03:夢を見ていた
歓迎会が終わり、放課後が訪れた教室に俺は蓮音と俺の荷物を取りに向かった。
ガララ...
「おっ、とわちん!やっと来た~」
もうみんな解散して、誰もいないと思っていた教室には田中が残っていた。
「なんで残ってんだ?」
「なんでって...そりゃどういう事か聞きたいからでしょ。 あとクラスのみんなには何とかいって誤魔化しといたよ。 先生に根回しすんの大変だった~」
「その件は本当に助かった。」
「ていうか早く説明してよとわちん~蓮音さんとか、めっちゃ足早いのとか!」
俺はどこから話せばよいかも分からず、大まかに話すことにした。
「蓮音とは幼馴染でな、ここに比べるとだいぶ田舎の方から出てきたんだ。
走るのが早いのは田舎育ちだからかな?」
「へー田舎ってすごいんだ」
(単純な奴だな)
「あと、俺と蓮音が幼馴染ってことは隠していてもらいたい。」
「分かってるよ。 とわちん最初に話した時に言わなかったってことはそういう事だもんね。 俺も幼馴染いるから分かるな~いろいろあるの」
「へぇ~...田中にもいんのか。 どんな奴だ?」
「このクラスだよ。 佐藤ってやつ。 覚えてない?」
「あぁ~......なんとなく?」
クラス名簿と一緒に覚えたクラスメイトの顔を思い浮かべる。
「たしか...今日も走ってたよな?」
「おお、そうそれ」
「まぁ、よろしく言っておいてくれ」
「まかせろ」
軽く手を挙げて、帰る意を示しながら俺は保健室へと向かう。
(やべ...)
俺が保健室に戻ると蓮音はすでに目を覚ましており、様子を見に来たクラスメイトと談笑している。
クラスで冴えない陰キャが蓮音の様子を見に来るのは明らかにおかしいと感じているのだろう、蓮音の友達は談笑をやめ、こちらを見ている。
(あれは...佐藤か...)
田中が幼馴染と言っていた佐藤。
どのようにして誤魔化すかを考えていると、佐藤の方から声がかかる。
「お~!幼馴染くんじゃん!」
そう言いながら俺にベッドの隣の椅子に座るようポンポンと椅子を叩く。
「どうも...っていうかなんで知ってるんですか?」
「蓮音ちゃんから聞いてたんだよ~」
意外だと感じた。 蓮音は俺みたいな奴と幼馴染なんて知られるのが嫌だと思っていた。
「話してよかったのか?」
「いいわよ、別に。入学する前からSNSで知り合っていたし、ずっと嘘をついてるのもあれだったし」
「まぁ、蓮音がいいならいいが...」
俺はそういって椅子に腰かける。
「そういえば自己紹介がまだだったね! 私は 佐藤
「......ずいぶん古風な名前だな」
「き、気にしてるから言わないで!」
デジャブを感じる......
「田中の幼馴染なんだろ?」
「えっ?何で知ってるの?」
「田中から聞いた。 あと俺も田中に蓮音と幼馴染って事話した。 田中には協力してもらったから話す必要があると思ったんだ。」
「いいわ、別に私も話したし。 あんたが話すのを決めたのなら悪い人でもないだろうし」
「ずいぶん信用してるんだねぇ~」
にやにやと笑いながら佐藤が会話に入ってくる。
「別に信用とかじゃないってば!」
「おや?蓮音ちゃんなんか顔赤くな~い?」
「あ、赤くない! 熱だから!」
そういって勢いよく布団をかぶる。
「佐藤。 あまりいじめるのはやめてあげてくれ。」
「はいは~い」
常に明るい、快活な少女。 俺が佐藤に抱いた印象はそんなものだった。
(田中の好きなタイプって......丸わかりだな...)
俺は何かを悟る。 密かに応援はしておこう。
「そういえば、佐藤と蓮音は何で仲良くなったんだ?」
「ん~とね......幼馴染の相談?みたいな?お互い苦労するよね~みたいな」
「なんだそれ.....」
「ちょ、ちょ佐藤さん!あんま言わないで!」
「ごめんごめん」
布団から飛び出した蓮音は佐藤の話を制止する。
「別に陰で俺の悪口を言われても気にしないぞ。」
(それぐらいの事はしたからな...)
「別にそんなんじゃないから!」
「...?じゃあ何を話してたんだ?」
「っそれは...田中君の事よ!ほら、佐藤さん!あれ聞かないと!」
「あ~...あのね?柊くんに博の今欲しいもの...みたいなの聞いてほしいの!」
「欲しいもの...?なんでだ?」
「田中君、誕生日なんだって。1週間後」
佐藤の顔がみるみる赤くなっていくのをみると、いくら鈍感な俺でも気が付く。
(両片思いってやつか...)
「わかった。聞いておく。」
「ほんと!?ありがとう!」
よほど嬉しいのか、佐藤の体が少し跳ねる。
「じゃあ、俺帰るから。 荷物渡しに来ただけだから」
俺は自分の鞄を持ち、立ち上がろうとする。
「まって?」
佐藤に呼び止められる。
「なんで一緒に帰んないの? 一緒に住んでるんだし」
・・・
「...蓮音、話したのか?」
「...別に私の勝手でしょ」
「俺はいいけど、変な勘違いされたら困るのは蓮音だぞ?」
「ワタシモベツニイイケド...」
「なんだって?」
「なんにもない!」
そう言ってもう一度布団をかぶってしまう。
「まぁ蓮音ちゃん一応まだ熱あるみたいだしさ、柊くんが家まで送ってあげて?」
「...わかったよ」
「うん!よろしくね!じゃあ私先に帰るから!」
別れの挨拶を述べた後、佐藤は保健室から出ていく。
「...立てるか?」
「...立てない」
「さっきまで元気だっただろうが...そんな事言うならおんぶでもして連れて行くぞ?」
冗談交じりで言った。 そう言えば蓮音は嫌がって自分で歩くと思ったからだ。
「...うん」
「...まじか」
「忘れ物無いか?」
「ない」
「じゃあ一応人がいた時ように俺のジャージかぶっとけ」
「...うん」
「じゃあ乗れ」
俺が蓮音の足の間で地面に跪いて数秒立っても蓮音は乗ってこない。
気のせいか後ろからスンスンという音が聞こえてくる気がするが...
蓮音が人のにおいを嗅ぐなんて趣味持ってるはずがないし気のせいだろう。
「...早く乗れよ」
「...やっぱやめる」
「はぁ?なんでだよ?」
「...重くて持ち上がらないかもしんないし」
「は?昔も持ち上げてただろ」
「昔の話じゃん!今は違うし!もう歩くからいい!」
「わがまま言うなよ...っと」
蓮音の足を無理やり掴み、持ち上げる。
「わわぁ!」
急に持ち上げられたので、蓮音はあわてて俺の首に手を回し抱き着く。
「軽いじゃねーか」
「か、勝手に触るな!変態!」
体勢を立て直した蓮音が手で頭をコツンと叩いてくる。
「説教は家に帰ってからにしてくれ」
「許さないし!」
しばらくそのまま歩いたが、二人の間に特に会話は無かった。
気まずさを感じることもなく、気持ちの良い沈黙だった。
「あの...ありがと。」
「なにがだ?」
「あんたが倒れた私を運んでくれたって聞いたの。」
「あぁ、別にいいよ」
「私走り始めてから記憶あまりないんだけど...しっかり走れてたの?私」
「.........あぁ。 大差でバトンが回ってきたぞ。おかげで1着だった。」
「そっかぁ、よかった。」
よほど心配だったのだろうか。 分かりやすく安堵の表情を浮かべた。
「そういえば私なんか夢見てて...あまり覚えてないんだけど失敗しちゃう夢だった気がするのよ」
「そうなのか。 それは悪夢だったな」
「ん~...まぁそうでもなかったけどね!逆に良かったかも!」
「何でだ?」
「あんたには教えてあげない!」
蓮音と幼馴染なのは信頼できる2人にしかバレていない。
俺はクラスではただの運動ができる陰キャという位置づけだろう。
俺はもう、蓮音に妬まれるなんて思いをしてほしくない。
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