第21話 偵察

 翌朝。

 昨日予定を立てた通り、俺は高城さんと二人で食料調達に赴いていた。

 本当なら緑川さんも連れて三人で来たかったのだが、危険な目に遭った直後である。

 またポーンベアーや他の男たちに襲われては危険だという判断で、彼女は拠点で待機してもらう事になった。


 そして食料調達が終わると、そのまま能力検証の続きをすることに。

 次の検証は陸の操作。海神の三叉槍の説明文には『海と陸を支配する権能を持つ』と書いてある。

 陸も支配できるのなら、土魔法的なこともできるはずでは?

 という期待を胸に、高城さんと初めて会った公園へ来ていた。


 そして、そんな期待と共に始めた能力検証だったが、結論から言うと攻撃というより防御向きの能力だった。


 まず水を操った時のように、イメージすれば簡単に地面を操ることができた。

 地面を隆起させて土壁を作り出せるのは良いものの、操れるのは自分の範囲二メートルまで。

 使い所としては、盾として利用するぐらいだろう。

 それに範囲が狭いうえ魔力の消費が多く、燃費の悪さも目立った。

 地震を引き起こす技だって、まだそれほど大きい揺れは起こせない。

 この技は、地底鰐には効果的だが他のモンスターには効くかどうか怪しいところだ。


 土壁で防御するにしても、せいぜい二メートル程度。地面から槍を突き出す技は、威力こそ高いものの射程が短すぎる。

 まあ、今の所は使い所が難しい能力だが、伸び代があると期待するしかない。

 そもそも一つのアイテムで水と土の両方を操れるのだから、それだけでも破格の武器だ。


 あとはトレーニングを続けて能力を伸ばしていけばいい。


「それじゃ、拠点に戻りましょうか。うたもきっと暇して待ってることだし」


 ××××××××××


 拠点へ向けてしばらく移動していると、遠くから誰かがモンスターと戦うような音が聞こえてきた。


 高城さんとどうするか相談し、確認してみる事に。

 戦闘音のする方へ向かうと、たどり着いたのはショッピングモールだった。

 俺と高城さんは、遠くから様子を伺う。


 ショッピングモールの広い駐車場内では、四人の男が巨大なモンスターと熾烈な戦闘を繰り広げていた。

 戦っている男たちは、一昨日襲ってきた奴ら。

 敵対しているモンスターは初めて見るヤツだが……かなり異様だった。


「アレが例のひまわり野郎ですね」


 一目見て分かった。

 全体的なフォルムとしては四足歩行の獣みたいだが、他のモンスターと明らかに違う。

 全長が4メートルはある巨体で、ひまわりのような頭に、緑の体毛に覆われたライオンの様な下半身がくっついている。

 顔の中心には巨大な眼が一つだけ付いていて、恐ろしいスピードで四人の男たちに視線を合わせていた。

 以前高城さんが見ただけでエリアボスだと分かると言ったのも頷ける。


「嘘でしょ……!?」


「どうしたんですか?」


「ひまわり野郎が、以前見た時より明らかに巨大になってる……前はせいぜい2メートルぐらいだったのに……」


「巨大化の魔法でも使ったんですかね?」


 モンスターの中には魔法を使う個体も存在する。

 あのマツリカ狼がそうだったように。

 まだ俺が知らない魔法は山ほど存在するのだから、巨大化の魔法だってあってもおかしくない。


「分からないわ。前に戦った時はそんな素振りは一切なかったけど……」


 とはいえ、この場で急いで結論を出す必要はないだろう。

 今は相手の観察に徹するべきだ。冷静に分析し、少しでも攻略の糸口に繋げないと。


 ひまわり野郎は、首のあたりから生えた蔦のようなものを振り回して攻撃している。

 鞭の様にしなる太い蔦が、四人の男たちを捉えようと襲いかかる。

 男たちはなんとか躱し反撃しているが、明らかに押されていた。


「あの人たちかなり苦戦してますね……」


「助けに入っちゃダメよ」


 俺の呟きに高城さんは釘を刺してきた。


「……ええ、わかってます」


 俺たちは、彼らと協力関係にあるわけではない。

 一昨日の件を考えれば、むしろ敵同士だ。

 助けに入ったところで、向こうは俺たちを味方とは認識しないし、あの男たちが全滅したところで、それは自業自得だろう。

 彼らもそれぐらいの覚悟を持って戦っているはずだ。


 次の瞬間には、ひまわり野郎の足元にいたリーダーの男が蔦に捕まり宙に持ち上げられていた。

 そのまま男を空中で何度か振り回すと、勢いよく地面に叩きつける。

 叩きつけられた男は動かなくなった。

 それが決め手となって、他の男たちは一目散に逃げるとショッピングモールの中に隠れてしまった。


「やっぱり、アイツらじゃ荷が重い相手だったわね」


 男たち四人はスキルも武器も駆使して必死に戦っていた。

 だが、明らかに連携の動きが悪かったし、攻撃も防御もどこか雑な印象を受けた。


「それでも、かなりダメージを与えてますね。蔦の攻撃にさえ気をつければ、それほど厄介な相手じゃないかもしれません」


 事実、ひまわり野郎の巨大な身体には無数の傷が走り、青紫色の血を流している。

 四人の男たちが与えたダメージは、決して小さくない。

 このまま奇襲をかければ、ひょっとして押し切れるか……?


「ちょっと待って、おかしいわ。傷が回復してない」


 高城さんは、ひまわり野郎の傷口を見てそう言った。


「そう言えば、以前戦った時には傷が回復したって言ってましたね」


「ええ。あの回復力は異常だったわ。ダメージを負ったそばから傷が塞がってたし、切り落とした蔦も直ぐに再生したし……前回と今回で一体何が違うのかしら……?」


 と、そこでひまわり野郎が新たな動きを見せた。

 キョロキョロと辺りに視線を彷徨わせると、駐車場内を移動し始めたのだ。


「どこかの物陰にでも隠れるつもりなんでしょうか?」


 そう思ったのだが、ひまわり野郎が移動した場所はその真逆で、見晴らしの良い陽の当たる場所だった。

 すると、ヤツの傷がみるみる内に塞がっていく。


「……なるほど、太陽の光がヤツの回復を早めてたってわけ。見た目通り、植物系のモンスターだったのね」


「身体が巨大化してたのも、それが関係してそうですね。それなら、戦うのは曇りの日にしましょう。今日は……このまま晴れが続きそうですし」


「ええ、それが分かっただけでも十分な収穫だったわ」


 そうして俺と高城さんは拠点へと戻った。

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