第23話 決戦の日

「GROAAAAAAA!!」


「はあああっ!」


 俺は路上で会敵したポーンベアーの攻撃をかい潜り、三叉槍の切先をガラ空きの胸へと突き刺した。

 その一撃でポーンベアーは倒れ、靄となって消える。


「すごっ、ポーンベアーももう敵じゃないみたいね」


「いえ、そんなことないですよ。『斎庭の稲穂』の効果があるとはいえ、まだ油断はできない相手です」


 全ステータスの数値が1.5倍になった俺は、明らかな強化を感じていた。

 以前はギリギリの闘いを強いられていたポーンベアーもあっさりと倒してしまうほどに。

 とはいえ、油断は禁物だ。

 高城さんと一緒にレベル上げをしつつ、三叉槍の能力を鍛えてはいるが、伸び代はまだまだあると感じている。


「そうだよ、夢ちゃん! 何が起こるかわからないんだから気を引き締めていかないと!」


 そして、やる気満々の緑川さんも一緒にレベル上げに加わっていた。

 彼女の手には初回10連ガチャでゲットしたという弓が握られており、遠距離攻撃でのサポートをしてくれていた。


 本来ならレベルが低いうえに回復要員でもある緑川さんを危険な目に合わせるような事は避けるべきなのだが、レベルを上げて魔力量を増やした方がいいのも事実。

 それに彼女は昨夜、生存ボーナスの200GPで通常ガチャを引き、星4の武具を引き当てていた。

 彼女が入手した武具はというと、


────────────────────

「自動防御システム・水柔」<武具>

 ☆☆☆☆

危険な状況から自動で身を守ってくれる安全装置。

装備者に革新的な安全を保障する。

────────────────────


 緑川さんの周囲をぐるぐると衛生のように浮遊する水球。

 緑川さんへ向けられた攻撃を自動で防いでくれる優れたアイテムである。

 定期的に水の補給は必要なものの、一度装備すればあらゆる攻撃を防いでくれるため非常に頼もしい。

 運動神経が無い彼女の足りない部分を埋めてくれるようなアイテムだった。


 そんなのを単発引くなんて運が良い。

 しかも「なんかいいアイテムが出そうな気がする……!」という謎の自信と共にゲットしていた。


 そして今日は、エリアボスのひまわり野郎を偵察してから三日が経過していた。

 その間、レベル上げを積極的に行なって、俺たちのレベルは順調に上がりつつあった。

 俺は現在35。高城さんは18で緑川さんが10だ。


 さらに今日は、俺の中で決戦のXデーと決めていた曇りの日でもあった。


「高城さん……今日は、このままエリアボスに挑もうと思います」


 ちょうど空は分厚い雲に覆われ、太陽が顔を覗かせる切れ目すら見当たらない。

 今日みたいな絶好の討伐日和が次いつ来るか分からない。

 タイミング的にもまたとない機会だろう。


「だったら私も一緒に戦うわ。私だって、このクソみたいなゲームを早く終わらせたいもの」


 高城さんは俺の目を見て覚悟を決めたらしい。


「うたはどうする?」


「わ、私も一緒に戦う……! 待ってるだけは嫌だから!」


 緑川さんも負けじと覚悟を決めた。

 回復薬を所持していない俺としてもヒール使いが居るのは心強い。

 それにレベル上げの最中、緑川さんのサポートには何度も助けられた。


「分かりました。それじゃ、ショッピングモールのところまで行きましょう」


 ××××××××××


 この三日、ひまわり野郎はショッピングモールの駐車場から離れることはなかった。

 そこを自分のテリトリーと決めたのだろう。

 ショッピングモールに籠城してる生存者からしたら迷惑極まりないが、確かに駐車場は陰になる建物がなく、陽当たりが一番良いスポットだ。

 ご丁寧に、放置された車も動かしたらしく、ひまわり野郎の周囲には遮蔽物は一つもなかった。これでは奇襲は出来そうに無い。


「とりあえず先制攻撃を仕掛けてみます」


 俺たちはひまわり野郎の遠からぬ背後へ位置取ると、気づかれる事なく戦闘体制に入った。


 この数日間、能力の訓練は欠かしていない。

 俺は魔力を込めて三叉槍を一度振るう。

 すると、穂先から水の刃が発生して飛翔した。

 刃は勢いを緩める事なく、そのままヤツの胴体を鋭く切り裂いた。


『GYAAAAAAAAAッ!』


 身体がデカい分、攻撃を当てやすくて助かる。

 だが、さすがはエリアボス。

 クリーンヒットして傷を負ったものの、倒れてはくれないらしい。

 致命傷を与えるには、やはり接近して戦うしかないか。


「このまま連射してみます」


 こちらに気づき、猛スピードで迫るひまわり野郎に向けて、次々と刃を飛ばす。

 接敵するまでに少しでも傷を負わせたいところだが……しかし、俺の攻撃は全て蔦で弾かれてしまった。


「クソッ、意外と器用だな!……戦闘が始まります、二人とも散開して下さい!」


 今、奴のヘイトは俺に向いている。

 二人には、俺とひまわり野郎の戦闘に巻き込まれない所へ移動してもらい、そこから攻撃をお願いする。


 俺の正面まで迫ったひまわり野郎は、まるで鬱陶しいハエを叩き落とすかのように蔦を恐ろしいスピードで横に薙いだ。

 それを飛び上がって躱すと同時、三叉槍を振り下ろして蔦を切り落とす。

 さらにそれだけでは終わらない。


「はああああッ!!」


 着地と同時に踏み込みつつ、正面へ水の刃を飛ばした。

 今度は蔦で弾かれるも、俺の攻撃を受け止めたことによりできた隙を突くように、緑川さんの矢が飛来した。

 鋭い矢はひまわり野郎の顔に突き刺さり、その巨体をよろめかせる。

 すかさず俺は二連撃をひまわり野郎の前脚に叩き込んだ。


『GYAAAッ!』


 前脚に激痛が走ったのだろう。ひまわり野郎は悶えながら後退る。

 が、相手の死角を走る高城さんが追撃の手を緩めない。


『GYOOOOOOOッ!』


 俺たちの攻撃に苛立ったのか、ひまわり野郎は全身からさらに多くの蔦を生やしてきた。

 そして鞭のようにしなる蔦が縦横無尽に暴れ回り、俺たちを無差別に襲い始める。


 その攻撃を三叉槍で切り裂き、躱し、捌く。

 一緒に攻撃を仕掛ける二人にも蔦が襲いかかるが、なんとか躱していた。


『GYAAAAッ!!』


 曇りの日を決戦の日に選んで正解だった。

 ひまわり野郎の傷は治る様子を見せず、次々と新たな傷が身体に刻まれていった。斬り落とした蔦も再生する様子を見せない。

 俺たちの攻撃は着実にダメージを与えている!


「よし、このまま押し切りましょう!」


 だが次の瞬間、ひまわり野郎は蔦を引っ込めて後ろに大きく跳んだ。

 そして咆哮を上げる。


『GYAROAッ!』


 すると、その叫びに呼応するかのようにして俺たちの周囲に雑草が生え始めた。

 雑草はぐんぐんと急成長していく。


「な……っ!?」

「何これ!? 新しい魔法!?」


 緑川さんと高城さんは驚愕する。


「草の勢いが強いです! 二人とも一度下がってください!」


 しかし、退避するより早く周囲の雑草が伸びていき、視界を緑で覆い尽くす。


「くっ……っ!」


 三叉槍で雑草を切り裂いていくが、キリがない。

 草はすでに俺の背丈にまで成長し、意志を持っているかの様に身体を絡め取ろうと纏わりついてくる。


 このまま俺たちを草で呑み込むつもりか!?


「……っ! 二人とも動かないでください!」


 俺は咄嗟の判断で三叉槍を地面に突き立て、魔力を流し込んだ。

 大地を操作する能力を使って、成長する草の動きを土の力で押さえ込む。


 ひまわり野郎との魔法の押し合いで、魔力が急速に失われていくのが分かった。

 だが、草の動きは止められた。


「くっ!?」


「北原!? 大丈夫!?」


「大丈夫です! それよりも今のうちにヤツを攻撃してください!」


 荒技で食い止めはしたが、それも一時しのぎでしかない。

 こちらが気を緩めたら、すぐにまた動き始めるだろう。


「分かったわ!」


 高城さんは鉤爪を構えて走り出し、緑川さんも弓を番える。

 そして、二人は同時に攻撃を繰り出した。


「はああ──っ!」

「てやーっ!」


 二人の攻撃はひまわり野郎に直撃。


『GYAAAAッ!!』


 悲鳴を上げながら、蔦をしならせて二人を弾き飛ばした。


「きゃあっ!?」

「くぅっ!」


 地面を転がりながら悲鳴を上げる二人。

 その隙に俺は、ひまわり野郎へ肉薄すると、股下へと滑り込んだ。

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