第7話

まあ、そうだよな。



俺達は偶然、裏取引等で使われていただろうか、地下のアジト?のような場所を見つけて、小太りの男と、

その男に絡んでいた盗賊共の残党の青年を連れ込んで尋問を行った。が、二人とも想像以上に口は重かった。



何より、尋問を行ったのは俺だ。

アウトローの花形がやったならまた話は別かもしれないが、そもそもにこの二人に何か期待してるわけではない。そもそもに人魚にも大して興味がない。



ただ、最初の街、あの街のアノ酒場で聞いた話には

『人魚伝説』というものもあった。



どうにもコイツラの言う人魚の薬が『不死の泉』生命の泉に繋がるような気がするのだ。



得れた情報はこうだ、人魚の薬は、人魚の肉を使った粉末状の違法薬物らしいこと、それらは高値で裏取引されている事、盗賊とこの、小太りの男の間でその取引が行われる予定だったと言うこと。それだけだ。




「ねえ、二人とも名前は?」と先程とはかけ離れた優しい声で聞く。



「あっ…はい…わたくしは『ザーカイ』と申します」と小太りな男は答える。


「ザーカイさん…か…ザーカイさんは商人なんだね」と、花形はニコッとする。



「君は?」



「僕は『セイレン』っていいます」




セイレン?


「海の魔女…」つい口を挟んでしまった。



男はいきよいよく首を降る。


「それはセイレーンですよ!僕はセイレン盗賊ギルドで下っ端やってただけですよ!そもそもに人魚の薬とか何に使うのかも分からないし…」




「やめてあげなよ福田…この二人そこまで悪い人達ではないよ多分ね」と花形は頬をほころばせて呟く



「ごめんね二人とも怖い思いさせちゃって」



俺としては引っかかる部分がいくつかあったが、まあいい…てか、


「お前にとっての悪人ってどんな奴だよ!」


くどいようだが、花形は元侠客(ヤクザ)だ。



中でもこいつはかなりの武闘派で、女のくせに、喧嘩で武器を使用しないとか…つまり“ステゴロ”の喧嘩師だったわけだ。



それで仲間に裏切られて、胸がなくなるまで刃物で滅多刺しにされて殺されてると来たものだ。



大体の人間は大人しくていい人に見えてるだけではないのか?




「なあセイレン…お前珍しい髪の色しているな」

彼の髪の毛は真っ白に少し高い青みがかかったような色をしていた。



「あ、はいこれは生まれつきです…元々体が弱くて…よく分からないんですけど、そのせいで髪の毛も色が薄いんですって…」と、セイレンははにかみながら答える。どうにも掴みどころの見当たらない奴だ。





俺達はとりあえず、この二人に街の案内を頼むことにする。勿論タダでではない。


セイレンの所属していた盗賊ギルドを殲滅する事を約束に二人にお願いしたのだ。



ザーカイはともかく、セイレンも、アノ盗賊団が街から居なくなることは嬉しい事なのだと言う。



訳は知らんが、まあ、裏社会の連中にはそれなりの事情が有るのだろう。花形がそれで納得しているのだ、

別に俺が口出す事でも無いだろう。





「さてと、ザーカイさん…馬車って手に入らない?私あんまり歩きたくなくってさ」




「ええ、馬車なら人数分用意出来ますよ」



「本当に!」


等と花形はザーカイと話している。





「なあ…セイレン…お前何であっさり捕まった?お前…強いだろ?」





「はい?」

と、セイレンはとぼける。





俺もアンガウルで何回も死にかけた。付いた異名は

『不死身の鬼軍曹』だ。潜ってきた死線の数から、


この男がダダの盗賊団がの下っ端には見えない…下手したら俺達よりも強いかもしれない。





「あれだけ脅されて逃げれるだけの度胸無いっすよー」





「そうかい…馬車が手に入るらしいぞ…歩くのも疲れるだろ?」




「えっ!本当ですか!!」とセイレンはニヘニヘと笑う。



「まあどうでもいいけどさ」




俺の呟きは喧騒にかき消されてゆく。





しばらく沈黙が起こる。これは天使が通ったとか言ってたっけ…静寂を割くように、セイレンが俺に話しかける。



「お兄さん方…旅の方々ですよね?何方へ?」




「ん?ああ…確かに旅の途中だな…俺達はエルダの街に向かっている…それこそ人魚の聖地みたいな街らしいじゃあねぇの?」




「エルダ…か…エルダは人魚の街では無いですよ?」



「ん?そうなのか?」

てっきり、ガセットの街で酒場のオッサンがそう言ってたから、そうなのだと思っていたが…




「人魚…さっきも人魚の話に食いついてましたよね?何かお探しなんですか?」




「いや、別に人魚とは関係無いのかもしれないが…俺達は生命の泉ってやつを探してんだ…」




少しセイレンは、うむむ…と考えてこう応える。



「あながち間違ってはいないですね…生命の泉と人魚伝説は切っても切れない話ですからね…でも、エルダまでは行かなくてもいいですよ?」




「セイレン…お前何か知ってるのか?」




「知ってるも何も…僕の故郷の近くですよ?生命の泉…でも想像とは少し違うかも…ですけど…」




「教えてくれないか?」



驚いた…こんな所であっさりと生命の泉について知れるとは…




「まあまあ、ゆっくりとはなしますよ?…ガゼットから来たんですね?あのキャラバンに同行してたって事は…まずは、あのキャラバンとは離れて下さい」




「何でだよ」




「キャラバンは安全を考慮して、正規のルートを通ります…そうすれば、途中で確実に“レスボス”を通ります…あの街は今少し情勢が危ういんです…内部戦争とでも言うんですかね…宗教戦争が起こりかけてるんですよ…もう少しすれば紛争地帯になりますよ?」





「本当か?」




「本当です…地元民しか知らないかも…ですけど…分かるんですよ…もう少しすれば戦争が、起こる…とか…国全体がピリピリしだすから…だから僕もあの辺りから避難して来たんですから…」




「そうか…だったらどうしようか…俺達だけでって言ってもな…」




 

「僕裏ルート知ってるんで案内しますよ?僕…盗賊ギルドにこき使われてて…」



「嫌気が指したか…?」




「です!」





どうにかなりそうだな…と思った矢先、物凄い爆音が響く…それは金属を強引に叩き割るような耳障りな音だ。




「次は何だ?」




「何でしょう…確かあそこは…奴隷市場ですね…アナタお名前は?聞いてませんでした…」




「俺は福田、こっちの女は花形……って…」






「その花形さんはどちらへ?」




気付くと先程まで隣を歩いていた花形が姿を消している。


さっきの金属音が響いた方向から、女性の…聞き慣れた声の怒声が響いていた…またやりやがった


俺は頭が痛くなりそうになるのをこらえて、市場に駆け出すことにした。



おおよその検討はつく。

花形は奴隷なんてものを決して許さない。



早くこの街を出たほうが良さそうだな…なんて考える




「まあ、よろしく頼むよセイレン」



「はい宜しくお願いします福田さん」

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