第8話
「全く…キモ冷やしたぜ」
「だってー」
あれから奴隷市でひと悶着あって、なんとか花形を止めはしたが…
「お前ヤクザとかやってたクセになんで奴隷に反応するんだよ…お前らにとっては人攫いなんてよくある事なんじゃあねぇの?」
「そんな事しないよ!私が知らないだけでやってた奴は居るかも知れないけど…少なくとも私はやったこと無いし…聞いたこともないよ!」
以外だな…侠客なんて、悪事はお手の物だろうと思っていたが…そうでもないのか…
俺達はザーカイの用意した馬車に揺られながら、街の外れを走っていた。
「お二人ともお強いですね」
セイレンはおずおずと話に加わる。
俺にとっては…こいつが一番意味が分からないのだが…
所見では、弱そうな青年に見えたが…こうして向き合うと、得体の知れない何かと話している様な気がするのだ。
「まあね…私は元々喧嘩屋やってたのでね」誇らしそうに花形が答える。
「喧嘩屋さん?ですか?あっ二人とも…見てください!」
と、セイレンは何やら驚いたように言う。
「なになに?」
「オーロラです…この街は時々見れるんですよ…珍しいですよ」
紫の空に青みがかった雲、光を散らしたように星々が輝いている。その空には確かにオーロラが掛かっていた。
「今日はきっと冷えますね…日中と、夜では季節が変わったように寒暖差が有りますからね…二人とも薄着ですね…召し物を用意しましょう」
花形は整った顔で空を見つめていた。こうして見ていると、この子は本当にヤクザ者だったのかと疑ってしまう。まるで子供のように、オーロラを見つめていた
「うまそうだ」
なんだ…その感想…絶対食えんだろう…
「それにしても砂漠地帯にオーロラか…変わってんな…」
「ええ、変わってますよね…あんまり見れないんですよ…運がいいですね」
本当に冷えるな…花形も俺も確かに薄着だ…寒いぞ
「やっぱり許せないな…私やっぱり蹴り入れてくる」
「…さっきのやつか?止めとけ止めとけ…ああいうのとは関わらないのが吉だ」
昼間の事を思い出したのか、花形がワナワナと怒り出す。
確かに花形は強い…でも、この世界のヒエラルキーが読めない…俺達はこの世界に来てまだ日が浅い…まずは、世界を見てから出ないと…敵の大きさを見誤ると死んでしまう。それは痛いほどに実感しているのだ。
「分かってるけどぉ…」悔しいのだろう…確かに見ていて気持ちの良いものでは無いよな…
「なあ、ザーカイ…俺達は何処を目指してるんだ?」
不意に聞かれたザーカイは、ひと呼吸置いて答える。
「はい、取りあえずは、お二方のお召し物を用意いたしましょう…それから、明日の朝、この街の首都、『聖地アレグラッツェロ』に向かいます」
「聖地?なんでまた?なんか用事でもあんのか?」
「はい、お二人方は旅の途中なのですよね?でしたら、必要な申請を行えば、国からの支援が降りるはずです‥そうすれば旅も少しは快適な物になりますかと…」
「なるほど…商人ってのは伊達じゃあねぇんだな」
ハハと笑ってみせる。
「でもいいのか?俺達の旅はあくまで個人的な理由での旅だぞ?わざわざ国が支援してくれるものなのか?」
「ええ、いかなる理由で有れども、国は、『国と国を渡る者』に寛容ですから、申請は確実に通るかと…」
この国の外は今危険な情勢の地区が多いらしく、それらの多くは内乱、奴隷達の反逆、宗教戦争等がメインらしい。それらに巻き込まれないためにも、国からの支援は手厚いのだという。
「有り難い話だな‥少しは快適な旅になるんだとよ」と俺は花形に向き直る。
彼女は既に、スウスウと寝息を立てていた。
全く。彼女は和服の着流しのような格好をしている。
上はともかく、下半身がやたら寒そうだ。
俺は、羽織っていた軍服の上着を彼女にかけてやる。
やっぱり寒いな。
寒空の下でオーロラだけがやけに美しくて。この景色を脳に焼き付けておきたいと思った。
もう少しで郊外にたどり着く。服以外にも必要な物は揃えておきたい。
それと、上等な酒があれば万々歳だ。
フンッと鼻を鳴らし俺も少し横になる。
狭い馬車の中で俺達は身を寄せ合うような形で少し休むことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます