第24話 サンイーター

 ひまわり野郎の股下まで行くと、俺は再び三叉槍を地面へ突き立てた。


「これでも喰らえッ!」


 魔力を地面に流し込む。

 すると地面が形を変えて隆起し、無数の棘となって敵を貫いた。


『GYAAAAAAAAAッ! 』


 無数の岩の棘に突き刺さるひまわり野郎は、苦悶の叫びを響かせ、その巨体がぐらりと揺れた。

 このチャンスを逃す手はない。

 俺はさらに猛攻を仕掛けるため三叉槍を高く掲げ、穂先に魔力を集中させるが──


「危ない!」


 高城さんの声にハッと振り向くと、棘の隙間を縫って一本の蔦が忍び寄り、俺の足首に絡み付いた。


「しま……っ!?」


『GYOOOOOAッ!』


 そのまま怒りに任せて、投げ飛ばされる。

 物凄いスピードで身体が宙を舞い、重力に従って地面へ落下する。

 落下の衝撃で身体中の骨が軋み、肺の空気が一気に吐き出された。


「ぐぁ……!」


 声にならない声が喉から漏れる。

 ステータスが強化されたおかげで、高所から落下しても死ぬことはないが、死ぬほど痛い。


 痛みを堪えて立ち上がると、奇妙な光景が目に入った。

 ひまわり野郎の顔の前にキラキラと輝く粒子が集まっていたのだ。

 粒子は一点に収束していき、次第にその体積を増すと、膨大なエネルギーを凝縮した光弾になった。


「ッ! マズい!」


 慌ててその場を離れる。

 ひまわり野郎は容赦なく光弾を放ってきた。

 煌々たる閃光と共に放たれた光弾は、俺が立っていた場所を通り過ぎていき、ショッピングモールの壁に着弾した。


 ──ドガァアアア!!


 激しく爆発し、壁を粉々に砕く。


「な……っ!?」


 凄まじい威力。まだこんな奥の手を持っていたのか。

 直撃していたら危なかった……


「北原! 大丈夫!?」


「大丈夫です、直撃はしていません!」


「良かった……」


 こちらへ駆け寄ってくる二人に向けて、俺は無事を知らせる様に手を挙げた。

 ほっと胸を撫で下ろす二人だが、すぐに表情を引き締めて、ひまわり野郎の方へ向き直る。

 ひまわり野郎の周囲には、さらに多くの光弾が形成されていた。

 どうやら考える時間を与えてくれないらしい。

 俺たちに向けて次々と光弾を放ってくる。


「クソッ、これじゃ近づけない!」


 次々と放たれる光弾を躱しながら攻撃の隙を伺うが、反撃を狙うかの様に蠢く蔦が、俺たちの動きを制限してくる。

 ダメージは確実に入っているはずなのに、巨体ゆえに耐久力が高いのか、まだまだ余裕が感じられた。あと一押しの決定打が与えられない。


 何か打開策を考えるべきか?

 それとも地道にダメージを与え続けるべきなのか?


 必死に頭を回転させるが、焦りで思考がまとまらない。

 そんな時、緑川さんの声が届いた。


「見て、ヤツの身体がどんどん小さくなってる!」


「え?」


 その声にハッとしてひまわり野郎を些細に観察してみる。

 見れば、確かにヤツの身体が最初より小さくなっていた。

 蔦は短くなり、緑の体毛も枯れたように茶色く変色した部分が目立っていた。

 光弾を放つたびに大量の魔力を消費するのか、今の巨体を維持できないらしい。

 言われなければ気づかない変化だが、確実に小さくなっている。


「よし! このままどんどん光弾を撃たせて、身体を小さくさせましょう! そうすれば、一撃で倒せるかもしれません!」


「分かったわ、攻撃を避け続ければいいのね!」


「はい、お願いします!」


 二人は頷くと、ひまわり野郎の攻撃を避けることだけに集中する。

 その甲斐あってか、身体はみるみる縮んでいき、光弾の数も目に見えて減ってきた。


『GYAAAッ!』


 しばらくすると業を煮やしたひまわり野郎は、必殺の一撃を狙うかの様に特大の光弾を生成し始めた。

 その光景を見て俺は戦いの終わりが近づいてきたことを確信する。

 この一撃さえ避ければ、首を簡単に刎ね飛ばせるぐらいには小さくなるだろう。

 あと一発……これさえ耐え切ればいい。


 そうして最後の一撃に備えて、精神を整えていると、


「なっ!?」


 予想外の事が起きた。

 ひまわり野郎は、なぜか最後の光弾を空に向けて発射した。

 特大の光弾は雲を突き抜け、遥か上空で爆発すると、雲の一部を綺麗に吹き飛ばす。

 雲にはぽっかりと穴が開き、青空が覗き込んだ。そこから一筋の光が差し込まれる。


「そ、そんな……嘘でしょ……」


 空から差し込む一筋の陽を浴びるひまわり野郎は、神々しくさえ見えた。

 傷が徐々に塞がっていき、縮んでいた身体も徐々に戻りつつある。


「まさか、自分で空を晴れにするなんて……」


「うぅ、せっかくここまで頑張ったのに……」


 日光浴を満喫するひまわり野郎だが、こちらの警戒も怠らず、蔦を縦横無尽に振り回して近づく隙を与えなかった。


 絶望に打たれる二人だが、俺は二人とは違ったことを考えていた。


「実は、二人に隠していたことがあるんです……」


 勇気を出して、二人にそう自白する。

 突然のことに二人は驚いた表情を見せ、俺の手に握られた宝石に視線を向けた。


「なに、それ? それもアイテムなの……?」


「そうです……このアイテムは、天候を操れます。実は、俺が持ってる星5の武具は海神の三叉槍だけじゃないんです」


 隠しててすみませんと、そう二人に謝罪する。

 そして俺は、天空神の雷霆に魔力を流し込んだ。

 このエリア全てを雲で覆うには魔力的に無理だと判断して使わなかったが、一部分なら可能なはずだ。


 俺の意思に呼応して鈍色に輝き出す天空神の雷霆。

 すると、雲に空いた穴が徐々に閉じられていった。


「す、すごい……!」

「まだこんなアイテムを持っていたなんて」


『GOA……?』


 閉じていく光に、明らかに動揺する仕草を見せたひまわり野郎。

 俺はその隙を見逃さず一気に肉薄すると、躊躇うことなくその首を切断した。


 ──ドサッ!


 ひまわり野郎の頭部が地面に落ちる。

 そのままボロボロと身体が崩れていき、最後は塵になって消滅した。

 身体が小さくなってたとはいえ、最後はあっけない終わりだった。

 

「倒した……倒したよ……! やったー!!」


 ようやく勝利を実感した緑川さんが大きくジャンプして喜びを露わにする。

 感極まって高城さんに抱きついた。


「ようやくこのエリアも開放されるのね……」


 緊張から開放された高城さんは、その場に力なく座り込み、安堵の息を吐き出した。


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サンイーター【エリアボス】を討伐。

25,000EXPを獲得。

レベル36に上がりました。

レベル37に上がりました。

レベル38に上がりました。

レベル39に上がりました。

レベル40に上がりました。

アイテム上限が5増えました。

レベル41に上がりました。


2,000GPを獲得。


エリアボス討伐ボーナスを獲得。

体力+2,500

筋力+2,500

耐久+2,500

魔力+2,500

俊敏+2,500

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エリアボスの討伐により、金沢市エリア10が開放されました。

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