第36話 二角大兎
エリア4へと向かうには、最短でもエリア5を突破しなければならなかった。
そんな訳で、エリア5へ侵入して直ぐに、エリアボスを探して走り回った俺は、数組のパーティと出会った。
どうやら彼らは、食料ガチャのGPを貯める為、モンスターと戦っているらしい。
その内の一組から、エリアボスの目撃情報を聞き出した俺は、そこへと向かう。
すると、頭に二本の角を生やした巨大な白ウサギと会敵した。
「コイツがここのエリアボスだな……」
会敵して、しばらく戦ってみて分かった。
明らかに他のモンスターとは一線を画す大きさと凶暴さだ。
それに他のプレイヤーから耳にした証言と一致する。
恐らく体長は3メートルはあるだろう。
二本の長い角は、ビルをも突き崩す程の硬度を誇っている。
そして何よりの特徴は、その凶悪なまでの脚力。巨体に似合わず高速で移動する姿は、まさに白い砲丸だった。
素早い動きで突進され、二本の角で刺されたらひとたまりも無い。
「それなら、まずは自慢の脚を奪う!」
俺は一気に距離を詰めて懐に入り込む。そして白ウサギの後ろ脚に向かって水の刃を放った。
「ちっ!」
しかし俺の攻撃はジャンプで躱される。
頭を飛び越え、数メートルの高さまで跳躍した白ウサギは、そのままビルの側面を踏み台にし、俺を踏み潰そうと襲いかかった。
「うおっ、危なっ!」
間一髪で回避し、なんとか難を逃れる。
だが、着地の影響で砕けた地面の破片を、器用に蹴り飛ばして攻撃してきた。
「──ッ!? 水弾ッ!」
飛んでくる土塊の散弾を、すかさず水の弾丸で相殺する。
水弾を放った隙を突かれ、間髪入れず強烈な足蹴りが飛んできた。
「くそっ!」
とっさに分厚い土壁を作って受け止めるが、勢いを殺しきれずに土壁もろとも吹き飛ばされた。
三叉槍でガードもしていたが、それでもダメージは大きい。
「痛ぇ……」
やっぱりエリアボスなだけあって一筋縄ではいかないか。
「だが、攻撃パターンは大体分かった……!」
白ウサギの脚力は確かに脅威だが、その動きは直線的で読みやすい。
そして何よりコイツの移動手段の殆どが跳躍だった。
跳躍の動線は単純で読みやすく、近づかなくても攻撃は当てられそうだ。
「こっちに来るんだ、ウサギ野郎ッ!」
俺は白ウサギに向かって吠えると、背を向けて一気に走り出す。
突然の俺の逃亡に、白ウサギは追いかけようと地面を蹴って大きく跳躍した。
だが──
俺はくるりと向き直り、空中の巨体に向けて水弾を放った。
空中で身体を捻ってそれを躱す白ウサギ。
「そこだっ!!」
その瞬間を待っていたと言わんばかりに、俺は奴の着地点に無数の棘を生やした。
「ピギゥウウウウウウッ!?」
足元に突然現れた土の棘。
白ウサギは避ける事叶わず串刺しになり、大量の血が吹き出した。
「ピギッ! ピギャアッ!!」
悲鳴を上げて暴れるが、棘は深く食い込み外れない。
あれだけ下半身に傷を負ったら、もう自慢の脚も使い物にならないだろう。
あとは近づいてトドメを刺すだけだ。
俺は三叉槍を構え、慎重に距離を詰めるが。
「っ!?」
突如、白ウサギの二本の角の間に青白い雷撃が発生し、バチバチと火花が散った。
「なるほど……この雷がコイツの切り札か」
白ウサギは身動きが取れないまま、雷撃のチャージを続けていた。
そして──
「ピギャアアアアアアアアッ!!」
耳をつんざくような咆哮と共に放たれた青白い雷撃が、俺に向かって放たれた。
もし直撃すればタダでは済まないだろう。
だが──
俺はそれを紙一重で躱す。
白ウサギの跳躍同様、雷撃の動線も直線的で単純だ。来ると分かっていれば避ける事は容易い。
「ピギャッ! ピギャアアッ!!」
白ウサギは続け様に雷撃を放ってくる。
俺は空気を焦がしながら次々と接近する雷撃を紙一重で躱していくと、彼我の距離を詰めていった。
そして射程圏権に入った所で、地面に魔力を流して大地の形状を変化させる。
作り出したのは、一本の特大の槍。
地面から勢い良く飛び出した槍状の地盤が、白ウサギの胸を深々と貫いた。
「ピギャアアアッ!!」
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二角大兎【エリアボス】を討伐。
7,000EXPを獲得。
900GPを獲得。
エリアボス討伐ボーナスを獲得。
体力+1,000
筋力+1,000
耐久+1,000
魔力+1,000
俊敏+1,000
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エリアボスの討伐により、金沢市エリア5が開放されました。
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「ふぅ、あの人達の情報は正しかったか……」
エリアボス討伐の文言を確認し、俺は安堵の息を漏らす。
ルーラーケイビーを倒した時も思ったが、エリアボスごとに強さがバラバラだな。
今回の二角大兎は、サンイータよりかなり弱く感じたが、ルーラーケイビーよりは厄介だった。
エリアの数字が低くなるにつれボスも弱くなるのかと思ったが、そういう訳でもないらしい。
あと分かった事は、今後エリアを解放していく上で、一番の問題はエリアボスをどうやって見つけるかという事だ。
今回は目撃情報が運良く手に入ったが、毎回こう上手くは行かないだろう。
そんな事を考えながらCWを眺めていると、俺は二人組の男女が近づいて来るのに気がついた。
「うそ……本当にエリアボスを倒しちゃうなんて……」
「ほら、だから言っただろ? 彼が北原弓弦だって。おかしいと思ったんだよ、エリアボスの居場所を聞いて来るし、挙句の果てにそこに向かおうとするし」
そんな事を言い合いながら、こちらに近づいて来る。
「み、見てたんですか?」
「あ、ああ……すまない。別に盗み見してたわけじゃないんだ。君が危なくなったら助けに入ろうと思って」
「あれだけ危険だって説明したのに、エリアボスの所へ向かおうとするから心配したのよ?」
彼らは20代後半ぐらいの男女で、俺がこのエリアで出会ったパーティの一組だった。
そして今まで出会ったプレイヤーの中で、一番この世界に順応していると感じた二人組だ。
どうやらエリア5には、エリアボスを除いて6種類のモンスターしか存在せず、彼らはその中で弱いモンスターばかり狙ってGPを稼いでいたらしい。
更には、その6種全ての攻撃パターンも把握し、強力なモンスターも倒した事があるのだとか。
『ジェネシス・ワールド』が始まってからもう二週間以上が経つ。
彼らの様なプレイヤーは、きっと他のエリアにも出てきているのだろう。
エリアボスに挑んで倒してしまう東雲咲夜は別として、他のプレイヤー達もそこそこ強くなっている筈だ。
俺はエリアボスの情報をくれた恩返しに、エリアが解放された際の情報と、安全地帯がある事を話した。
「なるほど。他のエリアには、全く別のモンスターが居るのか。そしてエリアが解放されたら、そのモンスターたちもここに侵入して来ると……それは厄介だな」
「そうね。なら、私たちもエリア6の中学校に向かってみるわ。君はどうするの?」
「俺はこのままエリア4に向かいます」
体力も魔力もまだ十分にある。
エリア4の討伐者が何者なのかを確かめなければ。
もし協力的な人物だったら、レギオンに引き入れて戦力強化を図りたい所だ。
「分かった。じゃあ俺たちはこれからエリア6に向かうよ」
そうして俺は二人に別れを告げて、エリア4へと向かった。
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