第28話 速攻


 翌日。

 俺は三人に見送られ、明朝にエリア9へと移動した。

 目指すは妹が居るエリア6。

 そのためにも、一刻も早くここのエリアボスを討伐する。

 そう決心し、エリア内を走り回ってモンスターを見かけ次第狩っていく。

 やはりエリアごとに出現するモンスターは違うらしく、出会うのは初めて見るモンスターばかりだった。


 俺がこのエリアで倒したモンスターは5種類。

 氷魔法を扱うペンギン型モンスター、子爵氷鳥。

 炎魔法を扱う猿型モンスター、火ザル。

 尻尾が蛇の猫型モンスター、捕食尾。

 頭に銃口を付けたリス型モンスター、ガントスク。

 軍団で襲って来る鼠型モンスター、ソルジャーケイビー。


 どれも初めて戦うモンスターだったが、慎重に、時には大胆に攻撃を仕掛け、討伐数を重ねていった。

 このエリアのモンスターは、子爵氷鳥と火ザルがまあまあ厄介だったと言う印象だ。

 

 そして今、俺が戦っているのはソルジャーケイビー。

 こいつは体長1メートルくらいの鼠で、一匹一匹は弱いが、やけに好戦的なモンスターだ。倒しても倒してもうじゃうじゃ湧いてくる、別の意味で厄介なヤツらだった。

 そして気づくと俺は数十匹に囲まれていた。


「クソッ! 数が多すぎだろ! もう三十分は倒しまくってるぞ!」


 俺は悪態をつきながらも、次々と襲ってくるソルジャーケイビーをカウンターで斬りつけていく。


「はぁっ!」


「ギッ!?」


 俺の攻撃がクリーンヒットしたソルジャーケイビーは倒れる。

 だが、すかさず別の個体が、俺に向かってくる。


「まずいな……流石に数が多すぎる……」


 連戦で疲労が溜まってきた。

 それに集中力も切れてきたのか、敵の攻撃を避けきれずに受けてしてしまうことが増えた。

 このままではジリ貧だ。


 それでも、打開策がない訳ではない。

 長時間ソルジャーケイビーを倒して分かった事がある。このソルジャーケイビーには司令塔の様なヤツがいる。

 そう思う一番の根拠は、ビルの屋上から俺を見下ろす一匹のソルジャーケイビーがいるからだ。

 そいつは他のソルジャーケイビーより一回り程小さく、襲って来る素振りを一切見せない。


「間違いなくアイツが司令塔だろうな」


 そうでなければ、モンスターのくせして小賢しい連携をとってくるコイツらの説明がつかない。

 恐らくだが、あの司令塔を倒せばソルジャーケイビー達は統制を失って散り散りになるだろう。


「ここから屋上まで結構あるな……」


 ビルの背は高い。

 ここからソルジャーケイビーの軍団を掻い潜って司令塔まで到達するのは骨が折れるだろう。


「だったら!」


 俺はソルジャーケイビー達の攻撃を避けながら、三叉槍に魔力を送る。


「水弾!」


 穂先に水を生成し、一気に射出。

 水弾は司令塔まで一直線に飛んでいき、直撃した。

 この水弾は水の刃を飛ばすのと違い、威力は弱いが飛距離は出る。


「ギッ!?」


 水弾が直撃した司令塔は動揺して怯む。

 すると他のソルジャーケイビーの動きが明らかに悪くなる。

 俺はその隙を見逃さず、ビルに備え付けられた非常階段まで跳ぶと、そのまま屋上まで駆け上った。

 そして柵を飛び越えて着地。


「高みの見物はもう終わりだぞ、ソルジャーケイビー!」


「ギギッ!!」


 屋上の中心に位置取る司令塔に向けて三叉槍を構える。

 すると俺を見た司令塔は、一目散に逃げ出した。


「あっ、お前、逃げるとか卑怯だぞ!?」


 司令塔ゆえに性格は臆病なのか。

 俺は慌てて追いかける。

 チラリと横目で地上を見ると、ビルの壁を登って押し寄せるソルジャーケイビーの軍団が見えた。


「クソッ、早く片をつけないとまた囲まれるな」


 折角ここまで近づけたんだ。この好機を逃す手はない。


「逃すか! 水弾! 水弾! 水弾!」


 連射攻撃で畳み掛ける。

 しかし、司令塔は鼠同様すばしっこい動きで全て躱してしまう。


「だったら、コレはどうだ!」


 俺は次に地面を隆起させ、司令塔の眼前に土壁を生成した。


「ギギッ!」


 逃げ道を塞がれた司令塔は俺に向き直り、突然身体から針を飛ばす。


「危なっ!」


 それを紙一重で躱し、一気に距離を詰めた。

 そして三叉槍を一閃。


「ギャアッ!」


 司令塔は短い悲鳴を上げて倒れると、モヤとなって消えた。

 予想通り、他のソルジャーケイビーは司令塔を失って、一斉に散らばって逃げていった。


────────────────────

ルーラーケイビー【エリアボス】を討伐。

500EXPを獲得。

500GPを獲得。


エリアボス討伐ボーナスを獲得。

体力+500

筋力+500

耐久+500

魔力+500

俊敏+500

────────────────────


────────────────────

エリアボスの討伐により、金沢市エリア9が開放されました。

────────────────────



「おお、マジか!? 今のがエリアボスだったのか!!」


 そのまま屋上でCWを開いてバトルログを確認した俺は、エリアボス討伐の事実に思わずガッツポーズする。

 流れで倒したが、エリアボスを探す手間が省けて良かった。


「それにしても、エリアごとにボスの強さもバラバラなんだな」


 経験値の獲得量を見ると今倒したルーラーケイビーはそれ程強い個体ではなかったと分かる。実際に戦ってみてもそうだった。

 アビスベアーとサンイーター見ていたから、エリアを開放するのに数日はかかると思ってたんだが……これは嬉しい誤算だ。


「よし、もうこのままエリア6に移動しよう!」


 体力も魔力もかなり消費して、疲れは溜まってる。だが、立ち止まる理由はない。


 俺は逸る気持ちに背を押されて、エリア6へ駆け出した。

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