04:幼馴染はデートする


「......もう朝か......」


目覚まし時計の騒音によって起こされた俺は、いつもと同じようにリビングへ向かう。


「あ、おはよ」


そこにはいつもと変わらぬ様子の蓮音がいた。


「もう体は大丈夫なのか?」

「まぁね、寝たら治った。」

「そうか」


食卓には健康的な朝食が並んでいる。


「いただきます」

「どうぞ」


いつもは俺が朝食を食べている頃には家を出ている蓮音だが、今日はお礼を言えそうだ。


「蓮音は料理がうまいな」

「...どうしたの急に」

「ただの感想だよ。いつも感謝してる。 蓮音がいなかったら俺はもっと生活水準が低くなってただろうな」


埃一つない部屋を見渡してそう実感する。


(俺が一人だったらもっと散らかっていただろうな...)


「というか蓮音って家事なんかできたか?」


俺の記憶では中学1年のバレンタインデーにもらったチョコはほぼ暗黒物質だったと記憶している。 捨てることもできず、完食したおれは2日ほど寝込んだ記憶がある。


「お母さんとトモちゃんに教えてもらったのよ」

「へぇー...」


言われてみれば俺の家にいたころの味と大きな差はない。


むしろ俺がより好みな味になっている。


「いつからだ?」

「......あんたが話してくれなくなった頃から」

「......そうか」


少し重苦しい空気が流れる。


(やっぱ恨んでんのかなぁ)


「私、そろそろ行くから」

「あぁ」


そう言って急ぎ足で玄関へ向かう蓮音の背中を見て、昨日感じた個々の距離の縮まりは勘違いであったと思い知らされる。


「俺もそろそろ行くか......」


一人になったマンションの一室で俺は支度を始める。





「おはよ~とわちん」

「おはよう」


田中がいつもの様に声をかけてくる。


「そういえば田中、佐藤も俺と蓮音が幼馴染ってこと知ってるから」

「そっかぁ。佐藤と川崎さん、よく話してるもんな......」

「田中って佐藤の事苗字呼びなのか?」

「あぁ~...前まで下で呼んでたんだけどなんか中学入ってから急に怒り出すようになってさ、俺と同じで古風な名前を気にしてんのかな?」


俺が席について田中と話すために後ろを振り返るも、田中はどこか上の空だ。


「どうした?ぼーっとして」

「え?   あ~...」


少し考えこんだ仕草を見せた後、意を決したように口を開く。


「俺、来週誕生日でさ......あいつと出かけたいんだけど......」


そういいながら教室後方で談笑をしている蓮音と佐藤を見る。


「一応聞いておくが、どっちだ?」

「佐藤しかないだろ!」


立ち上がりながらツッコミを入れてくる。


なるほど、若者のノリか。


「で?出かけたいなら出かければいいじゃないか」

「まぁそうなんだけどさ......」


視線を佐藤に移し、頬杖をつきながら心の内を吐露する。


「中学入学したぐらいから二人で遊ぶなんてしてないんだよね、からかわれたりしたし。 だから俺が誘って楽しめるのか~とか不安でさ」


(なるほど......)


中学生の頃で仲のいい男女というのは嫌でも周囲からのそういうイメージがつきまとう。 


(幼馴染に悩みはつきものだな...)


といえども佐藤の気持ちを察している俺からすれば何をしても佐藤は楽しむと思うのだが......


「まぁ変なことをしなければ大丈夫じゃないか?」

「変な事って?」

「そうだな......男児向けとか女児向けとかそういう小学生っぽいことはやめた方がいいんじゃないか? 仮にも高校生だし」

「まじか。 普通に魔法少女とか見たら喜ぶと思ってたぞ」

「......」


どうやら田中の女性に対しての知識は小学生止まりらしい。 まぁ佐藤も田中に関しては緩そうだから喜んで見る可能性はあるが......



「大人しく恋愛映画とか、佐藤の買い物に付き合うとか、そういうのじゃないのか?

高校生のデートって。」

「そうなのか......お前案外経験豊富か?」

「......まぁな。」


(蓮音をドキドキさせようと勉強の一環で幼いころに少女漫画を読み込んでいただけだが...面白いからこのままにしておこう)


「相手は蓮音さんか?」

「違う。 俺は小さい頃から家庭的で料理がうまくて掃除もできる人が好きなんだ」

「蓮音さん家事が出来ないのか?」

「まぁ出来るかな」

「蓮音さんじゃん」

「違う」


俺は別に家庭的な人がタイプなわけではなかった。


幼少期の時蓮音を意識していることが周りにバレたくなかった俺はあえて好きなタイプを蓮音と真逆の人にして話していたのだが.....


(今の蓮音にドンピシャだな)


「じゃあ経験豊富なお前に頼みがある!」

「なんだ?アドバイスか?」

「いや、来週のデートについてきてくれ!」


まじか。


「他人のデートを見る趣味はないが?」

「違う!陰でその状況によったアドバイスをしてほしいんだ!」

「あのなぁ......俺がついてきていることがバレたら面倒くさいことになるぞ?」

「じゃあ変装してくれ!頼む!」

「んなこと言ってもなぁ......」

「佐藤は普通に可愛いと思うし...そろそろアクション起こしたいんだよ...このまま

佐藤がほかの人と付き合ったりしたら嫌だし......」


田中も思うようにいかなかった中学時代を悔いているのだろう。


そしてそれを挽回しようとしている。


(逃げ出したクズみたいな俺とは違って......)


「...わかったよ...でも何かをしろとか、どこに行けとかは言わない。 やったらダメな事だけをアドバイスする。 あくまでお前が考えたことで楽しませるんだ。 分かったか?」

「!!...ありがとう!とわち~ん」


そういって田中は体を前に乗り出し抱き着こうとするが俺はそれを立ち上がって回避する。


「イタッ」


そのまま身を乗り出して俺の椅子に頭からぶつかったようだが、俺は別の事を考えていた。


(変装......あれをやるしかないか......)








「さて......」


デート当日、俺は洗面所で鏡とにらめっこしていた。


目が隠れるほど深く下げていた前髪を整髪料で上の方で流し、服は清楚なイメージが出やすい青を主軸としている簡潔なものにまとめている。


あの日、もう二度と周りには見せないと思った姿。


(またすることになるとはな...)


しかし学校のイメージの俺とは全くの別人で完璧な変装ともいえるだろう。


(これなら佐藤も気が付かない...はず)


時刻は午前8時頃。


デートは近所のショッピングモールで開始は午前10時からだ。


「まぁ、デートの下見をしておきたいしな」


そう考えて俺は早めに家を出ることに決める。 


それに...


(蓮音にこの姿を見られたくないしな......)


休日ということもあり、蓮音はまだ起床してきておらず、出かける旨を伝える置手紙を置いて玄関へ向かう。


「...行ってきます」


蓮音を起こさないように小さく呟き家を出る。


ここまで完璧に予定通りだった。


バタン...


「...なにあれ! かっこよくしてるし! デートの下見?どういう事!?」




蓮音がすでに起床していたことを除けば。




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