第5話 ショタコンとアルシーナ
朝食後、そう高くない山を下山して森の中を歩き、時々綺麗な景色を見つけては休憩しながらアルシーナを目指した。
「だから、もう危ないことは……!」
「分かった、分かったから。何度目なんだ、そのお説教は。」
終始こんな感じでアルシーナまで戻ると、変わらずの景色と人々が出迎えてくれた。ニアの道具屋に行く前に、とルイレン様はとある空き地で足を止めた。
「ルイレン様?」
「合成を先に終わらせないとニアに魔法石を渡すことが出来ないだろう。ドラゴンの魔法石を全て寄越せ。」
「……ルイレン様、手ちっちゃいから全部持てないんじゃない?」
「なら手を貸せ。」
俺の手のひらにこんもりと乗せられた魔法石に、ルイレン様が手をかざす。すると、魔力に反応したのか淡く発光しだした。
段々と体積が減っていき、手で包める程度の大きさになると、ルイレン様は俺の手から魔法石を取り上げて、祈るように握った。
「……出来たぞ。中々綺麗だな。」
「綺麗なピンクだね。形……これ、何?」
「小鳥だ。」
「んふっ……可愛い……。」
小鳥の形に小さくなった魔法石もそうだが、何より小さくするなら小鳥の形にしようと思うルイレン様が可愛い。思わずヨダレが垂れるところだった。
こうして俺たちはニアの道具屋へとまた歩を進め始める。何事もなく入り口までたどり着いた時、聞こえてきたのはニアとお母さんの話し声だった。
「魔法石ぃ?」
「うん、わたしね、魔導師としての才能があるんだって。だから……。」
「んなわけないでしょ。せっかく可愛く産んでやったんだから、魔法がどうのとか言ってないで店に貢献しな!」
「でも、わたし……魔導師になりたいの……。」
「そんな夢物語ほざいてないで、これ店頭に並べてきな!はぁ、全く……反抗期かねぇ……。」
「……はい。」
とぼとぼと店の入り口まで歩いてきたニアは俺たちに気がつくと、お母さんに渡されたものをさっさと並べてから駆け寄ってきた。
「おかえりなさい!どうでしたか……?」
「最高の魔法石を用意した。これだ。」
ルイレン様が魔法石をニアに渡すと、ニアは目を輝かせてまじまじと観察した後、大事そうにしまった。
「ところでだがニア、先程のやり取りは……。」
「あ、えへへ……お恥ずかしいところを見られてしまいましたね。お聞きの通りですよ、反対されていただけです。」
「でも、ニアは夢を見つけたうえに、人に話せるまでになったんだね。凄く成長したよ。」
「その通りだ。夢を語るのは勇気がいることだからな。忙しくなければ簡単な魔法を教えてやるが、どうだ?」
「ちょうど客足がパッタリ途絶えたところです。よろしくお願いします!」
ニアを連れて魔法石の合成をした空き地まで来ると、ルイレン様は大きな板を用意して、何重かに円を書いた。弓道とかで見る的のようだ。
「ショタコン、これを持ってここで立っていろ。大丈夫だ、防護魔法をかけておいたから、盾にしてくれていい。」
「えっとルイレン様、私は何をすれば……。」
「まぁ待て。防護結界展開……視認阻害付与。うむ、こんなものだろう。」
昨日も見たステンドグラスのような結界が俺たちを覆う。ルイレン様の言葉や周りの様子から察するに、結界の中で何が起こっているのか見えなくなる、みたいなものだろう。
「えっ、どういうこと?魔法を、魔導書も魔法石も使わずに発動するなんて……。しかも、結界……?そんな魔法、知らな……。」
「企業秘密だ。」
「わ、分かりました。では何をしましょうか。」
「魔導書と魔法石は用意しているな?ではまず、ニアの魔力の属性を見せてもらおうか。手を出して、魔力をそのまま手のひらに乗せる感じで……いいぞ。」
確かによくよく見るとニアも男の子っぽいところが見える。可愛い服は着ているけど、男の子なんだって気持ちで見たら確かに男の子だ。
そんなニアの差し出した手をルイレン様が取って凝視している。
「……うーん……光……か?」
「魔力の属性ってそんなに分からないものなんですか?」
「光属性が僅差で得意というだけで、他の魔法も問題なく使えるだろう。適性の差がよく分からん……そういった奴は稀だ。」
手を離したルイレン様はこっちに向かって手を振った。今から魔法が飛んでくるから気をつけろ、でいいのかな。
「では初歩の初歩、
「は、はいっ!」
ニアがこちらに向き直り魔導書を開いたので、こちらもぐっと的を掴む手に力を込める。
ニアの手から魔導書が浮き上がり、栞に付いた魔法石が煌めく。魔法とかよく分からない俺でも鳥肌が立つ。
「……行きます!
「……!!」
的の後ろに思わず隠れたが、ルイレン様が防護魔法をかけたにも関わらず、的はあっさり破れ去ってしまった。ルイレン様の焦った声と共に、身体全体に光の魔力を浴びる。
身体の表面がチリチリ痛い。眩しくて目も開けられない。何が起きているのか全く確認が出来ない。
「ショタコン!」
「……ルイレン様?」
声がした方へ何とか顔を上げると、光の中に可愛いショタが見えた。いつの間にルイレン様は天使になっちゃったんだろう?
「こっちに来い、ショタコン!」
ルイレン様が両手を広げて待っている。ここで行かねば
「わっ……。」
勢い余って倒れ込んでしまい、ラブコメとかでよく見るラッキースケベみたいな構図になった。いつの間にやら眩しかった光は消えて、すっかりいつもの景色に戻っている。
「ショタコン……無事か……?」
「ちょっと全身擦りむいたみたいになってるけど無事だよ。」
「ご、ごめんなさ……はわっ!?」
ニアが駆け寄ってきたので顔を上げるが、顔を真っ赤にしている男の娘がそこにいた。
確かにこの構図、慣れてない人からすると刺激的以外の何物でもないよな。ルイレン様は平気みたいだけど。
「お、お邪魔しましたぁ!」
「違うよ、ニア……いて、ルイレン様、痛いよ。」
「……ふん。
急に腕を抓られたかと思えば、そのまま回復魔法をかけて傷を癒してくれるなんて、もーツンデレなんだから!
「えへへ、早とちりでした。てっきりそういう関係なのかと。」
「そういう関係、とは何だ?」
「んー、恋人関係?それとも片思い?あ、もしかしてセフ……むぐっ。」
「っ、ダメだよー……。」
なんてこと言いやがるコイツ!!
あと、ルイレン様は平気だったんじゃなくて、知らなかったんだ。だから理解していない。つまり純粋なんだ……。
そんな純粋で可愛いルイレン様にそんな俗っぽいことを教えないで頂きたい!
「お、おいショタコン、そろそろ離してやったらどうだ?」
「あぁ、ごめん。」
「ぁぷあっ!何するんですか!!わたしはただ……あ……ぅ……ごめんなさい……。」
無言の圧で理解していただけたようで何よりだ。
あー、ルイレン様、何も分かってないみたいな顔してるなー……。
「コホン、さてニア。魔法を使ってみた感想は?」
「なんて言うか……凄く……ワクワクしました。もっと色んな魔法を使ってみたいんですけど……。」
「流石にショタコンが死んでしまいそうだ。先程は防護魔法をかけたのにも関わらず負傷してしまったしな。」
「あれ、俺にもかけてくれてたんだ。ルイレン様は優しくて可愛いなぁ〜。」
撫でようとした手を払いのけられてしまった。手のやり場に困って、動きの流れに従ってニアの頭に手を乗せる。今度は払われなかったので、そのまま撫でた。
「お兄さん……?」
「あれ、ニアはお兄さんって呼んでくれるの?」
「それより、なんでわたし撫でられてるんですか?怒ると思ったのに……。」
「ルイレン様が回復してくれたからいいかなって。」
撫でながら笑うと、ニアは恥ずかしそうに俯く。ルイレン様はそんな俺たちを冷めた顔で見つつ、的を回収してため息をついていた。
「ルイレン様、この後はどうするの?」
「優先すべきは魔力の出力調整の仕方を覚えることだな。ショタコンは……どうする?見学していくか?」
「いいや。ちょっと街でも散歩してくるよ。」
「行ってらっしゃい、お兄さん。」
やっぱりお兄さんって呼ばれると気分いいな〜。
手を振って街へと繰り出す。のどかな街並み、賑やかな人々、そして怒声……あ、ニアのお母さん。
「そこのアンタ、ニアが連れてきた客だろ!?あの子知らないかい?」
「知らないですね、どうかしたんですか?」
「あの子また店番放って……。店継がせるためにまだまだ教えないといけないこと、いっぱいあるってのに!」
あぁ……この人は多分、自分の意見で周りが見えなくなってる人なんだ。漠然とそんな気がする。
「ニアは店を継ぎたいって言ってるんですか?」
「知ったこっちゃないよ。親が道具屋なんだからあの子も道具屋なんだよ!なのに最近は一丁前に夢を見始めてね、下らない……。」
「……下らない、なんて……。」
いつの間にか俺は肩を震わせていた。出会ったばかりのルイレン様の姿が俺の脳裏に浮かんで、余計に頭を沸騰させていく。
「子供が見る夢を母親が応援しないで、誰が応援するんですか!」
「な、なんだい、急に!?」
「子供にだって感情があることをお忘れなく。子供の将来を決める権利は親にはありませんからね!」
「何が言いたいんだい、ただの冒険者のくせに!」
「なら、ただの冒険者の言葉として、頭の片隅に置いておいてください。強い圧力をかけ続けると、いつかその分の反発を食らうことになりますよ。」
呆気に取られているニアのお母さんを置いて、その場を足早に去る。
や、やっちまった……!何カッコつけてんだ俺!他人様のご家庭に口を出すなんて、ただの冒険者なのに偉そうに!
「あ、おい、そこの兄ちゃん!旅のモンだろ、せっかくこんなド田舎に着てくれたんだ、監視塔登って行かないか?」
俺に話しかけてきたのはおっちゃんだった。お兄ちゃん扱いって言ってもこれは違う気がしてならない。
でも気になるな、監視塔ってニアが登ってたところだよな……。
「ぜひ!」
「よっしゃ、じゃあこの梯子登りな!おっちゃんは後から登っから!」
梯子に手をかけると、意外にも頑丈な作り。どんどん登って、てっぺんに着く頃にはもう、家々の屋根か下に見える程の高さまでになっていた。
「すげー……。」
「高ぇだろ〜。ここらはモンスターがよく出るからな、街のために見張りが必要なのさ。」
「そうなんですね……。」
高いのはさておき、柵が低い!これはニアも落っこちてくるわ。決して広くはない監視塔に男2人。足がはみ出しそうで怖い。
「兄ちゃん、怖いのか?そんなんじゃ女にモテねぇぞ〜。」
「いませんよ、そんな相手。」
「ははは、そっかそっか!……あ、兄ちゃん、髪にゴミついてるぜ。取ってやるよ。」
「ホントですか、お願いします。」
異世界に来て急に髪が長くなってから、手入れとかはよく分からず放ったらかしにしているので、ぶっちゃけ今どうなっているのかは分からない。
「ほい、取れたぞ。」
「ありがとうございました。じゃあ降りますね。」
「おう。おっちゃんはまだここで見張りの仕事があるから、またな〜。」
おっちゃんと別れて、ルイレン様とニアが魔法の練習をしている場所まで戻った。場所を覚えていたから良かったものの、外からはただの空き地に見えて、迷うところだった。
「あ、お兄さん、おかえりなさい!」
「おいニア、今集中力を途切れさせると……ぅわっ!」
「ただいま。」
戻ってきた瞬間に大量の水が爆発して、何故かルイレン様だけがびしょ濡れになった。ニアは駆け寄ってきてハグしてくれる。可愛いもんだ。
「ルイレンくん、ごめんなさい……着替え貸すよ、というか泊まってって!」
「……はぁ、お言葉に甘えさせて頂こうか。ん、ショタコン、髪になにか付いているぞ。」
ツッコみたいことは多々あるがしょうがない、後にしよう。ルイレン様が俺の髪先をいじって何かを取り外す。
「これは……指輪か?」
「お兄さん、誰かに髪触られました?」
「あぁ、監視塔のおっちゃんに。」
「髪に指輪を結ぶのは、アルシーナでは求婚ですよ?ちなみに、その指輪を送り主の指にはめたら結婚成立です。」
みるみる顔が青ざめていく俺を見て、ニアはもう一度ハグってくれた。わざわざビッショビショのルイレン様も巻き込んで。
「大丈夫です!お兄さんは渡しません!」
「うん……ありがと……。」
「何をするんだニ……ふぁっくしっ!」
「えへへ、お店に戻りましょうか。」
こうして俺たちは道具屋にお泊まりすることになった。ショタ2人とお泊まりということに胸が高鳴りすぎて、お母さんに偉そうな啖呵をきったことを俺は忘れていたのだった。
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