ニア、ベアトリシアさん、お疲れ様。」
「おう、お疲れ様じゃ。これからどうするのか考えておるか?」
「物資の補給と、できれば正太郎を探して近況報告をしたいかな。もしかしたら城の兵士が来ているかもしれないから、慎重に行動してね。」
ベアトリシアさんは屋台めぐりに行きたいということで、俺とルイレン様、ニアの3人で物資補給と正太郎探しに行くことになった。
まずは食材を買いに行こう。毎日同じ食料だと飽きてしまうから、ルイレン様が作ってくれる料理のレパートリーを増やせるように、色んな食材を買いたい。幸い、ベアトリシアさんから貰った報酬があるので、お金には困っていない。
「ルイレン様、あれ美味しそうだよ!!」
「ショタコン、あれは食材じゃない。建材だ。」
「えっ。」
「あはは、お兄さん、面白いこと言いますね!やっぱり可愛いです、お嫁に来てくださいよ。お母さんも喜びます!」
「いやいや、俺が来たら困惑するでしょ。ニアのお母さん。」
どうやら俺は食に関する全てにおいてダメダメらしい。でもルイレン様がいるから特に気にならないし不自由もしていない。幸運な事だ。
食材を見て周り、気になったものを買い出して、俺の収納へとしまっていく。大体十分な量を仕入れたので、次は正太郎探しだ。あの平和の像はどこだろうか。人が多いので、はぐれないようにふたりと手を繋いで進む。
「あっ、ルイレン様、ニア!あの像じゃない?」
「ホントですね!割と早く見つかりましたね、ここ。」
「……。」
買い出しが終わった後から、ルイレン様が異様に静かだ。何か気に障ることがあったのだろうか。だとしたら俺は謝らなければならない。言ってくれればいいのに。そんなことを考えていたら、ふと俺の右手を握っていた小さな手に力が入る。
「……ニア?」
「……今の……。」
「正太郎見つけたの?」
「あっ、いえ。なんでもありません。気のせいだと思うので!」
ニアはえへへ、と何かを誤魔化すように笑った。なんだろう、2人ともから何かを隠されている感じ。アウェイ感があって少し寂しい。
「ニア、誰か見たのか?」
「ううん、気のせいだから!」
「そういう時は気のせいではないことが多いだろう。何を見た?」
ルイレン様は、誤魔化していることが丸わかりなニアのことを腕を組んで見据えている。カッコ可愛いとはこのことだ。ニアは根負けしたように、少し顔を赤くして話し出した。
「あ……うう、遂に憧れの気持ちが幻覚を引き起こしたのかと思ったんだよ……。さっきね、あっちの方にソニアさんがいた気がしたんだ。」
「ソニア……魔導師ソニアか。じいやがいるということは、かつての仲間がいてもおかしくは無いだろうな。」
ルイレン様はニアの言葉をサラリと受け止めて飲み込み、あっさりと肯定して返した。
魔導師ソニアか……あの、ダークエルフの街を……滅ぼした……。あっ、まずいかも。
「ニア、ソニアさんはどっちに行った!?」
「ええっ!?じ、じいやさんを探すんじゃないんですか?や、やっぱりお兄さんは女の子の方が好きで大切なんですね……。」
「そうじゃないよ!ニアの話だと、ソニアさんはダークエルフを憎んでる!このままだとベアトリシアさんが危ない!!」
「……っ!確かにっ!!」
ニアはハッとした顔をして周りを見渡した。集合場所の名所なだけあって、人が多い。画面さんが言ってた、あの忠犬の像みたいっていうやつ、すごくわかる気がする。
それらしい人影が見当たらなかったらしいニアは、ソニアさんを見かけたと思われる方向に走り出した。それについて、俺もルイレン様と走り出す。
「ショタコン、僕は……。」
「えっ、何?」
「いや、なんでもない。さっさとソニアとやらを探すぞ。」
何か言いたげなルイレン様のことも気になりつつ、俺たちは先を急いだ。
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