第40話 絆の上げ方

「瓦礫で攻撃して、シズクさん!」


「……はい」


 指示を出すと、渚の重力魔法で動きを封じられていたポーンベアーに巨大な瓦礫が飛来した。

 頭を潰され、消滅するポーンベアー。


────────────────────


ポーンベアーを討伐。

5,400EXPを獲得。

920GPを獲得。


『神殺しの巫女』がレベル20に上がりました。


────────────────────


「ふぅ……ようやくレベルが20まで上がったか」


 シズクさんのレベルが順調に上がっている事に、俺は安堵の息を漏らす。


 渚も同様に強くなり、重力魔法の扱いにも慣れ、ポーンベアーと魔司利加狼の2体を同時に相手しても勝てるぐらいには強くなった。

 さすがは星5のスキル。磨けば磨くほど、その真価を発揮してくれる。

 もう俺は中学校を離れ、本格的にエリア解放に向かっても問題はないだろう。


 ただ問題はシズクさんの方。

 この二日間レベル上げを行なったが、彼女との絆は1%も上がらなかった。


 彼女には神通力という強力なスキルがあるが、俺が指示を出さないと攻撃しない。

 自分から動こうとしないのは勿論のこと、俺に危険が迫っても助ける事すらしなかった。

 流石に自身に攻撃が及ぶ時は自分からスキルを使って防ぐが、この状態では戦闘の役には立たないだろう。


 少しでも自分で判断して動いてくれたら良いのだが……。

 それには、やはり絆を上げる必要がありそうだ。


「シズクさん全然心開かないね。それに全然喋ってくんないし……」


「そうだな。ここまで心を開いてくれないと、ちょっとやりずらいな」


 一緒にレベル上げをしていた渚もシズクさんの態度に少し落ち込んでいる様子。


「はぁ……」


 思わずため息が出てしまう。

 この二日間、ずっとコミュニケーションを取ろうとしたが、彼女の心を開かせることは出来なかった。

 俺が何か質問をしても、「……はい」か「……いいえ」と答えるだけ。


 今も俺の隣で待機しているシズクさんは、無表情のまま佇んでいた。

 俺たちの会話を聞いているのか、聞いていないのかもすら分からない。

 彼女が何を考えているのか、何も分からない。


「どうしたものかな……とりあえず、今日はもう帰ろうか」


「……うん。そうだね」


 これ以上やっても無駄だと判断した俺は、拠点へと戻った。


 ××××××××××


「そうですか、やはり絆は上がらなかったと」


「ああ、なかなか心を開いてくれなくて……でも、もう俺は明日からエリア解放に向かうよ」


「ええ!? 北原さん、もう行っちゃうんですか!?」


 俺は体育館の一室で、渚と紫音と酒井さんの四人で話し合っていた。


「渚のレベルも十分上がったし、絆を上げる事ばかりに時間をかけるのは勿体無いから」


「確かに……今日も長野市が解放されましたからね」


「ああ、俺もそろそろ別のエリアを解放しないとな。それにしても、東雲咲夜とは一体何者なんだろう」


 東雲咲夜は今日の午前に長野市のエリア7を解放し、これで彼女の開放したエリアは4つになった。

 もう少しで俺に届きそうだ。


 ちなみにシズクさんを除いて、まだ三人目の討伐者は現れていない。

 それだけエリアボスは他のモンスターと一線を画している。


「北原さん、シズクさんが心を開いてくれないのって、もしかして……」


 すると酒井さんが何か思い付いたように呟いた。


「ん? 何か分かったの?」


「実は……クーデレだったりして? ほら、クールに振る舞っているけど、心の中ではデレデレしたいみたいな」


「いや、彼女はそんな感じでは無いかな……」


 第一、彼女は別の世界の住人だ。

 そんな漫画やアニメみたいな設定は無いだろう。


「設定か……」


 俺はふと、アイテムの説明文を思い出した。


『悪神の策略に嵌り、神を殺してしまった』


 『神殺しの巫女』のアイテム名の由来になっている文章。

 俺はこの文章が、適当に書かれたものだとは思えなかった。

 つまり、彼女は元の世界で騙されて神を殺してしまった。

 そして、その罪の意識から心を閉ざしてしまったと。


 俺はシズクさんを現界させる。


「シズクさん、ちょっと良い?」


「……はい」


「シズクさんは、自分の意志とは関係無く騙されて罪を犯した。だからさ、気にしなくていいと思うよ。それにここはシズクさんの居た世界とは全然違うし」


「……はい」


 俺の言葉を否定せず、小さく頷くシズクさん。

 ステータスを見る。

 絆は0%のままだった。


「これでもダメかぁ」


「そんなありきたりなセリフでどうにかなる訳ないじゃん」


 渚が呆れた表情で俺を見てくる。


「それでは、彼女に直接要望を聞いてみるのはどうでしょう?」


「そうだな、ちょっとやってみる……シズクさん、何か欲しい物はある? して欲しい事でも良いんだけど?」


「……特には」


「まぁ、そうだよねー」


「おい、渚。ダメ出しばかりするなら、お前も何か考えてくれよ」


 えー、と不満げな声を上げる渚だが、渚も心を開いて欲しいのか、真剣に考え込む。


「んー、やっぱり時間をかけるしかないんじゃない?」


「時間か……確かに、それが一番無難だな」


 今すぐに心を開いてくれないなら、時間をかけるしかない。

 もしかすると、エリアボスと戦っていく上で信頼が芽生え、絆が上がっていくかもしれない。

 これからは、シズクさんと共に過ごす時間を大切にしていこう。


 俺は心の中で、そう決意した。

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