第18話 強襲

 未だ数の利がある現状にも関わらず油断を捨て、警戒心MAXで戦闘態勢に入る男たち。俺は無意識に手の武器を強く握りしめた。


「ごめんなさい。余計にマズい状況になったわね」


「いえ、今のは高城さんのせいじゃないですよ」


 どんな特殊能力を秘めた武器を持っているか分からない現状、俺のエリアボス討伐という肩書きは強い抑止力として働くはずだ。

 にも関わらず対峙してくるとは、余程血の気の多い人たちなのか、自分の力に絶対の自信があるのか。

 どちらにせよ、高城さんと緑川さんに危害を加えるつもりなら、俺は覚悟を決めて戦うまで。

 モンスター以外と戦いたくない、なんて戯言を言ってる場合じゃない。そういう弱さは、あのウサギを殺した時に捨てた。


 リーダーと思しき背の高い男の手には長剣が、左右に位置取る男二人もそれぞれ異なる武器を装備している。彼らの武器にはいったいどんな能力があるのだろうか……


「先に彼らの武器の特徴を教えとくわ。まずリーダーの男が持ってる剣は『フルグライトソード』。電気を帯びてる剣だから感電に気をつけて」


「そういえば高城さんは、彼らと元パーティーメンバーでしたね」


 ものすごく助かる情報だ。


「右の男の武器は『アイスフレイル』。連節棍の先に付いてる棒が氷になってて、冷たい霜を発生させられるわ。左の男が使ってるのはただの刀よ」


「はっ、情報が古りぃな、夢」


 と、リーダーの男が笑った。


「昨日ゲットしたスキルを見せてやるよ──スキル『ドッペル』ッ!」


 言うと、男の影から人の形をした黒い塊がゆっくりと這い出て立ち上がった。

 這い出た塊は男と同じ背丈で、まるで影そのもの。立体的な分、影よりも不気味だった。


「行けッ!」


 男の指示を受けて影が襲いかかる。同時に左右の男二人も武器を構えて走り出した。

 俺は先程補給したペットボトルを三つ、三叉槍の能力で浮かせると三人に対して同時に発射。

 水が入ったペットボトルが勢いよく三人に迫り、


「チッ! 念動力のスキルでも持ってんのか?」


 スキル『ドッペル』には命中。

 影はそのまま霧散して消えてしまった。

 どうやら相手はスキルを獲得したばかりで、うまく扱いきれていないようだ。

 左右の二人には避けられてしまったが、動きを止めることには成功。


 俺は即座に右の男へ駆け出す。

 男は俺の動きに反応して氷の棒を振り上げるが────遅い。

 アイスフレイルが振り下ろされるよりも早く懐に入った俺は、右手の拳で鳩尾に一発叩き込んだ。


「ぐふぅッ」


 その一撃で苦しそうに膝をつき、動けなくなる男。

 拳からは男の肋骨を砕く様な感触が伝わってきた。まるで豆腐でも殴っているような脆さだった。


 これで2対2。俺がリーダーの男を相手して、もう一人を高城さんに任せよう。

 高城さんのレベルが9だから、他の男たちもそれと同じぐらいだと判断できる。

 レベル28の俺にとっては、あの狼より楽な相手かもしれない。


「んだよその速さは……!? チートだろ!」


 リーダーの男が表情を歪ませて後退る。

 どうやらレベルによる身体能力の差は大きいようだ。


 リーダーの男もさっさと倒して高城さんの方に加勢しよう。

 そう考え、動き出そうとした時──


「健斗ッ! ヤバい、アイツが来る!!」


 もう一人の男が焦ったように大声を上げた。


 ヤバい? アイツ? 急にどうしたんだ……?


「彼、なんで急に焦り出したんですか?」


 俺が尋ねながらチラリと高城さんの方を見ると、その表情は硬く強張っていた。


「もう一人の男は『危険察知』ってスキルを持ってるのよ。それがあんだけ慌てるってことは────」


「GROAAAAAAAAAAAAA!!」


 遠くから獣の叫び声が響いてきた。

 声の聞こえた方を見ると、車道をものすごい勢いで走る真っ黒な熊が一匹見えた。熊はコチラへ一直線に向かってくる。


 このエリアで気をつけるべき三体の強力なモンスター。

 その内の一体、ポーンベアー。


「おい! 逃げっぞ! 早くしろ!」


 あれほどイキっていた男たちは一目散に逃げ出してしまった。


「あたし達も早く逃げるわよ!」


 高城さんの悲鳴にも似た指示が飛ぶ。


 けれど、俺は迫るポーンベアーに向けて槍を構えた。

 こちらへ向かってくるポーンベアーの視線は、既に逃げる男たちではなく、俺たち三人に向けられている。

 その瞳に知性の欠片は感じられず、ただ『殺す』ことのみに執着しているようにギラついた殺意を纏っていた。

 きっと、このまま三人ともは逃げ切れない。

 ステータスで強化されてる俺と高城さんは大丈夫かもしれないが……緑川さんが一番危険だった。


「ポーンベアーは俺が食い止めますから、二人は先に逃げてください……」


「──ッ!? あんた正気!? 死ぬかもしれないのよ!?」


「二人が逃げ切ったら俺も直ぐに逃げますから、お願いします!」


「でも……!」


「緑川さんのためにもお願いします!」


 まだ迷っている高城さんに、俺はもう一度叫んだ。


「……分かったわ。絶対に後で合流して! 死んだら承知しないから、約束よ!」


「はい!」


 緑川さんの手を取って走り出す高城さんの背中に向けて、力強く返事をする。

 そしてポーンベアーが二人を追いかけないように、その行手を阻むよう立ちはだかった。

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