第16話 ひまわり野郎

 高城さんから話を聞くと、どうやら俺と出会う前の彼女は一人で食料調達をするつもりだったらしい。

 それでソロで探索していたところを運悪く地底鰐二匹に会敵してしまい、死を覚悟した。

 しかし、そんな絶体絶命のピンチの折に、間一髪のところで俺の加勢が加わり、九死に一生を得たという。

 そんな高城さんは、俺にどう感謝していいか分からない程だった。


「夢ってば、北原くんが寝ちゃった時すごい焦ってたもんねー。出血多量で死んじゃったんじゃないかって」


「ちょっと、うた! それは言わない約束でしょ!」


「えー、そんな約束したかなー」


「あはは……それが本当なら助けに入って良かったです」


 現在、俺たちは三人で食料調達に赴いていた。

 一人ではやはり危険が大きいと言う判断で、俺と緑川さんも含めた三人での食料調達。少しでも多くの食料を確保するためにも頭数は多いに越した事はない。

 ちなみに、避難者が大勢いるショッピングモールでは食料調達が見込めないため、コンビニやスーパーを順番に巡ることに。

 近くにある店舗を三人でしらみ潰しに巡っていく。


「そうだ。私たちのレベルと所有してる武器も教えるわね」


 と、拠点から近くのコンビニへと向かっている途中で高城さんがそんな提案をした。


「私はレベル9。主な武器はこれ、星3武具『アッシャーの鉤爪』。この鉤爪で相手を切り裂くと、動きを少しだけ鈍らせることができるの」


 右手に嵌められた鉤爪を見せてくる高城さん。手甲から長く伸びる四本の鉄の爪は、恐ろしい鋭さを誇っている。


「結構強そうな能力が付いてるんですね」


「んー、そうでもないわよ。鈍らせるって言っても本当に僅かなの。4、5回ほど攻撃を当てて始めて効果が実感できるぐらいだから、ちょっと微妙かな」


「そうなんですね」


「ちなみにわたしはレベル3だよ。そしてご存知の通り、スキル『ヒール』ね。ケガしたらなるべく血を見せないようにわたしに言ってね」


 グッと親指を立てながら、ウインクを見せる緑川さん。


「あ、はい。気をつけます」


「ついでに、ここで気をつけなくちゃいけないモンスターも教えとくわ。まずはさっき戦った地底鰐。地面に潜られると厄介だから、できれば地上にいる間に倒したいところね」


 地底鰐──海神の三叉槍の地震で対処できる俺としては、それほど注意すべきモンスターではないのかもしれない。

 とはいえ、油断できる相手ではないのは確かだ。


「あと気をつけるべきは『ひまわり野郎』ね」


「ひまわり野郎……ってなんです?」


「名前知らないから私が勝手にそう呼んでるモンスター。多分ここのエリアボス。キモい見た目してるからすぐ分かると思うわ」


「え!? エリアボスを見たんですか!?」


 高城さんの口から出たものすごい情報に俺は驚いた。

 このエリアを一刻も早く出たい俺にとってエリアボスとの戦闘は避けられない。

 そのため、どんな些細な情報でも欲しいと思っていたところ。

 まだ姿すら見ていない俺にとって、高城さんの情報は値千金だった。

 キモい見た目ってのはイマイチ具体性に欠けるけど。

 

「そいつの強さも分かりますか?」


 俺の問いに高城さんは頷いた。


「他の生存者とパーティを組んでた時に一度だけ戦ったの。蔦を使って攻撃してくるだけで、そんなに強くなかったわ。でも、どんだけ攻撃してもすぐに傷が回復するから倒すの諦めた」


 蔦での攻撃に、驚異的な回復力か……

 その情報だけでは攻略の糸口は掴めないが、エリアボス討伐は思ったより早く達成できるかもしれない。


「まあ、ひまわり野郎は見かけても無視すればいいとして、それより厄介なのがポーンベアーね。こいつは尋常じゃないぐらい強いから、出会ったら即逃げたほうがいいわ。見た目は黒毛の熊で、身体の所々に甲羅みたいなのがくっ付いてる」


 ポーンベアーか……熊と聞いて思い出すのは、エリア13のアビスベアー。

 あいつも大きさこそ尋常じゃなかったが、熊と同じ見た目をしていた。

 高城さんの口ぶりからして、地底鰐より危険みたいだ。


「大体はこの三体かな。三体とも遭遇率は低いから、気を付けていれば問題ないわ」


 と、高城さんは締め括った。


「一つ聞きたいんですけど……ひまわり野郎と戦う時にパーティを組んでたってのは、フレンドのところにあるパーティのことですか?」


「ええ、そうよ……あ、そうだ。お互いフレンド登録しない? しておくと色々と便利だし。まぁ嫌なら別にいいけど……?」


「そんな訳ないないです!」


 というわけで、話の流れから俺は二人のフレンドをゲットした。


────────────────────

フレンド


野中 詩織 ♡♡♡

高城 夢  ♡♡

縁川 唄葉 ♡♡


────────────────────


 ハートは既に二つゲージが埋まっているため、二人と『メール』『パーティ編成』が出来る。


「夢ちゃんの弓弦くんハートは何個になってるのー?」


 と、縁川さんは高城さんのCWを無遠慮に覗こうとした。


「ちょっ、勝手に覗かないでよ!」


「えー、いいじゃん別にー。そんなに隠すなんて怪しいなー」


 何が怪しいのだろうか?

 よく分からないが、縁川さんは相変わらず掴めない人だ。

 

「もし良ければ、パーティを組んでみませんか?」


 わざわざ機能として備わっているのだから、なにかしらメリットがあるのだろう。

 俺としても知らない人より、二人とパーティを組んでみたい。それにエリアボス討伐に役立つかもしれないし。

 そう思っての提案だったのだが、高城さんは意外にも、


「んー、パーティを組むのはやめておいた方がいいわよ」


そんな事を言った。


「どうしてですか?」


「パーティを組むと、モンスター討伐時の獲得経験値とGPが減るのよ。1人がモンスターを討伐しても、パーティメンバー全員に配分されるから」


 ふむ……なるほど。

 つまりは三人でパーティを組めば、経験値は三等分。それはかなりのデメリットだ。


「でも当然メリットもあるわ。パーティにはパーティレベルってのがあって、レベルを1上げると経験値とGPの獲得量が増えるし、特殊な機能が1個開放されるの」


「その特殊な機能ってのは何です?」


「私がパーティを組んでた時はレベルは1しか上げられなかったんだけど……その時は、パーティメンバーの位置情報の共有だったわね」


「なるほど。それは結構有能な機能ですね……」


 さらにパーティレベルを上げていけば、別の機能も追加されるらしい。

 そう考えると、パーティを組むメリットは大いにある。

 それに経験値とGPが配分されるのも、見方によってはメリットとして捉えられる。

 とはいえ、今の俺にとって経験値が減るのはかなり痛い。GPはどうでもいいが。

 残念だけど、安易にパーティを組むことはできないらしい。

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