第30話 待ち侘びた再会

「うぅ……」


 目覚めの瞬間は、心地の良いものではなかった。

 身体がだるく、目蓋がやけに重い。

 抗しがたい眠気になんとか逆らって目蓋を開けると、知らない天井……ではなく、懐かしい天井が目に入った。

 中学生の時に通っていた学校の天井だ。

 どうやら俺は今まで学校のベッドで寝ていたらしい。

 と言う事は、ここは中学校の保健室か。


 そのまま視線を横に移すと、知らない女の子が椅子に座っていた。

 見たところ中学生ぐらいの素朴な女の子だ。


「あっ、目を覚ましたんですね! そ、そこで待っててください、今渚ちゃんを呼んできます!」


 女の子はあわてて保健室を出て行った。

 そしてドタドタと足跡を響かせて帰って来た。


「お兄ちゃん!」


 勢いよく開かれた扉の先にいたのは、妹の渚だった。

 渚はその目に涙を溜め、泣きながら俺に抱きついた。


「お兄ちゃん! お兄ちゃぁあん!!」


「お、おい渚、どうしたんだよ……」


「急に倒れるからびっくりしたんだよ、私! このまま死んじゃうんじゃないかって……!」


 渚は俺の胸に顔を埋め、泣きじゃくる。


 こんな風に泣いている渚を見るのはいつぶりだろうか。

 昔の渚は泣き虫で、俺と少しはぐれただけでよく泣いていた。

 まぁ小学校の高学年になったぐらいから、普通に兄離れをしていったが……


「うぅ……お兄ちゃぁん……」


「泣くなよ渚。もう大丈夫だから」


 俺は懐かしい気持ちになりながら、渚の頭を撫でてやる。

 渚は昔からこうすると泣き止んでいた。


 ××××××××××


「んん……」


 その後、しばらくして落ち着いた渚は、少し恥ずかしそうに咳払いをして、


「それでお兄ちゃん、いつこのエリアに来たの?」


 そんなことを聞いてきた。


「ああ、来たのはエリア10のエリアボスを倒して直ぐだぞ……そういえば、俺はどのぐらい寝てたんだ?」


 窓から外を眺めると、陽は沈みかけていた。

 もしかして、俺はまた何日も眠っていたのだろうか?


「北原さんは大体五時間ぐらい寝てました」


 俺の疑問に答えたのは、渚の隣に立つ女の子だった。

 中学校の体操服を着て、長い黒髪をポニーテールに纏めた女の子。

 確か、この子は俺が目を覚ました時にベッドの横に座っていた女の子だ。

 ずっと側にいてくれたのだろうか?


「あの……私、酒井陽毬って言います。渚ちゃんとは友達で、今は一緒にパーティを組んでて……」


 酒井と名乗った女の子は、少しオドオドしながら自己紹介をする。

 そして突然、覚悟を決めたようにその表情をぐっと引き締めた。


「その……助けてくださってありがとうございます! 私、魔サイから逃げる時に足を挫いちゃってて、きっと北原さんが助けてくれなかったら、死んでました!」


 俺に向かって勢いよく頭を下げる。


 あの時、渚がエリアボスの突進を喰い止めたのは、一分にも満たない時間だった。

 あのままだったら、どのみち他のメンバーもやられていただろう。

 それゆえに、俺は渚だけを助ける選択肢を捨てて、なりふり構わず『天空神の雷霆』を使用したのだった。


「それにあの時は凄く怖くて、思わず渚ちゃんに助けを求めちゃって……それで……」


 酒井さんは自分の選択を後悔しているのか、辛そうに言葉を詰まらせた。

 自分が助けを求めた事で、渚まで危険に晒してしまったと、そう後悔している様だ。


「こうして生きてるんだから、そんなに気にしなくていいんじゃないか?」


「でも……」


「そうだよ陽毬、自分を責めなくていいんだよ。私が助けたくて助けたんだから」


「渚ちゃん……」


 渚は酒井さんの震える手を取り、優しく微笑みかける。


「だからそんなに自分を責めちゃダメ」


「……うん」


 酒井さんは少し照れたように頷いた。

 俺はそんな二人を見て思わず頬が緩む。

 昔は泣き虫だった渚が、こんなに立派に成長しているなんて……なんか感動するなあ。


 そんな俺の視線に気づいたのか、二人は急に顔を赤くしてパッと手を離した。


「そ、そういえば北原さん、もし良ければフレンド交換しませんか……!」


 酒井さんは誤魔化すように話題を変えた。


────────────────────

フレンド


野中 詩織 ♡♡♡

高城 夢  ♡♡♡

縁川 唄葉 ♡♡♡

北原 渚  ♡♡♡♡

酒井 陽毬 ♡

────────────────────



「え!? 詩織さんの名前があるじゃん! なんで!?」


 渚は俺のCWを勝手に覗き見て驚愕する。


「ああ、実は、詩織さんは今我が家に避難してるんだよ。それで色々と一緒にいる内に流れでな」


「ええ、何それ羨ましい!!」


「羨ましいって、お前なあ。こっちにも色々あったんだぞ?」


 俺は渚に呆れつつ、このエリアに来るまでの経緯を簡単に説明してやった。

 そして流れで、お互いのステータスを見せ合うことに。


────────────────────

 名前:北原 弓弦

 レベル:45


 体力:54,373

 筋力:57,490

 耐久:33,445

 魔力:40,254

 敏捷:24,345


 スキル 0/10


 使い魔


 称号

「初回10連ガチャで全ての運を使い果たす者」


────────────────────


────────────────────

 名前:北原 渚

 レベル:11


 体力:1,890

 筋力:1,042

 耐久:1,468

 魔力:2,521

 敏捷:450


 スキル 5/10

「重力魔法」


 使い魔


 称号


────────────────────


「ステータス高っ!?」


 俺のステータスは、エリアボス討伐と『斎庭の稲穂』の影響で、数値が爆上がりしていた。

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