05:デートの基本
ショッピングモールに早めに到着した後、少しモール内を見回ると時刻は午前9時半頃。
俺は田中に最終確認のメッセージを送る。
『俺はもう到着してる。 デートの順序は決めておいたか?』
『おう!』
『ならいい。 待ち合わせの10分前には到着すること。 あと女の子の服装は絶対に褒める事。 これはデートの基本だ。』
『りょーかい!』
俺の幼いころからの英才教育(少女漫画)で得た知識を伝授して準備は完了。
後はデートの開始を待つだけだ。
10時前になると田中が先にモールの前に到着する。
二人は幼馴染ということもあり、家がそれなりに近いので待ち合わせの必要はなかったのだが、田中によると待ち合わせの雰囲気を味わいたかったらしい。
待ち合わせ時間丁度ぐらいに佐藤が到着する。
俺は念のため少し遠めの位置から二人を観察する。
田中の服装は大方イメージ通りで、都会のオシャレな高校生、というスタイルだった。
意外なのは佐藤の方だった。
普段の元気で子供っぽいイメージと違い、ノースリーブニットに青を基調としたワンピースといった大人っぽい女性感が溢れたコーデだった。
屋外だったこともあって二人の会話を聞くことは出来なかったが、少し頬を赤らめながら視線を横に流す田中と、自分のコーディネートに目を落とし頬を緩ませる佐藤を見れば遠目からでも何が起こったのかは容易に想像が出来た。
(出だしは好調かな......)
モール内に入ると人も多くいるため、会話を聞くことが出来る距離まで近づくことが出来た。
「佐藤。 なんか行きたいところあるか?」
「ん~映画って午後からだよね。 それまでは......博の誕生日プレゼント選び行こうよ! どうせあげるつもりだったし!」
「いいのか?」
「あたりまえじゃん! 何が欲しい?」
そういえば佐藤に誕生日プレゼントを聞くように言われていたことを思いだす。
まぁデートで本人に直接聞けるのだからそちらの方がいいだろう。
「ん~......雑貨とか......かな」
「おっけ~私、ここのかわいい雑貨屋さん知ってるから案内してあげる!」
(雑貨か。 普段の田中なら「彼女!」とか「現金!」とか言いそうだったが...佐藤と二人なら案外まともか?あいつ)
そのまま二人についていくと、犬猫などの動物系の雑貨などが集められている店にたどり着く。
あまり広い店内ではなかったため、俺は入り口付近に待機しながら、店内に入っていく二人を見守る。
「ふぅ~......」
(案外俺は必要なかったかもな)
デートの相談を持ち掛けてきた時は不安だったが、自分でも自分なりに学んできたのだろうか。 ただのカップルの仲良しデートに見える。
特に問題は起こらなさそうだ。
そう思っていた時。
「ねぇ、君1人?」
「同い年ぐらいだよね? 一緒に遊ばない?」
俺より年上の女子大生ぐらいの若い女性2人組が声をかけてくる。
(逆ナンか......)
単語自体は知っていたが、地元ではされたことが一切なかったため幻の存在とでも思っていた。
「すみません...今は少し忙しくて...あと俺高校生なんで大人っぽいお姉さんたちには合わないと思いますよ」
「え~?めちゃくちゃ大人っぽいね!」
「忙しそうにも見えないよ? いいじゃん!お姉さんたち奢るよ?」
(案外しつこいな......まずい......田中達が出てくる前に何とかしないと.......)
対処に困っていると左腕が誰かによって引っ張られる。
「なに?外出するだけとか手紙置いて女遊び? それならデートって書けばいいじゃない! しかも2人と!」
(っ!? 蓮音!?)
俺の腕を引っ張ったのはどうやら蓮音らしい。
それにすごい勘違いもしているようだが......
しかし都合もいい。 時間もないので利用させてもらおう。
俺は蓮音の手を離させ、抱き寄せる。
「すみませんお姉さん達。 彼女が来たので諦めてもらえますか?」
「っはぁ!?///何急に!?///かの...モゴッ」
面倒臭くなりそうなので一旦手で蓮音の口を覆う。
「彼女さんいたのか~」
「まぁそりゃあいるか~ じゃあねイケメン君」
彼女持ちに手を出すほど非常識な人たちではなかったらしい。
「モゴッ!モゴモゴ!」
「っと、悪い」
抵抗を続けていた蓮音の口を開放する。
「急に何すんのよ!」
「ナンパがしつこかったから利用させてもらった。 悪い」
「ナンパぁ?デートじゃないの?」
「違う。 というかなんでお前はここにいるんだ?」
「憂さ晴らしに買い物に来たのよ!そしたら同居人が女の子二人と公衆の面前でイチャイチャしてるから!」
「してない。 俺も困ってたんだ。 というかなんの憂さ晴らしだったんだ?
「それは......ストレスが溜まってたの!誰かさんのせいでね!」
学校に嫌いな人でもいるのだろうか。 よほどそれがストレスだったらしい。
「じゃあ私行くから。 どうせあんたはデートがあるんでしょ」
(ん?)
「まて。何でデートのこと知ってるんだ? 佐藤から聞いたのか?」
「え? ......そう。 相手は佐藤さんなのね......まぁいずれあんたの良さに気付く人がいるとは思ってたけど...田中君の事好きじゃなかったのかな...」
「...まて。 勘違いをしている。」
「いいの。 これでも理解はしてるつもり。」
「あのなぁ...」
俺が蓮音の勘違いをどうやって解こうか頭を悩ませていると、会計を終わらせた佐藤と田中が店内から出てきて、こちら側に向かってくる。
(まずい!)
俺は蓮音を壁の方に追いやり、二人から蓮音の顔が見えないように俺の体で隠す。
所謂壁ドンというやつだ。 二人から見たらただのいちゃついてるカップルにしか見えないだろう。
「バレて...ないな...」
「は...はなれてぇ...//」
「わ、悪い...」
蓮音から慌てて距離を取る。
ゆっくり深呼吸をした蓮音がこちらに向き直る。
「まぁなんとなく分かったわ。二人のデートの尾行ね?」
「田中の頼みでな」
状況を理解した様子の蓮音と一緒に田中と佐藤を見失わないように尾行する。
「というか、なんで佐藤のデートの事知らなかったのにさっき俺にデートって言ったんだ?」
「朝に聞いた。 家に同居人の彼女がくるかもってストレスの憂さ晴らしの買い物だったのよ」
「起きてたのか...」
そんな会話をしていると二人がUターンしてくる。
あわててさっきの様に蓮音と抱き合うことで場を凌ごうとする。
「見て博、ラブラブのカップルいるよ」
「あんま見るな、失礼だろ」
「私たちも...カップルに見えるのかな...///」
「かもな...//」
そんな会話をしながら二人は俺達だと気が付かないまま通りすぎる。
「っはぁ~//こんなんいつかばれるわよ!」
「そうだな...ちょっと待ってろ」
「ほらよ」
ダッシュで買ってきた帽子を深めに蓮音にかぶらせて顔を隠す。
「...ダサい......」
少し不満げな声色だが、表情を見るに、不機嫌というわけでもないようだ。
「俺からのプレゼントだ。ありがたく受け取れ」
「ふふっ...ありがと。」
そのまま俺と蓮音は田中と佐藤の尾行を続ける。
「あ、そういえば蓮音」
「ん~?なに~?」
「今日の服、滅茶苦茶似合ってるな」
「へ...//?」
女の子の服装は褒める。 これはデートの基本だ。
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