第22話 食料ガチャ

 ひまわり野郎の偵察から一日が経った次の日。


「ねぇ二人ともこれ見て!」


 お昼ちょうどの時間帯。銀行の中。

 俺と高城さんで三叉槍の能力訓練をしている最中、緑川さんの慌てた様な声が聞こえてきた。

 どうしたのかと彼女の方を見ると、緑川さんはCWを開げ、なにやら興奮した様子だった。


「どうしたの? うたがそんなに取り乱すなんて珍しいじゃない」


「今、運営からすっごいお知らせが届いた……!」


「運営からすごいお知らせ?」


 すぐに興味を惹かれた俺は、トレーニングを中断してCWを開く。

 確かに、俺のところにも一件だけ通知が来ていた。

 即座にタップして開くと、そこに書かれていたのはこんな内容だった。


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一週間到達キャンペーン!


親愛なるプレイヤー様。

いつも『ジェネシス・ワールド』をプレイしていただき、誠にありがとうございます。

ゲームのリリースが開始してから今日で一週間を迎えました。

その事を記念しまして、以下の項目をシステムにアップデートします。


アップデートの内容は以下の通りです。

・生存ボーナス

・食料ガチャ


また食料ガチャの常設に伴い、プレイヤーの皆様に『10連ガチャチケット(食料ガチャ専用)』をお配りします。

今後とも『ジェネシス・ワールド』をよろしくお願いいたします。


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「ね? ね? すごいでしょ!?」


「せ、生存ボーナスに食料ガチャ……これは確かに、ものすごいアップデートですね」


「ふん、私は気に入らないわ。何が親愛なるプレイヤー様よ。白々しい」


 高城さんは不満げなものの、ここに書かれていることが本当だとしたら相当すごい内容だ。

 俺はすぐさま追加された内容を確認することにした。


 まず、ホーム画面に一つのアイコンが追加されていた。それはカレンダーの絵が描かれたシンプルなアイコン。

 タップしてみると、短いテキストが現れた。


『『水』と200GPを獲得しました』


 生存ボーナス。これは言わばログインボーナスの様なモノだろう。

 アイテム一覧のストレージには『水』と書かれたアイテムが増えていた。

 そのまま現界させると、水の入った500mlのペットボトルが一本現れる。

 試しに飲んでみると、本当にただの水だった。普通に美味しい。


 そのまま俺はガチャの画面に移る。

 ガチャ画面は、食材の彫刻が彫られた銅の扉が正面に据えられており、左右には水瓶を持った2人の天使があしらわれていた。

 どうやら食料ガチャも通常ガチャと同じで、一回まわすのに200GPが必要らしい。


 この生存ボーナスと食料ガチャは、モンスターを倒してGPを貯めれない人にとってはまさに天の救いとなる。

 食料をめぐっての争いはかなり減るだろう。

 それにこのガチャは俺としてもすごく助かる。

 通常ガチャではゴミアイテムしか出ないことがわかっている身としては、今後は食料ガチャだけ引いていれば、食料調達の手間が省けるのだ。


 俺はそのままの流れで食料ガチャを引く事にした。

 運営から配られた10連ガチャチケットを使って引いてみる。すると──


「なっ、確定演出ッ!?」


 初めてガチャを引いた時同様、突然銅の扉が虹色に輝き出した。

 そして扉は重々しく開かれ、そこから差し込む光が画面を白一色に染め上げる。

 そうして排出された10個のアイテムは……


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   ☆☆  共鳴スプーン<武具>

       コチジャン

       お茶

 ☆☆☆☆☆ マスターキューブ<道具>

       梅おにぎり

  ☆☆☆☆ 魔力の果実<道具>

       ヨーグルト

 ☆☆☆☆☆ 神の葡萄酒<道具>

 ☆☆☆☆☆ 斎庭の稲穂<道具>

       肝油


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「星5が三つ!?」


 あまりの神引きに、俺は動揺を隠せずデカい声を出してしまった。

 俺の反応に二人も何事かと集まって、CWを覗き込む。


「え、すごっ!? 何この神引き!!」


 思い当たるのは一つしかない。

 俺がゲットした称号『初回10連で全ての運を使い果たす者』だ。

 もう星アリのアイテムは手にできないと思っていたが、新設されたガチャの初回10連でも効果が発揮されるのか……。嬉しい誤算だ。


 俺は歓喜に震える指で星5のアイテムを一つ一つ確認していくことにした。

 まずは一番上位にあったアイテムだ。


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「マスターキューブ」<道具>

 ☆☆☆☆☆

モンスターを必ず捕獲できる最高性能の捕獲機。

捕獲後は使い魔にすることが可能。

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 説明文に書いてあったのは破格の効果。

 モンスターを必ず捕獲できる……つまりこのアイテムを使えば、エリアボスすらも捕獲できるのだろうか?

 もしあのアビスベアーみたいなモンスターを使い魔にできるなら、もはや敵なしだろ。

 だが、おいそれと使える様なアイテムじゃないな。使い所は慎重に見極めなければならないだろう。


 と言うか何故食料ガチャからこんなアイテムが出るんだ?

 捕まえたモンスターを食べろとでも言うのだろうか……?


「よ、よし、次だな……」


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「神の葡萄酒」<道具>

 ☆☆☆☆☆

 豊穣と酩酊とワイン酒を司る神によって造られた葡萄酒。

 所有者は状態異常に対する完全耐性を持つ。

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 状態異常の完全耐性か。さすがは星5のアイテム。

 これから状態異常を持った敵と戦うこともあるかもしれない。俺はかなり有効なアイテムをゲットしたみたいだ。


「最後のアイテムは……」


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「斎庭の稲穂」<道具>

 ☆☆☆☆☆

 高天原から齎された稲穂。

 所有者の全ステータス1.5倍。

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「ぜ、全ステータス1.5倍!?」


 こ、これはとんでもないアイテムを引いてしまったんじゃないか……?

 食料が手に入るガチャだと思って気軽に引いたんだが、望外な結果だ。


 ちなみに残り二つのアイテムはこんなのだった。


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「共鳴スプーン」<武具>

 ☆☆

 相応しい調味料に共鳴する魔法のスプーン。

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「魔力の果実」<道具>

 ☆☆☆☆

 食べた者に魔力を授ける実。

 魔力+2,000。

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 『共鳴スプーン』の使い所は全く思いつかないが、『魔力の果実』は有り難い。


 どうやらアイテムの〈道具〉は、所持してるだけで効果が発揮される物と、使用しなければ効果が発揮されない物の二種類があるらしい。『魔力の果実』は後者だった。


「……一体どんな顔しながらこれを押したらこんな結果になるのかしら?」


「やっぱり北原くんって、宇宙人だった……!?」


 二人は心底不思議そうな顔をしていた。


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