第5話

「これってビールだよねー」と言いながら花形は

つまみを頬張る。



「ああ、麦芽を発酵させて酒造してるんだとよ‥で、ビールってのは海外の酒か?」




「ええ?福田ビール知らないの?」





俺達は街から出るキャラバンに同行させてもらうことにした。



キャラバンは、ガゼットの街を出発し、ガリレアの街まで行くことになっている。


ガリレアは、綿織物等が有名で、貿易の盛んな街だ。

俺達も、一度その街で下車して、情報を集めようと思っている。




ガタンと大きく馬車が揺れる。



「ビールって何だよ…戦後に日本に入ってきたものか?」



「いやいや戦前からあったって…闇市とか何度か行ったけど普通に置いてたよ」




「お前が行ったのは戦後の闇市だろ。…まあ言わんとしてることは分かるけどな…太平洋戦争が起こる前は普通に映画とかも放映してたしな…海外からの物流が途絶えたのも、戦争始まって…半ばくらいだもんな」




まあ、俺は戦争が始まる前は酒なんて飲んでもいなかったし…よく分からねぇが…




いつものように花形は、薄笑いを浮かべて、俺に酒を手渡す…コイツ結構な美人なのにどうにも酒癖が悪い。ガタンとまた大きく馬車が揺れる。



手渡された酒を一口飲んでみる。



「ん?何だこれ…シュワシュワしてんな…のどごしもいいし苦味も少ない…日本酒とかよりも旨いな!」




「でしょでしょ!」と今度は子供みたいに屈託のない笑顔を俺に向ける。



「ビールのは、こんな感じの酒なのか?」



「そうだよーシュワシュワは炭酸っていうんだけど、私はよく炭酸の入ってないやつ飲んでた」




「へぇー…なあ花形…日本って…」




「ん?」




「いや…何でもない」

言いかけた言葉…口にするのが少し恐ろしかった…



アンガウルの戦いの中俺は薄々分かっていた…日本国は明らかに劣勢だテ負け戦をしている。



御国の為に死ぬんじゃあない。ただただ死にに行っているのだと…恐らくは…日本は…





「どうしたの?顔色悪いよ…酔った?」



純粋に心配してくれてる花形に申し訳なくなる。



「いいや…本当に何でもないよ…あとどれくらいでガリレアに着くんだろうな?」




「んー…あと3日くらいかな…」




しばらくの時は寝て過ごすことになりそうだな…


ガタンガタンと揺れるキャラバンの中、俺はゆっくりと眠りに着く。



久方ぶりにゆっくりと寝たような気がする。



昔の夢を見た。戦場にいた頃の夢だ

微睡みの中で覚醒と休息を繰り返して…それが夢だと気付くのだ…そして夢から覚める頃には、夢の内容も分からなっている…そういうものだ。






「おはよう…福田…よく寝てたねあと少しでガリレアに着くんだって…楽しみだね」花形はそう言い微笑む。



こいつは過去に不満は無かったのだろうか…胸を抉られて惨たらしく殺されたのだろう…恨みなんて…無いはずが無いだろうに…そう考えて、思考を止める。



彼女が不満を言わないのだ…俺がどうこう言うことでもない…



「おはよう花形」俺も彼女の真似をして笑ってみる。

ぎこちなく顔が引きつっただけのような感じた。


それを見て花形がクスクスと笑う。



ガリレアまであと、半刻程で到着だ。


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