第27話 四日ぶりの帰宅
と言うわけで、高城さんと緑川さんを連れ、自宅のあるエリア13まで道案内をしている途中。
「な、何あのモンスター……初めて見るわ。このエリアにまだこんなモンスターがいたなんて……」
「でっかい狼……すごく強そうだよ」
俺達は三体の狼型モンスターと会敵した。
「なんか、見覚えのあるヤツらだな」
今にも襲いかかって来そうな三体の漆黒の狼──多分コイツらは、俺がこのエリアに来る原因となった魔司利加狼だった。
でも、なぜエリア10に居るんだ?
モンスターはエリア間の移動は出来なかったはずだ。
それがこうしてエリア10で会敵したと言うことは、エリアを分断する壁がなくなったのだろうか?
いや、今はそんな事に頭を悩ませてる場合じゃないな。
俺は余計な思考を振り払う様に頭を振って、目の前の強敵を鋭く見据えた。
「さぁ来いよ、しつこい狼ども。今回は相手してやるよ!」
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魔司莉加狼を討伐。
950EXPを獲得。
580GPを獲得。
魔司莉加狼を討伐。
780EXPを獲得。
420GPを獲得。
魔司莉加狼を討伐。
1,100EXPを獲得。
630GPを獲得。
レベル42に上がりました。
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四日前は逃げる事しか出来なかった相手が、今は苦戦すること無く倒せてしまった。
サンイーター戦の直後で疲労が溜まっていたとはいえ、二人のサポートもあって傷も少なくすんだ。
「私達だけで戦ってたら、普通にやられてたわね」
「うん、私もそう思う」
「コイツら、魔法も平気で使って来ますからね。最初に戦ったときは、殺されそうになりましたよ」
「それで、良く生きてたわね……」
「あの時は詩織さんの助けが入って何とか倒せたんですけどね」
三体の魔司利加狼を難なく退けた俺達は、そんな言葉を交わしながら先を進む。
エリアの境界線に着くと、やはり透明な壁は消えていた。
「そう言えばその詩織さんって、北原の家に避難してる幼馴染だっけ?」
「ええ、そうです。ゲーム開始時にエリアボスに襲われたのがトラウマになってしまって、外に出られないんです」
エリア10に居た間は、定期的に連絡を取って、お互いの安否を確認していた。
メールの文書からは、特に変わった様子は読み取れなかったのだが、実際は分からない。
トラウマの克服には時間がかかると聞くし、俺に心配をかけまいとして無理をしている可能性だってある。
「ふふん、じゃあ私の出番だね!」
と、緑川さんが何故か胸を張って得意げな表情を見せた。
「ん? 何でですか?」
「私、実は大学で心理学を学んでるの!」
「ええ!?」
衝撃の事実。
まさか緑川さんが心理学専攻だったとは!
うーん。ちょっと天然っぽい人が心理学か……やっぱりこの人の考えてることは良く分からん。
「北原、今失礼な事考えたでしょ?」
「い、いや、決してそんな事は──あっ、着きました! ここが我が家です!」
俺は誤魔化すように我が家を指差した。
四日ぶりに見る我が家。見ただけで深い安心感が込み上げて来る。
やはり自分の家が一番だ。
「詩織さーん」
帰ることは既にメールで知らせてあるので、そのまま扉を開けて家の中に入る。
名前を呼ぶと、詩織さんはリビングから少しだけ姿を見せて出迎えてくれた。
しかし彼女はどこか落ち着かない様子で、なかなかリビングから出て来てくれない。
出てきてくれないと、二人を紹介できない。
「どうしたんですか、詩織さん?……はっ! もしかして、モンスターに襲われて何処か怪我でもしたんですか!?」
「ち、違うの! 私、赤の他人と会うの凄く久しぶりだから、どう接して良いか分からなくて……!!」
単に引きこもりの人見知りを発動してるだけだった。
××××××××××
人見知りを発動中の詩織さんを落ち着かせ、リビングでお互いの自己紹介を済ませた。
詩織さん元来の性格もあってか、二人は詩織さんのことを気に入ったらしい。
詩織さんは詩織さんで、最初は緊張していたものの、俺の以外の生存者と出会えて嬉しそうだった。
そして、メールでは伝えきれなかったここ四日間の出来事を詩織さんに全て話した。
「明日から、また渚ちゃんの救出に行くの?」
最後に詩織さんは俺にそう尋ねる。
「ええ、もうレベルはかなり上がってますから、明日の朝にでもエリア9に行こうと思います」
「そっか、気をつけてね。あと……」
「はい?」
「その……死なないでね?」
詩織さんはそう言って、心配そうに上目遣いで俺の顔を覗き込んでくる。
本気で俺の身を案じている事が分かった。
詩織さんの心遣いが胸に沁みる。
「夢ちゃん、やばいよ! ライバル登場だよ……!」
「はぁ、また何言ってんのよ、あんたは……それより北原、渚って誰?」
「ああ、そういえば言ってませんでしたね。渚は俺の妹です」
「妹が居たの?」
「はい、ゲーム開始時点で渚は学校に行ってたので、今はエリア6に閉じ込められてるはずです」
「そう……それは心配ね」
高城さんはこちらを気遣うようにそう言ってくれた。
渚は俺なんかよりもしっかりしてるし、星5のスキル『重力魔法』だって持ってる。
それに学校は災害時に避難所にもなる。
すぐにやられる様なことはないはずだ。
そうと分かっていても、不安は一向に拭えなかった。
けれどエリアに分断されている現状、直ぐには助けに行けない。
その現実に歯痒い思いをするしかなかった。
だが、もうレベルも上がって大抵のモンスターなら一撃で倒すことができる。
今日はサンイータ戦の疲れを癒し、明日の朝、日が登りきる前にでもエリア9に突入しよう。
そして速攻でエリアボスを討伐する。
「それなら私も一緒に行くわ。二人で戦った方がきっとエリアボスも早く倒せるでしょ」
「わ、私も一緒に戦う!」
高城さんが同行を申し出て、それに緑川さんも続いた。
確かに、高城さんの言う通りだ。エリアボス戦には人数がいた方が有利だろう。
しかし──
「ありがとうございます。でも、エリア9は俺一人で行きます」
俺は二人にそう告げる。
「駄目よ。今日のサンイータでエリアボスの強さは分かったでしょ? 人数は多い方が良いわ」
「……それでも、やっぱり一人で行きます。二人には俺の事情で迷惑はかけられませんから」
エリア10でのレベル上げのおかげで、俺は負傷せずにポーンベアーを倒すぐらいには強くなった。
そのためレベルはもう十分に上がっていると判断できる。
エリア9ではスピード重視でエリアボスを倒す。
その過程で、二人のレベルでは足手纏いになりかねなかった。
それに二人には詩織さんの側に居てあげて欲しい。
そんな俺の思いを察したのか、二人はそれ以上強く同行を申し出ることはなかった。
「分かったわ。でも何かあったらすぐに連絡しなさい。私達はいつでも駆け付けるから」
「はい、ありがとうございます」
高城さんの心遣いに、俺は感謝の意を込めて深く頭を下げた。
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