第8話 ガチャと称号

 自分で探る、とは言ったもののまだ体は万全ではないため、しばらくは体調を整えることになりそうだ。

 そういえば、さっき日付を確認するためにスマホを見た際、母と妹の心配したラ○ン通知がロック画面に鬼の様に溜まっていた。

 通知が来た時はちょうど気を失ってたから返信が出来ず、そのまま放置されていた。

 自分の無事を返信しようにも、すでにアプリは機能を停止しているから不可能。よく見るとスマホはネットにすら繋がってない。

 これもゲームの影響なのだろう。世界が混乱して三日も経てば、様々なインフラが機能しなくなるのも当然の話か。


「ごめんね、私疲れちゃったからちょっと横になる」


 三日間の看護とモンスターの襲撃によって神経をすり減らしていた野中さんは、俺が起きた事により安心したのか、ソファーで寝てしまった。

 俺としては、野中さんが眠った事によって、無駄な緊張をせずに色々と現状について考えられるのでありがたかった。


 俺はまず初めにCWを開いた。

 今、俺がこの世界を生きるために重要となってくるのは、やはり運営から与えられたCWになる。

 映し出されたホーム画面に二つの変化が現れていた。

 まず、ゲームが始まる前は空白になっていた右側のアイコンに『エリアボス襲来』の文字が書き込まれていた。

 同じ言葉がゲーム開始時に表示さたのを思い出す。

 今も外には空まで伸びる巨大で透明な壁が薄らと確認できる。

 突然現れたこの透明な壁が、街を取り囲んでエリアを形成しているのだ。


 そのままアイコンをタップすると画面は切り替わり、新しく日本地図が画面に映し出された。

 その地図は簡略化されたシンプルなもので、ズームするとそれぞれの県の市町村まで見ることが出来た。

 どの県の市町村も例外なく線が引かれ、いくつかのエリアに分断されていた。

 ここに書かれた線が外にある透明な壁と一致する。

 俺が住んでいる金沢市を見ると、13のエリアに分断され、俺がいるのはエリア13。


 次に俺はホーム画面に戻って剣のアイコンに注目した。

 初めて見た時は何を表しているか分からなかったそのアイコンが、今は右上に『㊲』とマークが付いている。

 タップして開いてみた。


────────────────────

 アビス・ベアーを討伐。

 100,000EXPを獲得。

 レベル2に上がりました。

 レベル3に上がりました。

 レベル4に上がりました。

 レベル5に上がりました。

 レベル6に上がりました。

 レベル7に上がりました。

 レベル8に上がりました。

 レベル9に上がりました。

 レベル10に上がりました。

 アイテム上限が5増えました。

 レベル11に上がりました。

 レベル12に上がりました。

 レベル13に上がりました。

 レベル14に上がりました。

 レベル15に上がりました。

 レベル16に上がりました。

 レベル17に上がりました。

 レベル18に上がりました。

 レベル19に上がりました。

 レベル20に上がりました。

 アイテム上限が5増えました。

 レベル21に上がりました。

 レベル22に上がりました。

 レベル23に上がりました。

 レベル24に上がりました。

 レベル25に上がりました。

 5,000GPを獲得。


 エリアボス討伐ボーナスを獲得。

 体力+10,000

 筋力+10,000

 耐久+10,000

 魔力+10,000

 俊敏+10,000

────────────────────


「うわっ! めちゃめちゃレベル上がってる!?」


 出現したテキストには、レベルアップの文言が羅列していた。

 レベルが一気に25まで上がっていて、ボーナスまで貰っている。

 最初の『アビスベアーを討伐』との文章。アビスベアーは、あの時の巨大熊の名称だろうか。

 やはりあの落雷で倒せていたのだ。それで討伐者の俺に大量の経験値EXPが入ったのだ。


「この剣のマークは、バトルログだったのか」


 バトルログに書かれている情報が確かなら……


 俺はそのままステータス画面へと遷移。


────────────────────

 名前:北原 弓弦

 レベル:25


 体力:16,340

 筋力:18,144

 耐久:13,237

 魔力:17,780

 敏捷:10,820


 スキル 0/10


 使い魔


 称号

「初回10連ガチャで全ての運を使い果たす者」


────────────────────


「おお、色々上がってる……!」


 レベルとボーナスによって、ステータスの数値が飛躍的に上昇し、全て五桁に跳ね上がっている。

 ステータスの数値がどれだけ身体に影響を及ぼすか分からないが、これは嬉しい結果だ。

 今はまだ難しいが、能力の検証もおいおいしていきたい。


「最後はアレの確認だな」


 バトルログに書いてある魅力的な一文。

 多分、5000GPの"GP"はガチャポイントの略だろう。

 この『ジェネシス・ワールド』なるゲームで最も重要な鍵を握る『ガチャ』。

 モンスターを倒すことで、ガチャを引くためのポイントが貯められる仕組みなのだ。

 課金しなくてもいいのはありがたいが、その代わりにモンスターを狩らなくてはいけないらしい。


 俺はメニューバーを開き、『ガチャ』の画面に移った。

 やはり『ガチャ』の画面には1回と11連、それぞれに必要なGPが書かれており、一回引くためには200GP、11連では2000GPが必要となる。

 というわけで今の俺は、25〜27回引ける。

 これだけ引ければ、かなりのアイテムをゲットできそうだ。

 アビスベアーを倒すために三日も気絶したのは大きなブランクだったが、こう言う恩恵は素直に有難い。


 よし、引けるのなら今すぐに引いてしまおう。


 前回は運気が高まる0時まで待ったが、これから体調が戻り次第、外の様子を見に行くのだ。

 一刻でも早い戦力強化が望まれる。

 出来る事なら身を守れる防具なんかが欲しいところ。


 俺は逸る気持ちに押されて、11連のボタンを押した。

 今回はどうやら確定演出ではなく、通常演出。銅の扉が開かれ、その隙間から差し込む光が画面を白く塗り替える。

 そして、11個全てのアイテムが排出された。


────────────────────


       布マスク

       ポテトチップス

       眼鏡ケース

       安全ピン

       スピーカー

       サボテン

       竹馬

       乾燥機

       ガムテープ

       ネクタイ

       土偶


────────────────────



「は!? な、なんだこのゴミは!?」


 俺は思わず立ち上がり、叫んでしまった。


 ありえないだろ! なんなんだこの大爆死は!

 最初に確認した限りでは、星アリと星ナシのアイテムの排出確率は半々だったはず。

 それなのに、全てのアイテムが星ナシ……冗談だよな?


 そこで俺はふと、この悲惨な結果の原因が浮かんできた。


『初回10連ガチャで全ての運を使い果たす者』


 まさかあのネタ見たいな称号のせいなのか?

 俺は全ての運を使い果たして、星アリのアイテムが引けなくなったのか?


 それでも爆死の結果を受け入れる事が出来なかった俺は、震える指で再び11連のボタンを押した。

 キツく目を閉じ、手を握り合わせて神様に縋る。


────────────────────


       トイレットペーパー

       ふりかけ

       ハンガー

       弁当箱

       麻雀セット

       ストップウォッチ

       緑クレヨン

       板チョコ

       印刷用紙

       哺乳瓶

       蛍光ペン


────────────────────


「終わった……」


 深い絶望が込み上げてくる。

 ……やっぱりだ。22回連続でこの結果は、もはや偶然とは思えない。


 俺はガクリと項垂れる。

 あと五回引く事ができるが、結果は目に見えているので辞めた。

 もう星アリのアイテムを手にする機会はないと見ていいだろ。

 これから俺は、どうやってこの世界を生き抜けばいいんだろうか?

 星5の武具である『天空神の雷霆』と『海神の三叉槍』だけが頼りだと言うのか。


 その後、不名誉な称号をステータスから外そうといろいろ試したが、無理だった。

 仕方がないので、諦めて気を休める事に専念する。


 ××××××××××


 しばらくして体調が戻った俺は、外へと出る決心を固めた。


「やっぱり外に行くの?」


 準備を進める俺に、既に起きていた野中さんが心配そうな声色で尋ねてくる。

『救助が来るまで待とう』と言わないのは、この三日間でそんなものは来ないと痛感しているからなのだろう。


「このまま家に閉じこもってても何も始まりませんから」


 食料も無限じゃないためいつか尽きる。そのいつかに備えて、外には出なければいけない。たとえあらゆる危険が渦巻いていようとも。

 野中さんはそれ以上何も言わなかった。


 万が一の状況に備えて武器も装備しておく。今回は星5の武具『海神の三叉槍』を選んだ。

 防具も身に付けて万全にしたい所だが、残念ながらガチャで出なかったため諦めるしかない。

 まぁ今回は現状を知るために外に出るだけだ。

 モンスターと戦う予定はないし、万一アビスベアーの様な敵と出会したら命一番で逃げればいいだろう。


『天空神の雷霆』と同じ様に、突如現れた『海神の三叉槍』を握り、玄関の前へと立つ。

 そのまま扉に手を掛けゆっくりと開けた。


「なっ!?」


 扉の先に広がっていた光景に、思わず息が詰まった。

 そこはもう、俺の知っている日本ではなかった。

 激しく崩れた家の外壁に、窓ガラスの割られた住宅。電柱の何本かは薙ぎ倒され道路に横たわっている。余りにも日常からかけ離れた光景。


 特に酷いのが、あちこちに飛びちった血痕だ。

 家の扉を開けただけなのに、言いようのない不安に襲われる。

 このまま扉を閉め引き篭もっていたい衝動に駆られるが……それではなにも始まらない。


 まずは周りの様子だけでも確認しなくては。何かあったら直ぐ逃げ帰れば良い。

 俺は一つ深呼吸をし自分を落ち着かせると、意を決して一歩を踏み出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る