第31話 レギオン
その後、俺は渚に案内されて、他の生存者たちが寝泊まりしているという体育館に向かった。
どうやらモンスターが溢れて直ぐ、この中学校は避難所として利用されたらしい。エリア6内の生存者は殆どがここへ集まっていた。
確かに、広々とした体育館には、テントや毛布がずらりと並べられ、多くの人が寄り添って生活していた。
「お兄ちゃんはちょっとここで休んでて。今、会長を呼んで来るから」
渚に言われ、俺は体育館の隅にある簡易ベッドに腰を降ろす。
「北原さん、お腹空いてませんか? 私何か食べ物持ってきますね。ちょうど食料ガチャで良さそうな食料がいっぱい手に入ったんです」
「ああ、ありがとう酒井さん。でも、そんなに気を使わなくてもいいよ。酒井さんも疲れてるでしょ?」
「いえ、大丈夫です! 任せてください!」
俺がそう言うと、酒井さんは嬉しそうな表情で、パタパタとどこかへ行ってしまった。
そうして二人を待っている間、やる事が無い俺は体育館の様子を眺め回す。
体育館には、子供からお年寄りまでたくさんの人が、身を寄せ合うように生活していた。
皆、顔には心労の色が浮かんでいる。
しかしそんな中でも、中学生らしき生徒たちが積極的に動き回り、他の生存者たちを手助けしていた。
そこでふと、違和感を覚える。
「お待たせしました、北原さん。食べ物を持ってきました」
両手いっぱいに食料を抱えた酒井さんが戻ってきた。
「も、もし嫌じゃなかったら、隣で一緒に食べてもいいですか……?」
「うん?……ああ、もちろん。どうぞ」
俺は笑顔で答えると、酒井さんが座れる様に少し端へ移る。酒井さんは隣に腰掛け、嬉しそうに食料を床に並べ始めた。
「酒井さん、ちょっと一つ聞いてもいい?」
「は、はい! 私で良ければなんでも聞いてください……!」
変に気追い込む酒井さん。
「えっと……ここに居る生存者って、なんか偏ってる気がするんだけど、戦えそうな大人達はいないの?」
俺の違和感に、酒井さんは「その事ですね……」と言うと、そっと表情を曇らせた。
「実は……戦える他の大人たちは、六日前のエリアボスの襲撃でほとんどやられてしまったんです。ちょうど食料ガチャのアップデートがある前で、食料調達に行ってる最中の出来事でした。どうにか生き残った人たちも戦意を喪失してしまって……」
酒井さんは言いづらそうに言葉を詰まらせた。
ここのエリアボスだった『魔サイ』。
渚から2回襲われたと聞いていたが、1回目の被害はかなりのものだったようだ。
それでも、全く大人がいないわけではない。
現に、体育館の扉から見える校庭では、テントの下で大人達が何かの作業に追われていた。
「ん? 今思ったんだけど、あの人たち大丈夫なの? 普通に校庭で作業してるけど……」
ちょっと不用心じゃ無いだろうか。
周囲からはっきり見えるような校庭で作業するなんて、危険にも程がある。
あれでは、どうぞ襲ってくださいとモンスター達に言っている様なものだ。
「その件については、私が説明します」
すると俺の疑問に、別の声が答えた。
振り向くと、そこには渚と同い年ぐらいの少女が杖を突いて立っていた。
隣には渚がいる。
「初めまして……こほっ、私はここのリーダーをしている
西園寺と名乗った女の子は礼儀正しくお辞儀をする。
中学の制服をきっちりと着こなした、真面目そうな女の子だ。
足が悪いのか、杖に支えに立っている姿は病弱な印象を与えた。
もしかして、モンスターに襲われて怪我でもしたのだろうか?
「この足は生まれつきですから、気にしないでください……こほっ」
「あ、ああ、分かった……俺は──」
「北原弓弦さん、ですよね。当然知ってます。本当に渚さんのお兄さんだったなんて驚きました」
やはり、CWのせいで初対面の彼女にも俺の名前を知られていた。
この子も俺の事を宇宙人とか思っているのだろうか? 緑川さんみたいに。
だとしたら悲しいな。いや、渚から話を聞いているはずだから大丈夫なはずだ。
現に酒井さんは普通に接してくれているし。
まあ、それはいいとして。
俺は西園寺さんに、外に出ている人たちの説明を求めた。
「単純な話です。この中学校は今、ほぼ全域が安全地帯になっているんです。それで、ここにいる限りはモンスターに襲われる心配はありません」
「んなっ!?」
彼女の口から出た言葉に衝撃を受ける。
安全地帯。そんなものが存在したのか!
確かに、ここにいる人たちは皆疲れ切ってはいるが、モンスターの恐怖に怯えている人は誰もいない。
「そ、それは何かのアイテムの効果なのか?」
「いえ。安全地帯の作成はレギオンの特権の一つです。私がレギオンのリーダーとなり、この場所を安全地帯に設定しました」
「レギオン……!? 詳しく話を聞かせてくれないか!?」
「もちろん構いません……こほっ」
西園寺さんはどこから話そうかと少し思案する素振りを見せ、話し始めた。
「まず、私は初回10連ガチャで、『レギオンチケット』と言うアイテムを引き当てました。これを使って、レギオンを作成したんです」
なるほど、レギオンを作るには専用のアイテムが必要だったか。
どうりでいつまで経っても機能が解放されない訳だ。
そのアイテムが無いと、レギオンを作ることはできないと。
それなら多分、あのヘンテコな称号を持つ俺には一生縁の無い話だろう。
「レギオンを作成した者はレギオンリーダーとなり、三つの特権を得ることになります。一つは安全地帯の設定です」
モンスターが溢れるこの世界で、完全に安全な場所を確保できるのは大きい。
そしてこの安全地帯は、レギオンのメンバーが増えれば増えるほど範囲を広げられるみたいだ。
ちなみにレギオンには、リーダーである西園寺さんが許可すれば誰でも入れるらしい。そして入った者はレギオンメンバーとなる。
どうやら渚も既にレギオンメンバーの様だ。
「二つ目は『レギオンガチャ』です。これはレギオンリーダーである私のみが引けるガチャで、他のレギオンメンバーは引けません」
レギオンガチャ……。
まさか、食料ガチャ以外にも別のガチャが存在したとは。
「そのレギオンガチャってのは、どんなアイテムが出るんだ?」
「基本的には通常ガチャと変わりません。ただ、レギオンガチャから出たアイテムは、レギオンメンバー全員が共有して使う事ができます。使用時はリーダーである私の許可が必要なのと、安全地帯での使用のみに限られますが」
「つまりは、レギオン専用のアイテムというわけか」
「はい。例えば、『回復薬』や『魔力の果実』などのアイテムは安全地帯でしか使用できません。これが武具になると、装備の解除はどこでもできますが、装備できるのは安全地帯のみになります」
「なるほど……それはなかなか厄介な制限だ。あとの一つは?」
「最後の特権は、レギオンミッションの選定です。実は、今説明した『レギオンガチャ』は、通常のGPでは引けず、特殊なポイント──レギオンポイントが必要になるんです」
ふむ。レギオンミッションに、通常では手に入らないレギオンポイント。それはつまり……
「レギオンミッションをクリアすると、そのレギオンポイントが貰えると?」
「はい、おっしゃる通りです。私の元に、毎日ランダムな内容のレギオンミッションが複数届きます。それを、達成できそうなレギオンメンバーに振るんです」
どうやら、このレギオンミッションは、「ジャンプ10回」とかしょうもないミッションから、「一分間でモンスターを10体討伐」など高い難易度のミッションもあるらしい。
「もちろん、ミッションが難しければ難しいほど、貰えるレギオンポイント──通称LPは多くなります」
そう言うと、西園寺さんは急に眩暈でも起こしたかの様にふらついた。
とっさに渚に支えられる。
「ふぅ……今日は少し話をしすぎました」
どうやら元々身体が弱いのか、辛そうな表情を見せる西園寺さん。
それでも、まだ話を切り上げるつもりはないらしい。
「今、私の元にはとても達成できそうに無いミッションが溜まってきました。もし、北原さんさえ良ければ、私のレギオンに──」
西園寺さんが何かを言いかけたところで、他の生存者から起こったどよめきが、西園寺さんの言葉をかき消した。
そして、一人の男性が歓喜の声を上げる。
「おお! 長野市のエリアが解放されたぞ!」
その声に導かれる様に、俺は直ぐさまCWを開いて確認する。
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長野市エリア3
エリアボス:フォレストタートル
討伐者:東雲咲夜
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こうして遂に、俺以外のプレイヤーがエリアを解放したのだった。
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